条件反射の殺人

条件反射の殺人


 その別荘は山の頂にあった。主人は疲れると絶壁の端に立ち、「ヤッホー」と叫ぶ習慣があった。その主人を殺そうと考えた男、大きな犬を買い込んで訓練を始めた。綱を庭木の枝にかけ、片端に肉片を付ける。もう片端は右手で持ち肉片を空中に引き上げる。「ヤッホー」と叫んで右手を上げると、肉片が男の方ぐらいの位置に降りてくる。犬は肉片に飛びつき、男は肩を突かれて前につんのめる。これを毎日繰り返すうちに犬は「ヤッホー」と叫ぶだけで背後から飛びつくようになった。
 男は犬を別荘の主人にプレゼント。数日後の新聞に犬と主人が誤って崖の上から転落死という記事が出た。何食わぬ顔で葬儀に参加した犯人だったが。
 その帰り道、山腹を自動車を運転しながら降りてきた犯人の脇で、山登りの若い男女が「ヤッホー」。その途端、ハンドルを握っていた彼の右手はバネ仕掛けのようにはね上がり……。自動車は崖の下へと真っ逆様に落ちて行った。男もまたいつの間にか条件反射を身につけてしまっていたのである。



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