ジュール・ヴェルヌ・コレクション
ジュール・ヴェルヌ・コレクション
『海底二万里』
いやあ懐かしい。完訳版だそうだが、僕が子供の頃に愛読していた版と内容に殆ど違いがない。
神秘の海底にて主人公たちが出合う驚異の数々。海底の森での狩猟、サンゴの中の墓地、スエズ地峡の海底トンネル、アトランティスの廃墟、死火山の地中湖の母港、南極探検、氷漬けの危機、大蛸との死闘、そしてメールストロムからの脱出。
それにしても圧倒的なネモ船長の存在感。彼はなにゆえにノーチラス号を駆って戦い続けていたのか。
実は本書には続編が存在する。『神秘の島』がそれである。少年時代からその存在は知っていたがこのコレクションでいよいよ読むことができるのであろうか。ネモ船長の秘密は遂に明らかになるのか。乞うご期待。
初出 <電脳部室>REV:『海底二万里』読了![1993.09.03] HP#341
『チャンセラー号の筏』
本邦初訳。リヴァプールへと向かうチャンセラー号は次から次へと災厄に見舞われる。まず船長が精神に異常をきたし航路を見失う。続いて積み荷の船倉一杯に詰められた綿が発火、ゆるやかな火事が船を襲う。8人の乗客と20人の乗員のうち生き残れるのはいかほどか。海難物の傑作。
海難物というと当然ながら一種の極限状況。僕が好きなのはポオの『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』。異様なまでの迫力、話としては完全に破綻しているのだが、ポオの傑作のひとつだと思う。
ヴェルヌのこの作もなかなかよかった。チャンセラー号を襲う苦難にもありきたりじゃない発想のきらめきがあるし、何よりも最後のシーンが傑出。また一冊面白い小説が読めた。
初出 <電脳部室>JVC:『チャンセラー号の筏』[1993.09.19] HP#390
『アドリア海の復讐(上・下)』
お久しぶりのジュール・ヴェルヌ・コレクション第3弾!
オーストリア帝国の圧制下祖国ハンガリー独立をもくろむサンドルフ伯爵は卑怯な裏切りにあい、同志二人とともに獄につながれる。嵐の夜に決死の脱獄を敢行するが同志は捕らわれて処刑され、自らも海の藻屑と化す。それから十五年後、地中海の孤島に理想境を建設したアンテキルト博士は、裁きを求めて仇敵を追いつめる。
裏切りにあい辛酸をなめ尽くした主人公が、莫大な財産を手にし身分を変え復讐を謀る、といえば言うまでもなくアレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』の筋立てである。これについては追従者もあるようでマリー・コレリ『復讐(ヴァンデッタ)』が知られている。本邦でも原典には黒岩涙香『巌窟王』の翻案があり、後者も涙香・乱歩翻案の『白髪鬼』となった。
敢えてヴェルヌがこの筋立てに挑んだわけだが、やはり作者らしさは出ている。脱獄シーンに迫力はあるし、アンテキルタ島の描写や博士が手足のように使う高速船団に科学趣味がうかがえる。大男と小男の曲芸師二人組がいい味出している。
だが、『白髪鬼』の陰惨さが結構好きな僕としては、少々物足りなかった。やっぱりヴェルヌは健全娯楽なのかなあ。
初出 <電脳部室>JVC:『アドリア海の復讐』[1993.11.13] HP#538
『征服者ロビュール』
未読。
『二年間のバカンス』
言わずと知れた『十五少年漂流記』の完訳版。この一般化された邦題は最初の翻訳、森田思軒『冒険奇談十五少年』(明治29年)に由来する。
漂流物というジャンルがある。例えば、作中でもある少年の愛読書として取り上げられているデフォー『ロビンソン・クルーソー』やヴィス『スイスのロビンソン物語』。後者はTVアニメ『南の島のフローネ』の原作である。或いは『宇宙家族ロビンソン』にまでもつながるか。
ヴェルヌの本作品は無人島に八才から十四才までの少年のみが漂着したら、というシチュエーション。持てる限りの智恵を働かし、住居をつくり、食料を獲得し、孤島に小さな植民地を打ち建てる。だが、そこは決してユートピアなぞではない。リーダシップを巡っての仲間割れの危機にもさらされる。だが、外敵の襲来に対して一致団結し、自らを守り抜く。作者は智恵と勇気と秩序の勝利を高らかにうたう。
この譚の系譜はさらにゴールディング『蝿の王』、うめずかずお『漂流教室』と、つながっていくのであろう。
ヴェルヌはまだ人間を信じられた時代。でも、これを読むと思えてしまう。人間は信じるに値するものだ、と。
初出 <電脳部室>JVC:『二年間のバカンス』[1994.06.06] #00706
『カルパチアの城』
前世紀の伝説が色濃く残るトランシルヴァニアのカルパチア山中にその古城は存在した。とうに遺棄されたはずの城に起こる怪事におびえる村人達。勇敢なる林務官は城を目前にして奇怪な現象に打ちすえられた。
偶然通りかかったテレク伯爵はその城の持ち主が仇敵ゴルツ男爵と聞き愕然とする。廃虚の中、死んだはずの歌姫ラ・スティラの歌声が響く。
ストーカー『ドラキュラ』の3年前に発表された書。この土地に目を付けた炯眼はさすがと言えよう。奇現象のネタはおおよそ検討がつくが、それでも結末で驚かされた。僕の大好きな『オペラ座の怪人』と似た香りが一部に漂う。
初出 <電脳部室>JVC:『カルパチアの城』[1993.12.29] HP#737
『気球に乗って五週間』
この本なかなか読む気が起こらなかったんですよ。これはヴェルヌ最初期の創作です。驚異の旅シリーズ第一弾。まだ習作ぽいんじゃないかなあと思った。それに舞台はアフリカだよ、アフリカ。海底旅行や地底旅行ならいざ知らず、アフリカ旅行のどこが面白いんじゃい、そう思ってました。
ところがどうして、第一期配本中でもずば抜けた面白さ!
