大阪在住、<宝石>デビューの余技作家、山沢晴雄。
マニアのアイドルという評判は高いが、個人的には短編をいくつか読んだだけでは印象はそんなに強くなかった。これは凄いと思わされたのが、『本格推理マガジン』(光文社文庫)収録の中編「離れた家」によってである。
本作は作者の初の長編。初稿が書かれたのは1964年だという。
売出し中の服飾デザイナーが自宅で殺され、またその発見者であった保険外交員もが出先の営業所で殺された。しかも第二の被害者の遺体が発見された場所は、状況から建物全体が密室になっていた。
私立探偵砧順之介は、生前の第一の被害者からとある女性を探してくれと頼まれて発生前から事件に関わっていた。彼はその線を追って、警察とは違う角度で事件に関与していく。
一読したところは地味である。密室もある、読者への挑戦状もある、がそんなには盛り上がらない。登場するのは、市井の人々。昭和三十年代の大阪に暮らす普通のサラリーマンやOLである。両方の事件に共通する関係者は多く、それぞれが各々の思惑を持って動き回る。山沢作品について言われる難解さは、複数の人物の計画がぶつかり合ったり、偶然によって齟齬をきたしたりするがために生れてくる。
読了直後も正直印象はそんなによくなかった。だが、『別冊シャレード 山沢晴雄特集2』にある「作者のノート」で唸らされた。この作品のモチーフは江戸川乱歩のある作品なのだという。なるほど、そうだったのか。一見地味で、なおかつ難解巧妙精緻なつくりの裏に流れるのは熱いロマンティズムであった。