山田風太郎『忍法八犬伝』

山田風太郎『忍法八犬伝』


 風太郎忍法帖の第十二作。徳間書店の<週刊アサヒ芸能>に1964年5月から連載され、1964年12月に単行本化。

 彼の曲亭馬琴『南総里見八犬伝』は我が国最大の伝奇小説である。日本人なら誰でもその内容はある程度は知っているだろうし、特に我々の世代ではNHK人形劇の『新八犬伝』による刷り込みが著しい。
 風太郎の後年の作品『八犬傳』(1982〜)は、八犬士が活躍する「虚の世界」と作者馬琴の「実の世界」が二十八年の苦闘の末に冥合する様を描いた傑作である。
 『八犬傳』が原典に真正面からぶつかった作品であるのに対し、本書は本歌取りもしくはパロディといった形式になっている。

 八犬士活躍の百五十年後の慶長の頃、徳川幕府は金山奉行大久保石見守長安の死をきっかけに大久保家の取り潰しを図る。安房の里見家の当主忠義の妻村雨のおん方も大久保の血筋であった。里見忠義は先祖から伝わる伏姫の珠を竹千代君に献上する約束をしたが、それが服部半蔵配下の伊賀くノ一八人衆により偽物にすりかえられてしまった。約束が果たせなければ、お家お取り潰しは間違いない。
 里見家の八人の老臣は、家宝の紛失に責任を感じて切腹して果てる。甲賀卍谷に忍法修行に行っているせがれたち宛てに使命と名前を譲るための手紙を残して。手紙と偽珠とは八頭の名犬八房に託されて、せがれたちの元に運ばれた。ここに仁義礼智忠信孝悌ならぬ、狂戯乱盗惑淫弄悦の偽珠を持つ新八犬士が誕生する、はずだったが。

 せがれたちは甲賀の忍法修行も一年くらいで投げ出して、江戸で好き勝手に暮らしていた。それぞれの今の生業は、六方者、狂言師、軍学者、盗賊、香具師、女郎屋者、軽業師、乞食。八房が持って来た親父たちの手紙を見てもまったくやる気がない。
 ところが安房にいたたまれなくなった村雨のおん方が江戸に向かって出奔してきた。頼りとする八犬士を呼び集めてお家の危機を救ってもらうために。なんとこの奥方こそが八犬士の初恋の人だったのだ。お家のため、主君のためでは梃子でも動きそうもなかった八犬士が村雨様のために立ちあがる。ここに甲賀伊賀珠取り忍法合戦の幕は切って落された。

 八犬士たちは、途中で忍法修行を放り出してきたので、そちらの腕前は心許ない。だが、各々の実力はかなりのものだ。問題があるのはチームワークの方。彼らの望みは、村雨様にいい格好をして見せること。そのためにスタンドプレーの連続で、絶対死ぬとわかっている敵地にも嬉々として乗り込んでいく。気ままな暮らしも、大きな野心も、すべて捨て去って。
 惚れた女のために命懸けというのは、男冥利である。陰惨な描写も多いが、それでも爽やかな読み心地なのはそのためであろう。一気にぐいぐい読まされる快作。


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