べんせいの罠を視点に置いた作品を集めたというアンソロジー。収録作はすべて初読。
加納一朗「幻覚殺人 明日はもうこない」は、女に振られた男が奇妙な占い師に会って渡された呪いの人形の綺譚。
あまりにストレートすぎる。
著者は<宝石>の頃から書いていて、近年まで作品を発表していた大ベテラン。
甲賀三郎「惣太の受難」は、短気な盗っ人、気早の惣太ものの一つ。迷子の女の子を家に帰してやろうとした惣太は悪党夫婦につけいれられて散々な目に会う。小品。軽すぎる。
気早の惣太ものは全七編らしい
(→作品目録)。
渡辺啓助「母の秘密」は、アパートに母一人娘一人で越してきた親子のこと。娘は母親が住みなれた屋敷にこっそり戻って何かをして来たのを知り、母が何か秘密を持っているのを初めて知り疑いの気持ちを持つ。ちょうど娘には職場で知り合い急接近してくるいわくありげな男がいた。
若い女性が主人公のものだが、ちょっと古めかしくいまいち。
これはアンソロジー初収録
(→作品目録)。
大下宇陀児「手錠」は、つかまった強盗殺人犯とそれを護送する刑事の話。車も馬車も越えられない雪の峠を刑事と殺人犯は一つの手錠でつながれて行く。犯人はまだ逃亡をあきらめたわけではない。そんなときに突発的に起こったのは……。
極限状況下の人間ドラマを描いてそこそこよかった。
これもアンソロジー初収録
(→作品目録)。
藤波浩「失われた夜の罠」は、女に麻薬を与えて虜にする産業スパイ団の暗躍。
あまりにも通俗的。
高梨久「洒落た罠」は、殺された女の合成ヌード写真が明るみに出たため警察に疑われた男のこと。
謎にも謎解きにもなっていない。ひどく粗雑。
奥田野月「罠の罠」は、徳田探偵と狼団の対決。明日の夕方六時までに戻ってこなかったら警視総監に届けてほしいと書類を託された語り手は期限の時刻をひたすら待つ。そこにやってきたのは二人の人物。
これは面白い。名探偵対盗賊団という昔懐かしい設定であるが、その中で思う存分遊んでいる。
奥田野月は角田喜久雄のアナグラム。かなり初期の作で、これもアンソロジー初収録
(→作品目録)。
鵠沼二郎「陰花の罠」では、社長令嬢との結婚を控えそれまでの身辺を整理にかかった男が罠にかかる。同性の恋人の死に警察から疑いをかけられ、アリバイを証明してくれるはずの女性もそれを突っぱねた。
これも真相はばればれだしトリックは超有名作からの借用だし、あまり高い評価はできない。
どうも収録作の選定が不鮮明。わざわざ今になって取り上げる価値があるとも思えない作品がかなり混じっている。
なかなか読めない作品があるのはありがたいが。宇陀児と喜久雄だけでも私には読む価値があった。