山田風太郎『十三の怪談』

山田風太郎『十三の怪談』



 出版芸術社の山田風太郎コレクション全三巻がこれで完結。
 この巻は風太郎が参加した連作を集めた。いくつかの例外を除き、連作が一部でなく全編単行本に収録されるようになったのはここ十年くらいのことである。 この巻で言えば、乱歩が参加した『悪霊物語』は春陽文庫の合作探偵小説シリーズで、香山滋が参加した『白薔薇殺人事件』は『香山滋全集』で読んでいる。
 本書は風太郎を中心とした戦後作家の競演という形になった。風太郎や高木彬光といったビッグネームは勿論、現在読める作品が限られるマイナー作家にしても、どんな芸を見せてくれるか興味深い。

 『白薔薇殺人事件』では、画学生が一面の白薔薇を血に染めて横たわる少女の死体を発見する。翌日出かけた展覧会には奇怪な絵が展示され、白薔薇隠士を名乗る者から脅迫状が届く。十八年の怨念を込めた壮大な復讐事件。 各人の枚数が少ないがために展開が早いこと早いこと。解決編では誰が依頼したか知らないが、神津恭介と松下研三が登場。

 『悪霊物語』の乱歩の発端編では、大江蘭堂なる探偵作家が変人の人形師の元を取材に訪れて奇怪な体験をする。喜久雄の発展編では、ちょうど蘭堂が書いていた探偵小説をなぞったかのような事件が起こる。風太郎の解決編はもうのりのり。明智小五郎と加賀美敬介捜査一課長が夢の競演を果たし、乱歩が扱ったとある趣向が形を変えて再現される。お見事。

 『生きている影』は、自分そっくりの男がいて悪行を行う恐怖。 影のような男は自分を騙って友人の一家を滅ぼした。 謎の魔手はさらに妹に母にと迫る。 これも展開が早いが序破急とそれなりにまとまっている。

 『十三の階段』では、シンガポールのチャンギー刑務所で無実の罪で刑死した日本兵の怨念が七年後に甦る。異様な招待状を受け取った元軍医は事件が起こるのを憂慮し、神津恭介を千葉の外房の海岸に誘う。だが、名探偵の目前で旧軍の関係者が次々と十三階段の上で絞首刑にあっていく。 最初から神津恭介が登場するので、風太郎、島田一男、岡田鯱彦の三者による神津恭介が読める。 連続殺人がハイペースすぎて、最後に容疑者が残らなくてつらい。

 『怪盗七面相』は、この連作のために生み出された神出鬼没の怪盗七面相が七人の作家の擁する名探偵七人と知恵の戦いを繰り広げるという趣向の連作。各々が独立した短編にもなっていて、山田風太郎の部は荊木歓喜先生の事件簿『山田風太郎ミステリー傑作選2 名探偵篇 十三角関係』で読んだが、これは傑作だった。七面相はもう一人の大物神津恭介とも戦うが、今ひとつ精彩にかける。風太郎の次に面白いのは、私のご贔屓の香住春吾だった。片目珍作君が出るわけでもなく誰がレギュラー探偵だったかもわからないが、二十五年ぶりに帰国した億万長者にたかろうとする蛆虫どもを蹴散らす手並みは鮮やか。

 『夜の皇太子』は、少年ものの連作。薬師寺家の家宝「女王の宝冠」が「夜の皇太子」と名乗る謎の人物に狙われた。「夜の皇太子」は、浮浪児や不良少年の夜の国の頭であり、新宿御苑に根城を持ち、チャリンコ男爵、ペテン子爵、バズーカ伯爵、グレン公爵の四人の配下を従える。ここまでの第一回が風太郎の担当で、風太郎らしいネーミングが炸裂。 後の作家も影響されたようで、「夜のくじゃく姫」「夜の女王」「夜の皇帝」と、どんどん怪しげなキャラクターが増えてくる。それでも危ういところで見事に収集された。 しかし、少年誌にこんな連作が載っても当時の読者に連作の面白みがわかったのだろうか。

 この巻はいろいろ珍しいものが読めて満足。全三巻のコレクション自体も得がたい好企画だった。


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