山田風太郎『地獄太夫 初期短篇集』 『山屋敷秘図 切支丹・異国小説集』

山田風太郎『地獄太夫 初期短篇集』 『山屋敷秘図 切支丹・異国小説集』



 山田風太郎妖異小説コレクションは作者の時代小説の全貌をまとめようという企画だったが残念ながら第一期で休止。
 収録作には現代教養文庫や廣済堂文庫で読んだものが多いが今回はそれらは再読せず、初読のものについてのみ述べる。

 「芍薬屋夫人」の主人公はシーボルトの長崎鳴滝塾を訪ねた若い医者、玄鳳。そこで見た日本最初の帝王切開手術に魅了されて直ちに入塾してしまうが、そうして江戸を留守しているうちに恋人が富豪芍薬屋に輿入れさせられたことを知って愕然として舞い戻る。 彼は芍薬屋に復讐しようとするが、かつての恋人の出産に立会い死力を尽くすことになる。女性の心の動きはいかにも風太郎らしい。

 「地獄太夫」は遊女の名。男ども全てを地獄に堕としたいと嘯いていた太夫は自害して果て、その遺骸を一休禅師は諸行無常の教訓にするために野に捨てた。その屍体の前での男たちの狂乱振り。太夫が本当に愛したのはいったい誰か。女の、そして男の心の二面性。本人にもわからない心を一休禅師が解き明かす。

 「数珠かけ伝法」では、御家人仲間の博打の果てについには妻を賭けることになる。賭けられた女が勝った男のかつての使用人だったがために男の暴虐心はさらに募る。そうして迎えたのは実に凄惨な結末。夫婦愛ものがそうなりがちなのは現代ものと同じ。

 「伴天連地獄」は、長崎の切支丹弾圧の一駒。お互いをイエスと思いマリアと思うジュリアン七之助とモニカお鏡のカップルを棄教に追いやったものとは。 悲しくて、そして滑稽。

 「邪宗門頭巾」とは、切支丹を助け役人を悩ます神出鬼没の謎の剣士。ものの見事に火刑寸前の十二人を救い出したものの、そのあとを目明し蛇平につけられて不覚を取るが……。 怪傑ゾロの設定を切支丹ものに持ち込むとはさすが。 戦いは次世代に受け継がれるようだが、落ちの意味が調べないとわからなかった。

 「不知火軍記」のヒロインは切支丹大名小西行長の孫娘、不知火。島原の乱で立った切支丹のためにルソンから援軍として来た。不知火姫の首領としての格の大きさを作者は最初の一幕で活写する。 それに対するは小西に滅ぼされた天草氏の血を引く若君、天草扇千代。 両者の宿命の対決は意外な悲劇に帰着する。両首領の性格差が物語を転がしていくのが面白い。今回読んだ中では一番の傑作。

 「盲僧秘帖」の舞台は周防の国の山口。野心に溢れて九州から出てきた若者二人、蝶丸と蟇丸の運命が大きく動いていく。大内家の家老、陶隆房の妹の蘭姫に一目惚れした蝶丸は、姫により失明し、盲目の寵童として乱世の政に深く関わっていく。ザビエルに命を救われた蟇丸はロレンソ法師として日本最初の天主堂を立てていく。大内、陶、毛利と曲者揃いの地の乱は物語を紡ぐのに相応しく、『妖説太閤記』の縮小版のような趣きである。

 「踏絵の軍師」の主人公は秀吉に仕えた大軍師竹中半兵衛の孫、竹中采女正。長崎奉行を拝命した彼は切支丹の大弾圧を図る。お馴染みの背教者フェレイラ神父を転ばしたのも彼の拷問によるものである。そんな彼が丸山遊郭に遊女の踏み絵を見に行ってある遊女に出会って愕然とする。悪魔のように才長けた人物とその没落を描いて哀感がある。

 びっくりした。結構読んでいるから落穂拾いのように思っていたのに、特に切支丹ものは傑作揃いではないか。本当に風太郎は侮れない。まだこんなに埋もれていたものがあったとは。この企画が中断したのが残念でならない。


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