山田風太郎妖異小説コレクションは作者の時代小説の全貌をまとめようという企画。既刊四冊で続刊予定もあるはずだが休止中。
取り敢えず一番既読が少ないこの巻を読んでみた。連作短編集二冊分だが、両者とも『妖異金瓶梅』や『明治断頭台』のような緊密な連作短編集ではない。前者は忠臣蔵を、後者は遊郭をテーマにして、それぞれにおいて共通する登場人物もいるが一編一編が独立して読める作品集である。
『妖説忠臣蔵』の元本は1957年7月、大日本雄弁会講談社より。忠臣蔵は後に『忍法忠臣蔵』(1962)にも取り上げた作者にとって関心の深いテーマである。一口に忠臣蔵と言ってもその事件の波及した範囲は広く、風太郎は一風変わったところに注視して、様々な奇想を溢れさせる。
若き日に江戸で浮かれた生活を送る大石があるとき巻き込まれた事件、「行燈浮世之介」。
江戸城での刃傷沙汰を赤穂に知らせるために走る早駕籠と、それを邪魔しようとする兇賊たちと、さらに早駕籠に乗る武士を慕う女賊が壮絶にぶつかり合う「赤穂飛脚」。
生活苦や敵方の揺さぶりで疲弊する浪士たちの間で起こった殺しの意外な犯人を指摘する「殺人蔵」。
吉良上野介の実子である上杉綱憲が米沢城の天守閣に祭られている上杉謙信の霊に父の処遇を尋ねる「変化城」。
大石と同じように遊郭で女色にふける不義士がスピロヘーターに倒れる「蟲臣蔵」。
四十七士の中で最も目立たない中年男の討ち入りと最期を描く「俺も四十七士」。
討ち入りのあとに江戸に流れた上野介が生きているという奇怪な噂を受けて、脱落者で結成された二番隊で再度吉良を討とうとする「生きている上野介」。
どの話も目の付け所が斬新であり、こうした大事件の陰に隠れた人間の心理を実に見事に暴き出す。結果として粒ぞろいの短編集となった。
『女人国伝奇』の元本は1958年4月、桃源社より。
吉原を舞台にした時代小説集。実在の登場人物が綺羅星のように登場する。中でも「怪異投込寺」は乱歩の依頼を受けて<宝石>に寄せた作品で、かなりの力作。と言うか、これが連作の一編とは今まで知らなかった。この作品で強烈な印象を残す花魁薫太夫は『女人国伝奇』全体の狂言回し的な登場をしていた。
太田蜀山人がひいきにする松葉屋の薫太夫と、堅物で知られる秩父屋の若旦那の凄絶な恋の駆け引き、「傾城将棋」。
津軽藩主を付け狙う相馬大作を思い人とする新造小稲は、彼のために自分に執着する不気味な老人に身請けされるが、その正体は意外なものだった、「剣鬼と遊女」。
遊び人の勝小吉は、生まれてくる子供のための金稼ぎに、指を買い取るという花魁小式部の言葉を鵜呑みにして女郎や道場破り先で指をせしめて回るが、それは江戸を揺るがす大陰謀の端緒であった、「ゆびきり地獄」。
薫太夫の勘気に触れておはぐろどぶの切見世に追放になった元新造の山弥のもとに通ってくる次郎吉は彼女に同情してあることを行うが、それが彼女をさらに追い込むことになる「蕭蕭くるわ噺」。
薫太夫と蛸のまぐわう枕絵を描きたいと通ってきた画狂人葛飾北斎は、投込寺の寺男の鴉爺が彼もが驚嘆する画家だったことに気づくが、その爺が無残に殺される、「怪異投込寺」。
花魁さくらの馴染みは水戸家の弟君だったが、お家騒動でかどわかされ、そこに河内山宋俊や片岡直次郎といった面子が絡み、最後を締めるはご存知遠山の金さん、「夜ざくら大名」。
この人がこんな役で、というのはいつものことであるが、やはり楽しい。
風太郎の小説は奇想の宝庫である。このコレクションもぜひ続いてほしい。