積読本より。べんせいのアンソロジーの第二期の一冊。タイトルに「白」という言葉を含むものを集めたアンソロジー。全て初読。
牧逸馬「白仙境」では、曽根家の主人英吾は得体の知れない「白仙境」という部落の恨みを買っていたそうだが、その英吾が失踪し屋敷の二階に西洋人と思われる男の死体が残された。外から侵入した形跡があったがその足跡は人間のものとは思われなかった。
主人公は英吾が残した緑色のオウムが喋る「ウーガン」という謎の言葉から意外な事実を掘り当てる。
短い枚数に圧縮されているが、これは伝奇小説にもユートピア小説にもなる話だ。発展させずにこの形で発表されたのが惜しい。
作者のものは『世界怪奇実話』シリーズしか読んでいないので初読だった。現代教養文庫なら二冊ミステリーがある
(→作品目録)。
早川四郎「白鳥扼殺」のヒロイン三谷京子は、面と向かった相手から視線を外すことがない精神力と自分を最も美しく見せる演技力を身に付けていた。彼女の母は精神病を発病して入院し、彼女を愛する義父とは血のつながりがなかった。京子につきまとう幼なじみの思慮の浅い行動が悲劇を生む。
ヒロインの描写はそれなりによいが、題名でネタが割れるように構成に難あり。
古銭信二「白い死面」で、陽子は姉の突然の死に不審なものを感じて姉婿の井原省三の素行調査を旧知の興信所所長古銭信太郎に依頼する。果たして省三には愛人があって、彼が妻を殺すことも十分考えられることがわかった。残された姉の自筆の遺書にも説明は付けられる。しかしそれでも省三のアリバイが崩せぬものとして残った。
実現可能なトリックを複数組み合わせた本格ものであり、なおかつ登場人物一人一人の造形も的確である。
作者には奇抜な発想で記憶に残る「猫じゃ猫じゃ」がある(→作品目録)。あれほど妙なものではないが、こうして他の作品が読めるのは非常に嬉しいことであった。
鷺六平「白足袋の謎」は、犯罪実話。詐欺で逮捕された男の新妻が刑事と称する男に呼び出されて殺された。犯人と目された男は取調べ中に発狂して脳病院に送られたが、やがて脱走して姿を消した。真犯人は十一年後に別件で逮捕される。
犯罪実話だから謎らしいものもお座なり。真犯人に遺留品の足袋が合わなかった理由が実にいい加減。
中村豊秀「白い幽霊」は、村の巡査の事件簿。寺の墓地で死んだ男がいたが、その内縁の妻は幽霊を見て驚いたせいだと言う。本気にする者はいなかったが、その後に白い幽霊を見るものが相次いだ。巡査は毎晩毎晩の張り込みを続けたが。
いなか、の、じけんであり、そこそこユーモラスではあった。でもさほどたいした話ではない。
葉糸修祐「白い浮標」では、新宿のクラブの売れっ子ホステス小日向絢子は新人歌手の佐川譲治に惚れて、どんなことをしても彼を成功させようと心を決める。プロデューサーには金を贈り、作曲家には色仕掛けでいい曲を回してもらう。ところが歌手として売れてきた譲治は絢子の前に姿を現さなくなった。
都会派風俗小説だが安っぽい。ミステリーではない。こんなものわざわざ読みたいとは思わない。
田中貢太郎は二編。「赤い鳥と白い鳥」は、寡婦と二人の娘の因縁話
「白いシャツの群」は、悪党仲間と警察から逃げようとする男が不思議な空間に落ち込んでしまう。
作者は怪談で有名。私はなんとこれが初読になったらしい。
こんなものを再録する意味があるのかと思われる作品も複数含まれあまり質の高いアンソロジーではない。古銭信二は嬉しかったが。