山田風太郎展

山田風太郎展


 サブタイトルに「追悼 山田風太郎」とある。 自筆原稿、創作ノート、愛用品など資料約三百点で構成とのこと。

 一階のメインのブースのまず最初の展示物が晩年のエッセイ集。『あと千回の晩飯』の生原稿があったが、その手跡があまりにも力が抜けたものだったので驚く。原稿用紙に書かれているのにもかかわらず桝目に文字がのっていない。まさに天衣無縫。もっと若いときの筆跡は勿論そんなことはなく、晩年の自称アル中ハイマー状態を覗わせる。

 続いて故人の生い立ちや嗜好など。 アルバムの写真。学生証や定期券といった小物。医学生時代のスケッチや自画像は実に達者。 大好物のチーズの肉トロの紹介記事は和田誠の挿絵入り。「山」「田」「風」「太郎」の銘入りの麻雀牌なども。
 風太郎の自作スクラップ・ブック「風評集」と
江戸川乱歩の貼雑年譜の実物が並び、風太郎の戦中日記『戦中派不戦日記』『戦中派虫けら日記』と中井英夫の戦中日記『彼方より』の日記帳が並ぶという超絶の組み合わせがここに実現。なんということだ。これらは風太郎本人のもの以外は図録には載っていない。
 風太郎をつくりあげたのは太平洋戦争。開戦の一日と敗戦の十五日を追った『同日同刻』の資料ノートが積み上げてあったがその膨大な分量に圧倒される。

 作家デビューの直後は探偵小説の時代。横溝正史高木彬光らとの交流を示す葉書や会合での集合写真など置かれる。
 そして風太郎が終生敬愛したのは大乱歩。若手作家の同人雑誌「鬼」の編集当番のときに乱歩から評論「創意の限度について」を得、その生原稿を額装して身近に置いていたのだという。その現物が展示してあった。
 乱歩の「類別トリック集成」に習ったような推理小説研究ノートもある。
 風太郎の著書では『悪霊の群』や『笑う肉仮面』の初刊本が置いてあったが、さすがに復刊された今ではさほどありがたみを感じない。
 「厨子家の悪霊」の稿料の代わりに支給された『金瓶梅』の訳本もちゃんと展示されていた。 これを切っ掛けに名作『妖異金瓶梅』が生まれ、さらに『水滸伝』の翻案を試みて膨大な忍法帖群につながっていく。

 忍法帖のコーナーは、映画ポスターやらマンガ化作品やらが置いてありそこだけなんだか異色な雰囲気。作者が映画撮影現場を見学するスチールも。 様々な忍法を本編中から抜書きしたパネルなども並ぶ。 創作ノートには髷もの風イラストも描いてある。

 明治もの・室町ものの展示は、風太郎作品を飾った南伸坊、宮田雅之の原画などの他にやはり創作ノート。 どんな分野の作品でも綿密な下調べがあったことが如実にわかる。構想されていたが手付かずで終わった『八犬伝』の続編というのが気になる。
 出口付近には愛用の机を置いて書斎の一部が再現されていた。

 二階の別コーナーは「風太郎の愛した作家たち」ということで、『八犬伝』の滝沢馬琴、『神曲』のダンテなどに関するものを。 夏目漱石の手紙が家宝級のものとしてやはり額装されていた。
 一階出口の外では「徹子の部屋」のビデオも流れていた。風太郎の動いている映像を見たのは初めてかもしれない。忍法帖や『人間臨終図鑑』の話など。飄々とした人柄が伝わってくる。

 図録もなかなか資料的な価値があった。読み物としても楽しい。
 昨今の風太郎ブームを受けてその絶頂として催された展覧会であり、これ以上のものはちょっとつくれないだろう。 殆ど宝の山の中に迷い込んだような気分であるが、さすがに一回見ただけではその全部を消化しきれずに悔しくもある。余裕があったらまた行ってみたいものである。


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