全三巻となる予定の山田風太郎コレクションの一巻目で現代ミステリの単行本未収録短編を集成。
PART1は本格もの。
表題作となった「天狗岬殺人事件」では、揺れるものを見ると発作を起こす少年が美しい女教師が乗ったブランコを見てまた倒れた。少年を家に送った女教師は、少年の父親からその妻の死にざまを聞く。彼女は少年の発作と母の死の間にある関係を指摘するが……。不可能犯罪トリックがこういうところから割れるというのは流石にうまい。
「二つの密室」は名探偵パロディ。第一話「超名探偵」では名探偵エラリー・ヴァンスが密室の謎を解こうととんでもない方法を用いようとするし、第二話「大完全脱獄」では思考機械ことヴァン・ドゥーゼン教授(フットレルより)が十三号独房よりもさらに厳重な警戒の中での脱出に挑む。
作者の意地の悪さと虚無感が全開。
PART2はナンセンス小説。
「パンチュウ党事件」では、雷神党を名乗りパンパン(娼婦)を襲ってへそを取っていく(へそが見えなくなるよう腹の皮を縫い付けていく)謎の一団を人々はこう呼んだ。神出鬼没のパンチュウ党だがその正体は哀しい。
「江戸にいる私」は、「江戸にいる私」(『江戸にいる私』廣済堂文庫収録)と全くの別もの。素広平太博士の発明を乗っ取った不良アベックはコールドスリープで未来に行くつもりでなぜか三百五十年前に来てしまう。拳銃一丁とおぼろげな歴史の知識で家康に召し抱えられるが、大阪の陣はもう間近だった。
主人公たちに全く感情移入ができないというのも珍しいが、
理屈抜きで面白い。
PART3は『女探偵捕物帳』のシリーズより。新宿を徘徊する三人組の辻音楽師。美貌の歌姫伊皿子未香は実は沖縄戦のどさくさ紛れに鏖殺された
琉球豪族の生き残りで、お付きの真壁玄城老人と雛之介少年と共に憎い敵を追い詰める。だが彼女らが復讐を遂げる前に敵たちは自ら犯罪に巻き込まれ自滅してしまい、残された謎を未香が解くという連作短編。衆人環視での殺人など不可能犯罪がてんこ盛り。
中途半端に終ってしまっているのが残念だが、最終的にはどんなところを目指していたのかを想像すると興味深い。
PART4はトリッキーなサスペンスもの。
「心中見物狂」は、愛している娘に誤解から行きずりの男と心中されてしまった男が、少し頭がおかしくなり心中死体を見たいという欲求に取りつかれ毎日船を仕立てて海に出ていると、そこに一月以上前に死んで埋葬も済んだはずのその娘の死体が漂いつく。
「白い夜」では、容貌がよく似た二人の女が十日間の間を置いて同じ貯水池に相次いで身投げした。二人の女の恋人と夫が語り合って意外な真相に到達する。
これらにしても、「真夏の夜の夢」にしても、大胆なトリックを使っているが男と女の愛やすれ違いがテーマであった。
未収録作品とはいえ、どれも素晴らしいできである。風太郎の場合は、作品数が膨大でその全てが高品質だったがためにこれらが顧みられなかっただけである。
改めて山田風太郎は天才だったと思う。