富岡多恵子『壺中庵異聞』

富岡多恵子『壺中庵異聞』


 著者は電話で横川蒼太(=平井蒼太)の死を知らされ葬式に駆けつける。そこで久々に同棲相手だった沼田ミツオ(=池田満寿夫)とも再会する。著者は横川の死が自分の人生のある時期の区切りになったと思い故人について回想する。

 豆本刊行を企てていた横川蒼太は、まだ無名だった沼田ミツオを銅版画家として見出す。沼田と同棲を始めたばかりの著者は、沼田の定収入がこの豆本のための版画をつくり且つ刷ることだけで得ているものだと知ってびっくりし、また生活全部が否応無しに豆本製作に巻き込まれるために豆本に漠然とした反感を抱く。
 二人の部屋に出入りするのは版元の横川蒼太だけ。蒼太の豆本に対する熱狂的態度がいつしか刷り師の沼田ミツオにも感染して、二人で喧々囂々とやりあっては奇っ怪なアイデアを出して行く。ときには採算も度外視されて。終いには著者自身も手先の器用さを見込まれ箱づくりに駆り出される。

 それから十年、改めて横川蒼太のことを知りたいと思った著者は、故人のうちを訪ね未亡人の話を聞き、また故人の文章を読んでみる。
 やがて訪れた横川蒼太の一周忌の会に参加した著者は、参加者のひとりひとりが順々に語る故人の思い出を聞く。

 小説化されてはいるが、かなり現実に乗っ取って書かれていると思われる。
 平井蒼太が豆本製作に携ったのは、兄乱歩の「屋根裏の散歩者」を豆本化したことが切っ掛けとなり以後のめり込んでいったと聞いていた。だが、こういう顛末だったとは予想外だった。
 意外な人物同士が意外な形で噛み合って行くのが面白い。人生とはそういうものか。
 著者が蒼太の風俗関係の仕事や豆本に関する記述を引用して感想を記していくが、原本が読みたくなる。平井蒼太の謎の人という印象は、深まることはあっても消えることはない。


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