ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』の数年後、その生き残りの関係者の間で再び犯行現場にマザーグースが残された殺人事件が起こる。
時は1930年代、敵性国家である日本と日系人への嫌悪感が高まっていた。
新たなる「僧正殺人事件」の犯人として日系人の使用人が逮捕され、ニューヨークの日系人社会はより一層の緊張を強いられる。そんな状況を打開するためにサンフランシスコから私立探偵として売り出し中の青年、金田一耕助が招致された。
横溝正史生誕百周年の年に発表された贋作。当時のアメリカを舞台にいろいろなものを小出しにして遊んでいる。ヴァンス、金田一以外でも出てきたものを上げると、マーカンドのミスター・モト、ハメットとコンチネンタル・オプ、牧逸馬など。
だが、そういうくすぐりは楽しいが、全体としての感触はあまりよくなかった。
ヴァン・ダインの原作にいろいろ足りないところはあったかもしれない。しかしそれを今取り上げて断罪することがフェアと言えるかどうか。マーカム地方検事の悪役ぶりもちょっと酷い。
ミステリーの単独作品として評価しても、回収されなかった伏線と思われるものがいくつも残る。以下反転。
*
旧約聖書預言者と同名のイライジャの意味ありげな言葉が全くフォローされていない。
それと関連して比奈博士がメキシコとアメリカとの国境近くの砂漠で見たというものがあたかも核実験であるかのように書いていて、耕助が解決編で理由も明言せずにそれを否定しているのが不自然。
従軍看護婦だったナオミ・デュポアがガスマスクを怪物として証言したのはなぜかはっきり書いていない。
ナオミを殺したあとに既に「僧正」として橋本が拘留されているのにわざわざマザーグースを残してきたわけが全くわからない。
*
かなり書き方が荒いのではないか。
どうも山田正紀は私には肌が合わないようだ。今までミステリーの長編で読んだのは『螺旋(スパイラル)』、『妖鳥(ハルピュイア)』、『ミステリ・オペラ』と本書で四冊だが、ある程度以上評価できたのは『妖鳥(ハルピュイア)』くらいだった。
[2003.03.03]
→冒頭
→山田正紀目次
→読書日記
→表紙