若竹七海『海神の晩餐』

若竹七海『海神(ネプチューン)の晩餐』


 プロローグは1912年のタイタニック号事件。未曾有の混乱の中、乗客の探偵作家ジャック・フットレルは、愛妻と別れを告げた後に未発表原稿を瓶に入れ封印する。そしてその瓶は東洋人の水夫の手に。
 それから二十年後の1932年。本山高一郎青年は、横濱港から氷川丸に乗船する直前に、革命を志した友に出会って前記の原稿を手渡された。
 沙市(シアトル)へ向かう十日間も続く船旅の間に続発する奇妙な出来事。原稿には他にも謎が隠されているのか。
 中心モチーフとなるフットレルの思考機械ものの原稿の他、松本泰やらチャーリー張警部やら、探偵マニアの心をくすぐる仕掛けが満載。タイタニック号事件の検討に牧逸馬『世界怪奇実話』中の「運命のSOS」が引用されるし、本山はミスター・モトと呼ばれつづける。
 客船が舞台だからか、カー『盲目の理髪師』を思わせるドタバタ喜劇になりかけるが、時代状況がそれを許さない。読後感には苦いものがあった。


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