山田風太郎『ヤマトフの逃亡』
山田風太郎『ヤマトフの逃亡』
廣済堂文庫 山田風太郎傑作大全19 初版1998.02.01
新刊書
からすがね検行
大谷刑部は幕末に死ぬ
笊ノ目万兵衛門外へ
伝馬町から今晩は
ヤマトフの逃亡
新選組の道化師
幕末を舞台とした時代小説短編集。奇人妖人列伝という趣きになっている。
「からすがね検行」は悪辣な金貸しの一代記。盲目の身で田舎から江戸に出てきた彼は、行き倒れてあわや柳生家の試し斬りになりそうなところを持ち前の度胸により生き延びる。高利貸しとして名を成していく彼と柳生家の間には恐ろしいほどの悪因縁が。そして無軌道な彼の血筋から生まれた英傑とは。
「大谷刑部は幕末に死ぬ」の主人公は侠客国定忠治の忘れ形見、国次。忠治の子分日光の円蔵は国次を関八州の大親分へと育て上げようとする。しかし、維新へと向かう時代の流れが彼を否応無しに呑み込んでいく。
「笊ノ目万兵衛門外へ」の万兵衛は安藤対馬守が頼りとする凄腕の同心。超人的な活躍を誇る彼の原動力は、自分の愛する家族が生活できる世の中を守り抜くこと。だが、過酷なお役目のために、万兵衛は愛児を、老母を犠牲にしていく。大きな時代の流れに巻き込まれた人間の哀しさ。
「伝馬町から今晩は」の主人公は、牢獄の火事による切放しで娑婆に出た囚人高野長英。温厚な人柄で知られた彼も過酷な獄中生活のために人格が一変。彼が訪ね歩いた昔の知り合いの元には恐ろしい災厄が。それでも生き抜こうとする執念の深さ。
「ヤマトフの逃亡」の立花久米蔵は佐久間象山門下で勝麟太郎と並ぶ俊才。長崎で蘭方医学を学び西洋かぶれに拍車が掛かる。日本批判の放言を繰り返す彼の評判はがた落ち。黒船来航を切っ掛けに藩との、そして幕府との全面対決を強いられる。彼の落ち行く先とは。
「新選組の道化師」で描かれたのは、新選組初代局長の芹沢鴨。水戸の郷士に生まれた彼は尊皇攘夷の義挙に二度も置き去りを食らう。江戸から遠く離れた京で放埓な行いを繰り返す彼の胸の内に去来するものとは。
どんな時代であれ、誠に人間は面白い。山田風太郎を読むとそう思えてくる。読書の楽しみここにあり。
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