山田風太郎『かげろう忍法帖』『野ざらし忍法帖』『忍法破倭兵状』

山田風太郎『かげろう忍法帖』『野ざらし忍法帖』『忍法破倭兵状』



 ちくま文庫から出て既に完結した忍法帖短篇小説全集。
 私はこの頁を始めるまで風太郎の忍法帖は読んだことがなかった。頁開設後に読んだ本は全て書評を書いているので、短いコメントではあっても全短編レビューができる。
 『かげろう忍法帖』『野ざらし忍法帖』収録作の書評は以下にあるので参照されたい。
  
講談社大衆文庫版『忍者 枯葉塔九郎』[1999.01.18]
  講談社文庫版『かげろう忍法帖』『野ざらし忍法帖』[1999.11.16]

 『かげろう忍法帖』収録の「忍者帷子乙五郎」は主人公の名前を無明綱太郎に変えればほぼそのまま『忍法忠臣蔵』の冒頭部。 風太郎作品でも指折りの陰惨な場面だが、後の『忍法忠臣蔵』の方が主人公の絶望は深い。

 『野ざらし忍法帖』収録の「大いなる幻術」は「忍者枯葉塔九郎」を水木しげるが漫画化したもの。それをさらに京極夏彦が彩色したものがマガジンハウス『風太郎千年史』に収録されている。

 あとは『忍法破倭兵状』収録作。
 「忍法鞘飛脚」の主人公の医者、山鳥竹斎は根来忍者の出で、嫌々ながらも公儀隠密を仰せつかって、大老酒井雅楽頭の娘、阿久里の婿である安乗志摩守を探る。殿様の腹上死に際して、阿久里は側室お濃の方に対して酸鼻極まりない仕打ちを行なう。
 気弱な医者を主人公にユーモラスな書き振りをしているものの、これはネタが残虐すぎる。「鞘飛脚」とはとぼけているががどう仕掛けたものなのか。

 「忍法肉太鼓」では、伊賀忍者六波羅十蔵が酒井大老の密命を受ける。同輩の伊賀忍者を討ち果たして大奥に侵入し、将軍のお手付きの女人を妊娠させる。秘術を尽くした行いだが、大老凋落の後に彼にまた驚愕の密命が下される。
 同輩と戦うのも女人を妊娠させるのも「肉太鼓」という同じ忍術と、これほど応用例が広いのは面白い。 時勢が変わると振り回されるのは下々のものだが、ここまで相反するのは何とも皮肉。

 「忍法花盗人」で、将軍の娘を娶って恐妻が昂じたために会津の殿様は不能になった。殿様を奮い立たせる使命のために呼び寄せられたのは芦名玄伯率いる芦名衆三人組。お目付けの伊賀のくの一の目を盗んでの大作戦を繰り広げる。
 柳生十兵衛と凄惨な戦いを繰り広げた芦名衆がこんなところに。それぞれの技は奇想天外。使命を果たすことには成功するが、各人がそれぞれに破滅を迎える。

 「忍法しだれ桜」では、犬山城に詰める木曾根来組の一族を暴虐の嵐が襲う。小さいながらも公儀隠密および尾張藩御土居下組の両方の集団の人材供給源を務める存在だが、尾張大納言の家来の一人が将軍吉宗を襲ったがために両者の最前線となり果てる。江戸組と尾張組の対立の中、誰のものとも知れぬ秘術により倒されていく人々。
 これは<KAWADE夢ムック>「追悼特集 山田風太郎」で既読。意識したわけでないだろうが、クローズド・サークルになっている。 二つの巨大勢力に挟まれてなすすべもない彼らの姿は悲しい。壮絶な傑作。

 「忍法おだまき」では、幻術師の果心居士が姿を見せる。殺生関白の異名を取る秀吉の弟、秀次に頼まれ若い頃の彼自身に生まれ変わる忍法おだまきを施す。続いて関白秀吉が幼い秀頼のために寿命を延ばそうと彼を頼ってくるが。
 果心居士は風太郎世界に時折現れてその場をさらっていくデウス・エクス・マキナ。その途方もない意地の悪さはここでも健在。

 「忍法破倭兵状」の時代背景は秀吉の朝鮮出兵。朝鮮水軍の総司令官李舜臣の弟、李竜将は巫術を極めた朝鮮忍者であった。秀吉に恨みを抱く伊賀忍者狐法馬とともに日本に渡る。狙うはただ秀吉の首一つ。
 中編と言える長さで読みごたえがある。朝鮮出兵の残した傷跡は深く、作者がこの戦争と前回の太平洋戦争を比較する筆致は実に辛辣である。目的を果たそうとしてももはや廃人に等しい秀吉にこれ以上ない恐怖を与える様は凄まじい。

 「忍法相伝64」は珍しい現代物の忍法帖。三重県鍔隠村出身の伊賀大馬はしがない月給取り。あるとき追い詰められて母が残した忍法相伝書を紐解くが。
 ずっこけぶりが愉快だが途中で終わってしまっている。この後が書き継がれて山風ワースト作品として悪名高い『忍法相伝73』に結実したそうだ。

 山田風太郎の作品はどんな分野でもそうだが、特に忍法帖は極限状況の凄絶さと運命の巡り合せの皮肉さの見本市みたいなところがある。山田風太郎は本当に小説の天才である。


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