山村正夫『霊界予告殺人』

山村正夫『霊界予告殺人』


 昨年亡くなった作者の長編。原本は1989年。この方の長編はこれが初めて。
 発表当時は丹波哲郎の『大霊界』がブームになっていて、ゲテミスなんじゃないかと思っていた。でも、江戸川乱歩も出るというので気にはなっていた。著者が亡くなったあとに絶版になっているのを探し出してようやく今になって読めた。

 著者を思わせる探偵作家雨宮鏡介は、暴走族のバイクに跳ね飛ばされ意識を失う。彼が再び目覚めたのはまばたきする者が誰もいない霊魂の世界だった。そこで彼は恋人の編集者香西育江に再会した。
 育江は雨宮に霊界にも乱歩を会長とする探偵作家クラブが存在し、ちょうどコナン・ドイルを始めとする三人の著名英米作家を日本に招待しているところだと告げる。ところが三人の作家の暗殺予告が探偵作家クラブの事務所に届き、なんと雨宮と育江はアーサー卿殺害の第一発見者になってしまった。しかも現場は霊魂には全く無意味な鍵のかかった密室でもあった。

 参考文献に『大霊界』が記されている通り、これは『大霊界』の世界での本格推理小説である。霊界での殺人事件が成立するよう著者独自のアレンジを加えてあるようだが。
 ある仮想的な条件下で本格を展開するというのは、同じ年の山口雅也『生ける屍の死』と同一の趣向ではないか。ただ、ネタが割れるのが早すぎる嫌いがあるのは残念。

 そしてもう一つの魅力は、霊界を舞台に取ることにより実在の物故作家が多数登場したことである。登場する作家は以下のとおり。

 海外の作家はともかく、日本の作家は著者にとって直接接した親しい人たちである。旧制中学生時代から岩谷書店や土曜会に出入りし、『推理文壇戦後史』や『わが懐旧的探偵作家論』の著書もある山村正夫の面目躍如である。
 池袋の乱歩邸を訪ねた雨宮が応接間に通され、乱歩や正史とともに事件の検討に耽るシーンには何とも言えぬ感慨深いものがあった。

 作者の代表作は通常は角川小説賞を受賞して映画化もされた『湯殿山麓呪い村』(1980)ということになっている。だが、本作も充分代表作に加えてもいいレベルの出来ではないか。私はそう思う。

 今頃作者は、霊界の探偵作家クラブで乱歩会長の元、創作活動にいそしんでいるのだろうか。そう思うと楽しくもなる。
 山村正夫さんのご冥福をお祈りします。


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