山田風太郎『人間臨終図巻』

山田風太郎『人間臨終図巻』


 原本は1987年徳間書店。
 題名のまさにその通り、十五歳の八百屋お七から百二十一歳の泉重千代に至るまで享年の若い順から人間の臨終ばかりを九百名近くひたすら綴ったもの。

 二十代で死んだのは幕末維新の人物が多く、風太郎の明治もののあそこに出てきたここに出てきたといちいち思い出される。
 四十三歳で死んだ人々の項の筆頭に柳生十兵衛の名前があり複雑な思いで苦笑させられる。
 夏目雅子(二十八歳)、田宮二郎(四十三歳)、坂本九(四十四歳)と、私の記憶にある人の死の記述もある。
 取り上げられるのは古今東西の人物。歴史上の偉人、政治家、武将、軍人、文学者、科学者、芸能人、犯罪者、その他何らかの事情で歴史上に名を残した人々。

 延々と続く死者の列。
 それにはどうしても風太郎作品の登場人物が重なってしまう。『甲賀忍法帖』を筆頭に使命のために己の命を散らしていった忍者たち。『魔界転生』での柳生十人衆と根来忍法僧三十人衆の凄絶な全滅戦。明治ものの『幻燈辻馬車』では幽霊馬車に先導されるように敵味方ほぼ全員が死に絶えた。
 風太郎ワールドの登場人物が多いだけになおもその思いを強くする。戦国もの、明治もの、室町もの、そして地獄めぐりの『神曲崩壊』。これで殆どの人物が網羅されるのではないか。各々の人物の死に様のあとに風太郎作品のどこで登場したかを付記さえすれば、本書は風太郎作品の総目録とすることができる。

 それにしても思わされるのは死ぬことも案外簡単ではないということ。予期せぬ死の場合には後始末が大波瀾。 長く徐々に続く死に際は本人も周囲も消耗する。 思うに任せた死に方ができたのはほんの一握りのようだ。 また著者は実際の寿命よりもう少し生かしておきたかったという人物も数少ないと言い放つ。 各項の冒頭に掲げられている箴言も味わい深い。

 探偵作家も当然幾人も取り上げられている。その中で江戸川乱歩の項にはこんなエピソードがある。
 ”その翌年に大下宇陀児が死に、二年おいて木々高太郎が死んだので「推理作家は五十音順に死んでゆく」というブラック・ユーモアがささやかれ、ヤ行の山田風太郎はひとまずほっとして、このことを横溝正史に話したところ、横溝は、「それならぼくは風ちゃんよりもまだあとだ」といった。”
 戦後に亡くなった戦前作家を没年順に以下に挙げる。*印は本書で取り上げられた作家。
 江戸川乱歩以降は横溝正史が早死に(!)したことを例外として見事に五十音順である。これには何者かの黒い意志が働いている、わけはないのだが。


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