まだ完全に腐ってはいなかった − 『ピーター・パンの殺人』

まだ完全に腐ってはいなかった


 私が辻真先の大ファンだったことを知っている人も残り少なくなりました。
 ソノラマ文庫だけに書いていた頃は本当に好きでした。斬新なトリックと周到きわまりない伏線と、そしてなによりも奇想天外なアイデアを私はどんなに愛したことか。ところが、『アリスの国の殺人』で推理作家協会賞をとってからおかしくなりました。メジャーになるに連れ、粗製乱造が目立ってきたのです。昔は“これは良かったな。これはさほどでもなかったな。”と読んでいたのに今じゃ“これはどーしようもなかったな。これはそんなにひどくなかったな、助かった”になってしまいました。それでも私は辻真先を捨てられませんでした。
 そしてこれを読んで捨てずに良かったとつくづく思いました。現代の殺人と大東亜戦争下の名古屋の殺人が時空を超えて結びつきます。全体の構成はきっちりとしているし、レギュラー探偵四組チョイ役出演といったお遊びもあります。一応の解決がつき、うん、まあまあだなと思っていたら怒涛のエンディングへ。SF的手法をも用い、もうあと一歩でアンチミステリしちゃいます。男の愚かさ、女の哀しさ、そして人類全体の未熟さをも鋭く抉った傑作です。
 私の最も好きな辻ミステリは、『改訂・受験殺人事件』『TVアニメ殺人事件』ですが、それに本書が加わりました。あとそれより少し落ちて『急行エトロフ殺人事件』『天使の殺人』といったところです(『アリスの−』は好きじゃない)。
 私の本棚には辻真先の本が現在五十八冊並んでいます。これからも私は辻真先を読み続けます。こちらが死ぬか、向こうが死ぬかまで。



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