オール・タイム・ベスト書評

高木彬光


(4)『刺青殺人事件』
 「この作品は、本格の三大トリックをすべて一篇の中におりこみ、その三点でそれぞれ新機軸を出している。」そういうふうに紹介されていましたが、どうも一つ足りないようです。でも、二大トリックしかなくても確かに新機軸だったし、神津恭介の推理も多少強引なところはありはしたけれども鮮やかでした。
 ところで、この作品の重要なモチーフになっているのはもちろん刺青です。それに関する知識が満載されています。特に刺青の人皮の標本を集める博士の話が面白かったですな。その手の話に興味のある人はぜひ読んでみてください。
  77点。但し時代色68点。



(6)『人形はなぜ殺される』
 これにはあまりにも有名なトリックが二つも使われています。一つは現在では使用不能の列車トリック、もう一つは死体隠蔽のトリックです。
 今では使えない列車トリックというと、ははあ、あれだなと気付く人もいるでしょう。そう、それです。それより簡単に犯人は割り出せてしまいました。
 でも、仮にそれを知らなかったとすればどうでしょう。まずわかりますまい。第一の殺人のときの人形の首の盗難。これが抜群です。手際も意味することも。
 死体隠蔽のトリックとは、私が大好きで普段言い散らしていたやつです。でも、出典がこれとは知りませんでした。
  82点。但し暗号度85点。


(25)『白昼の死角』
 私は
江戸川乱歩から国産ミステリに入りました。だから、松本清張以降から<幻影城>創刊までは私の関心の空白になっています。高木彬光にしても『刺青殺人事件』から『成吉思汗の秘密』にかけては幾つか読みましたが、その後はさっぱりです。
 しかし、この作品はそんな私にも非常な感銘を与えた倒叙経済推理小説です。ここに描かれた鶴岡七郎という男は、負の神津恭介ともいうべき悪の天才です。彼は直接殺人こそ犯しません。だが、彼の軌跡は破滅のみが残ります。倒産、自殺、発狂……。そんな彼を法で罰することは不可能なのです。“私はこれ以上の悪を知らない”という作者の言葉(腰巻)もあながち誇張とは思えません。
  75点。但し結核度74点。



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