論創ミステリ叢書より。タイトルが作家名+探偵小説選でないのはこの巻が初めてである。
先ずは木々高太郎・海野十三・大下宇陀児の三人の作家が短編をリレー風に回していく『風間光枝探偵日記』。
合作・連作は探偵小説では珍しいことではないが、女探偵を主人公とする短編を一話完結で書くというのが味噌。
それにしてもこの三人はちょっと不思議な顔合わせだ。高太郎と宇陀児は女性が主人公のものも普通に書くのでまあいいが、十三というのは謎の人選である。
高太郎の部では、検事の胸を病んだ妻の生霊として妖しく登場する「離魂の妻」と、歯科医からの依頼で金冠の内側に刻まれた文字から意外な悲劇を掘り当てる「金冠文字」が面白い。後者には『人生の阿呆』等の志賀先生の名前も出てくる。
宇陀児の部では、学生時代から本人の意識とは関係なしに男性を惹きつける友人の揉め事から事件を嗅ぎ付ける「危女保護同盟」、
見合い相手と結婚したものかの判断を納得ができるようにつけたいという依頼人の女性のために奔走する「慎重令嬢」と、なかなか微笑ましい話を書いている。
また、この時代としては止むを得ないのかもしれないがちょっと予定調和的な最終話「虹と薔薇」も担当していた。
十三の部では、科学者探偵帆村壮六がヒロイン風間光枝のすることなすことに茶々を入れる役割で毎回登場するようになっていた。どれもドタバタがきつい。
全九話で『風間光枝探偵日記』が完結した後も、十三はこの連作が気に入ってしまったのか、単独で風間美千子というヒロインで書き継いだのが<科学捕物帳>である。ヒロインは風間光枝と殆ど違いがない。毎度出てくる帆村壮六の役回りも同じである。
「鬼仏洞事件」と「探偵西へ飛ぶ!」では活躍を大陸の場に広げて軍事探偵ものにもなっている。総タイトルが<科学捕物帳>だそうだが、各話それなりに工夫がある。「鬼仏洞事件」では目に見えない凶器。「恐怖の廊下事件」は電気殺人。
「人間天狗事件」では親子の科学的な鑑定だが、戦後の横溝作品で頻出したあるアイテムを逆手に使ったのでおやっと思った。
さらに戦後になってから十三が書いたのが<蜂矢風子探偵簿>。
蜂矢風子は「沈香事件」と「妻の艶書」では風間光枝的なお嬢さん探偵だが、
「幽霊妻」では役回りが違うし、中身もSFだった。
ビッグネーム三人だけにこの叢書の他の作家の巻に比べると遥かに読みやすかった。
今まで読めなかったものが読めること自体は嬉しいが、他愛無い話ばかりであった。