山田風太郎『魔群の通過』

山田風太郎『魔群の通過』


 幕末の水戸藩を、そして日本全土を揺るがした天狗党事件の全貌。
 天狗党事件については、以前朝日新聞夕刊に吉村昭の連載があり、どんなものかは知っていた。まさに風太郎が目を付けるに相応しい事件であり、なおかつ人間の崇高さと愚かさの両極端を知らしめる事件である。

 尊皇攘夷派と佐幕派の対立激しい水戸藩で遂に勃発した内戦。筑波山に立てこもった攘夷派は、旗頭とした主君名代を失い賊軍の汚名を着せられる。もう全滅かと追い詰められたときに、一党千名は京に上ることを決意する。天子様に、旧主君の弟一橋慶喜公に、自らの思いを訴えるために。
 全二百里の行程には想像を絶する苦難が。追いすがる追討軍。待ち受ける幕府軍。峻険たる山々と身を切る厳冬。天狗党の通過が各藩に巻き起こす大波乱。
 ようやくの思いで京を目前にしたそのときに……。峻厳極まる彼らの運命。

 作者はなおもその後の歴史を非情なまでに追っていく。維新を迎えても水戸藩の内紛はまだまだ続く。血で以って血は洗われていく。いったい何のために。いったい誰が望んで。

 敵も味方も、ばったばったと死んでいくのは、いつもの風太郎作品と同じ。だが、これは作り事ではなく現実にあったことなのだ。
 人間は限りなく崇高なこともする。そしてその同じ人間が途方もなく愚かなこともする。それが歴史。それが人間が生きるこの世の中。


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