山田風太郎『魔界転生』
山田風太郎『魔界転生』(上・下)
講談社文庫 山田風太郎忍法帖6 初版1999.04.15
講談社文庫 山田風太郎忍法帖7 初版1999.04.15
新刊書
風太郎忍法帖の第十五作。大阪新聞等に『おぼろ忍法帖』のタイトルで1964年12月から連載され、講談社から1967年3月に単行本化。その後『忍法魔界転生』と改題され、さらに1981年の映画化を機に現タイトルに改められる。
『忍法八犬伝』との間には、『忍法相伝73』と『自来也忍法帖』が入る。
忍法魔界転生。それは切支丹大名小西行長の遺臣であり、島原の乱の黒幕とも言われた森宗意軒の生み出した超絶的忍法である。この世に未練を残した英雄豪傑が死に際して是が非でも再生したいとの怨念を持って女と交合したとき、女の体内全部を子宮と化し、やがて身体を押し破って生前そのままの姿で再誕してくる。こうして再生してきた男は、生前の規範一切に縛られない血と殺戮に酔った魔人と化す。
死から蘇った転生衆は、まずは島原の乱の首魁、不思議な術を用いる美貌の若衆、天草四郎時貞。
伊賀上野の鍵屋の辻での仇討ちで名を馳せた名剣士、荒木又右衛門。
肺病病みながら父の敵を見事討ち取った抜刀術の名手、田宮坊太郎。
奈良宝蔵院の二代目住持にして槍の達人、宝蔵院胤舜。
柳生の太祖石舟斎の嫡孫にして尾張藩兵法師範、柳生如雲斎利厳。
将軍家の剣法指南にして公儀大目付、そして十兵衛の親父どの、柳生但馬守宗矩。
そして、数々の伝説に彩られた最強の剣豪、宮本武蔵。
森宗意軒は弟子の由比正雪とともに、名君と名高い御三家の紀州大納言頼宣卿に取り入って、いつか将軍家光が没したときに天下を奪うためにこの転生衆を飼っておくように進言する。
紀州藩に異常あり。秘密に勘付いた三人の老臣は命を懸けて柳生の庄に急をもたらした。彼らの思いに応えるために、その娘たちの仇討ちのために、柳生十兵衛は立った。
直接相手の懐に飛び込んだ十兵衛は、ゲームのルールについて話をつける。転生衆と一対一で闘わせること。三人の老臣の一族に危害を加えないこと。紀州藩で自由に行動させること。これらの条件が守られれば、ご公儀の介入は求めない。十兵衛を仲間に引きずり込みたい転生衆はこれを承知する。
十兵衛と行を伴にするのは殺された三人の老臣の肉親の美女三人とやんちゃな少年一人。そしてこれらの護衛役としての十兵衛の弟子の柳生衆十名。だが、那智から和歌山への熊野路は恐るべき修羅の旅となった。
襲いくる転生衆。紀州藩の根来忍法僧三十人衆も侮れない。那智の青岸渡寺で、白浜の三段壁で、安珍清姫の道成寺でと、風光明媚な紀州の名所旧跡を血に染めて繰り返される死闘の数々。
個人的に紀伊半島には思い入れがあるが、この作品もこの地を非常に効果的に使ってくれた。その巧みさは天藤真『大誘拐』に匹敵する。勿論こっちの方がずっと早いのだが。
十兵衛と転生衆の勝負はそれぞれが名場面だが、それだけではなく脇役連中にもきちんと見せ場をつくってくれている。柳生衆と根来僧の消耗戦の凄まじさ。特に十兵衛の密書を運ぶ弥太郎少年と柳生衆二人と根来僧五人の壮絶な追跡劇は圧巻。
後半、奈良柳生伊賀上野と舞台を移して行き、そして宮本武蔵との最期の勝負は伊勢湾木曽川河口の船島で。
戦いを終えてひとり去って行く十兵衛の胸に去来するものとは。物語の結末とはかくも悲しいものか。
なるほど、さすが忍法帖の最高傑作である。
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