有名な探検家のファーガソン博士は新発明の気球を用いて暗黒大陸アフリカの横断に挑む。同志は射撃の名手の親友ディック・ケネディと忠実なる従僕ジョー。三人組にふりかかる驚異の数々。
この三人組がよい。どんな苦難にあっても三人組はくじけない。いつでも沈着冷静な博士。カービン銃をこよなく愛する頑固者のケネディ。心底からの楽天家でいざというときには身を投げ出して仲間を救うジョー。もう冒険するならこんな三人組しかないね。
冒険の結末のくだりが最高にエキサイトする。ガスが洩れ落ち始めた気球を追いかける凶暴な原住民の集団。安全地帯まであと川一本。砂袋を捨て、荷物を捨てる。ありとあらゆる智恵を振り絞り、追手を突き放し、ひたすらセネガル川を目指す。
初出 <電脳部室>JVC:『気球に乗って五週間』[1994.01.25] #00055
『インド王妃の遺産』
一見宝探しもの風のタイトルだが、この作品にはインドも財宝も出て来はしない。
インド王妃の流れを汲む莫大な財宝を仏独二人の科学者が相続した。アメリカ西部の大平原に仏人サラザン博士は科学の粋を集めた理想都市フランス市を建設し、また一方、独人シュルツ教授は近代兵器の巨大な工房、鋼鉄都市シュタールシュタートを築き上げた。
小品は小品だけど面白かった。特に悪玉科学者がいかにものマッドサイエンティストで。ドイツに対するフランスの疑心暗鬼も。
『氷のスフィンクス』
南極圏に程近いケルゲレン群島から主人公はその船ハルブレイン号に船客として乗り込んだ。船長は有能だが、どこかいわくありげである。航路の途中でとある氷山に遭遇したことから、船は一路南極海を目指すことになる。11年前に消息を絶ったゴードン・ピムの一行を救助するために。
E・A・ポオの傑作長編『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』は事実譚だったのだ。難船仲間を喰らって生き延びた悪夢の航海も、一行を罠にかけた卑劣な原住民の住む南極海中南緯82度50分の孤島も。では、ピムの手記の最後にある大瀑布の向こうの白い巨人とはいったい何なのか。
ハルブレイン号は南極の開氷面を高緯度方向に突き進む。しかし、……。
ポオに対するヴェルヌのオマージュ。だが、ヴェルヌはポオと比べたら健全すぎる。ピムの相棒ダーク・ピーターズの出現まではよろし。だが、ピムの生存を匂わせて、延々延々引っ張っていてあの結末はいくら何でもといった感じ。
主人公一行はなすすべもなく南極大陸の海峡を流され、極点付近を通過する。そこに記された原注。南極点はこの20年後に征服された。その船はノーチラス号、その船長の名はキャプテン・ネモ。
ここではぞくぞくきましたがね。
初出 <電脳部室>JVC:『氷のスフィンクス』[1994.07.31] #00897
『世界の支配者』
未読。
『ミステリアス・アイランド』
何一つ持つことなく難船した入植者たち。彼らの危機には何者かが神秘的な手助けを行うが。
その正体はネモ船長だった。彼の人物の経歴と最後が明かされるのが興味深い。
[1996.07.19]
当時の読書メモより。この項はあとで書き直そう。
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