ミステリー文学資料館編の探偵雑誌アンソロジーの第六弾。
「猟奇」とは、佐藤春夫がCurious Hantingの訳を猟奇耽異としたことに由来し、もともとの意味は文字通り「奇を猟る」ことである。現在のようなエログロの意味合いが入ったのは戦後になってからである。
探偵雑誌<猟奇>は関西を根拠地とした同人誌。1928年5月創刊、断続しながらも1932年まで発刊。辛口の寸評欄に人気があったという。
今回の収録作は夢野久作と城昌幸のもののみが既読で後は全部初読作だった。
夢野久作「瓶詰の地獄」は、作者の代表作の一つであり、日本探偵小説屈指の短編。久作の<猟奇>との関わりは深く、蚕が糸を紡ぐかのように毎号のように「猟奇歌」を寄せつづけた。
本田緒生「拾った遺書」は、タイトルどおり拾った遺書に書かれたある殺人の顛末。プロパビリティーの殺人としておそらく効果的。でも、おいおいこれはないだろう、もっとひねれよ、といった感じ。作者の力量としては並の部類の作品(→作品目録)。
角田喜久雄「和田ホルムス君」では、巡査のの和田君が細君の知恵を借りて自宅に押し入った泥棒を捕まえる。作者の力量から見ると最低級の話。
平林タイ子「ビラの犯人」は、停留所の柱に左翼的なビラを貼った犯人を巡査が路面電車に乗りこんだ三人の人物から探し出す犯人当て。小品。
作者はプロレタリア文学から出発して大家になってしまった。森下雨村に「プロレタリア作家にするのは惜しい。探偵小説を続けて書きなさい。」と言わしめたという初期作を読んでみたいものだ。
小舟勝二「扉は語らず(又は二直線の延長に就て)」は、夜の百貨店での怪事件。小品。
作者はデパート関係者らしく、<幻影城>にやはりデパートを舞台にした百枚ものが採録されているが、こちらは結構読める(→作品目録)。
津志馬宗麿「黄昏冒険」は、探偵趣味を実践しようとした男が陥った落し穴。小品。
長谷川修二「きゃくちゃ」は、ちゃっかり者の会社員をその上司が語るユーモアもの。
作者はライスやスタウトの翻訳で知られる。渡辺温が踏切事故で亡くなったときに同じ自動車に乗り合わせてもいた。
山口海旋風「雪花殉情記」は大陸もの。張作霖軍の将軍に婚約者を奪われた部下の復讐譚。短くまとまっているが、もっと長いものを読みたくなる。
作者は大連の<満州日報>社会部長で島田一男の上司だった。大陸や南洋を舞台にした冒険ものが得意で、<幻影城>にも一編収録されている
(→作品目録)。
岡戸武平「下駄」で、高等遊民の青年二人は近所の金持ちの一人娘が四のつく数字の電車に乗るのをためらったことからある犯罪をかぎつける。どうも今一つ面白くない。
作者は新聞記者出身で小酒井不木の助手となり、不木の死後にその全集の編集に携わり、その後博文館にも勤めた。江戸川乱歩の代作『蠢く触手』と怪作「五体の積木」で知られる(→作品目録)。
一条栄子「ペチィ・アムボス」では、露都ペテルスブルグで行き倒れた若い娘の来歴を物語る。独逸チェークスポンドに発し、東の流刑地パリンスカーまで許婚を尋ねた旅の果て。著者のものをいくつか読んできたが、これが一番面白かった(→作品目録)。
山下利三郎「朱色の祭壇」は、とある村での怪事件。因業な金貸しが殺され、監禁されていた狂人が逃亡し、村祭りを控えながらも不穏な空気に包まれる。疑いをかけられた男の娘の失踪。村長を付狙う覆面男。二人の刑事が対抗しながら事件に迫る。
デビューしたばかりの江戸川乱歩のライバルだった山下利三郎。今まで読んだのは短いものばかりで全然ぱっとしなかった(→作品目録)。これは中編と言えるだけ長さがある。
特に趣向というものはないが、力が入っているのがわかる。
城昌幸「死人に口なし」は、作者の代表短編の一つ。墓場からかかってくる不気味な電話が男の神経をとことんまでに脅かす。一応は合理的に解決がついても割り切れぬ思いが残る。
岸虹岐「吹雪の夜半の惨劇」は、四人家族鏖殺の惨事を若い刑事の執念が解き明かす。一種のダイイング・メッセージものだが作者の法医学の知識と結びつけたところに特色あり。
西田政治「肢に殺された話」は掌編。バカミスと言えばバカミスだが、これではいただけない。
作者は若くして亡くなった横溝正史の親友徳重の兄。投稿家としてのデビューも最も早い部類。翻訳家として知られるが、創作もいくつか読める
(→作品目録)。
山本禾太郎「仙人掌の花」は、胸を病んだ女性が匿名の男から贈られた油絵の画題。それを持ったまま彼女は嫁いだ……。完全に謎が解き明かされるわけではないが余韻が残る。
作者の文章はかなりうまい。長編『小笛事件』は未読だが、短編にいいものが多い(→作品目録)。
今回は小説よりもコラム「りょうき」の方が収穫だった。まさに言いたい放題で、プロもアマも大家も無名作家もバッサリである。一番笑ったのは、