山田風太郎『伊賀忍法帖』
山田風太郎『伊賀忍法帖』
講談社文庫 山田風太郎忍法帖3 初版1999.01.15
新刊書
風太郎忍法帖の第十一作。実業之日本社の<週刊漫画サンデー>に1964年4月から連載され、東都書房から1964年10月に単行本化。
戦国の梟雄松永弾正を織田信長は、人の為しがたいことを三つもしてのけた男だと評したという。第一に東大寺の大仏殿を放火炎上させたこと。第二に主家の三好を滅ぼしたこと。第三に足利将軍を殺したこと。その最初の二つが本書で述べられる。
松永弾正は、主君三好長慶の子義興の妻右京太夫に欲望を燃やしていた。近畿の覇権はもう殆ど弾正のものだが、正面切って三好を討つのにはまだためらいがある。
幻術師果心居士はそうした弾正に根来の忍法僧七名を貸し与える。根来七天狗はそれぞれが人間離れした技を持ち、なおかつ女人の心をとろかす淫石を生成することができた。だがそのためには美女の愛液が必要だ。七天狗による凄まじい女狩りが始まった。
若き伊賀忍者笛吹城太郎は郷里へ帰る途中、七天狗に襲われて妻篝火を奪われた。篝火はなんと右京太夫そっくりの顔と、淫石の材料として最良の身体を持っていた。
篝火は弾正の信貴山城に連れ去られるが、自ずから首を刎ねて自害を図る。ところが、根来僧の忍法破れ甕によって弾正の愛妾漁火と首をすげ替えられて復活させられてしまう。篝火の身体の方は根来僧の陵辱を受けた。篝火の顔と漁火の身体を継がれた方は、漁火の意識を持った冷酷無残な妖女として復活を遂げた。
信貴山城を抜け出してきた篝火の身体の知らせを受けた笛吹は、根来僧と松永弾正に復讐を誓う。だが、あまりにも強大な相手に対しどう戦っていくのか。
前半凄まじい描写が続くが、それにより篝火と城太郎への同情心がかき立てられる。斬ったはずの相手が忍法破れ甕によりすぐ復活してしまうなど敵の恐ろしさも身に染みさせられる。
中盤、右京太夫を狙う弾正と根来僧により大仏殿炎上という暴挙が為され、城太郎は右京太夫を炎の中から救い出す。妻と生き写しの女人に触れて城太郎の心はかき乱される。一方、右京太夫そっくりの顔を持つ新生漁火も策謀を巡らし、弾正や三好義興をたぶらかしていく。
そして。この物語の終結は、突如上泉伊勢守信綱と果心居士という二大大物が登場してさらっていってしまい、大団円にはならない。城太郎の怒りも悲しみも日本の歴史の中に収斂されてしまう。
思えば、忍法帖シリーズはどれも歴史上の転換期となり得た時代を切り取って、正史には残りようがない陰の戦いを虚実の境を微妙に辿りながら描いているものだ。
例えこの物語が全くの虚構であろうが、松永弾正という怪物が日本の覇権を握っていた十余年があることは紛れもない事実であり、またそれによって血の涙を流した者がいたことも確実なことであろう。奇想天外な物語を楽しんだ上にこんなことをも考えさせられた。
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