山田風太郎『明治バベルの塔』

山田風太郎『明治バベルの塔』


 『明治バベルの塔』は短編4本。
 表題作「明治バベルの塔」では、日本探偵小説の祖でもある黒岩涙香について。彼の新聞拡販のために生み出した暗号懸賞によって巻き起こる騒動。さらには彼の人物の最大の暗部を抉る。

 「牢屋の坊っちゃん」では、漱石が松山に行くのとすれ違いで北海道釧路監獄に送られた徒刑囚、小山六之助。日清講和の全権大使李鴻章を狙撃した無鉄砲者のその後を『坊っちゃん』の文体模写で描く。

 「いろは大王の火葬場」の主役は、牛鍋屋チェーン店いろは経営者の木村荘平。彼の新事業の最新式火葬場の第一号顧客となるのはいったい誰か。明治の小「人間臨終図鑑」という趣き。

 「四分割秋水伝」では、大逆事件で刑死した社会主義者幸徳秋水を上半身、下半身、背中、大脳旧皮質の四つの部位から分割して評伝する。明治天皇爆殺計画という前代未聞の大罪とそれに対する苛斂極まる追求。希代の名文家にして思想家であるこの大物をこの運命に追い込んだのは果たして一人の女の性格ゆえだったのか。

 併録「明治暗黒星」は既読だった。怪物政治家星亨の幼馴染みであり、その暗殺者となった剣客、伊庭想太郎の生涯。時代に乗った者と取り残された者と。劣等感がいかに人を苛むか。それぞれの信じる正義やモラルがどれほど相容れないか。皮肉なタッチの奥底から人間という存在に対する悲しみが伝わってくる。


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