立て続けに発表された著者の第三長編。
冒頭から大勢の人物が登場し、各々の思惑が交差する。その中には犯罪に結びつきそうなものまで含まれる。彼らの人間関係は将棋を媒介として微妙に重なり合う。
そして起こった第一の事件では、ゆすり屋として知られる男が殺される。警察が当たりをつけた人物にはみなアリバイがあるが、その中に拵えものが複数個混じっていることを読者は知っている。
続いて第二の事件では、第一の事件の被害者と関係があった女性が密室の中から消失する。あとに詰め将棋《銀知恵の輪》の詰上がりを残して。単なる悪戯かとも思えたが、彼女の死体は意外な場所から発見される。
さらに第三の事件では、第二の事件の死体発見者が殺され、現場にはやはり詰め将棋《金知恵の輪》が残された。
何が起こっているのかすらわからないもやもやした状態の中で死人の数だけは着実に増えていく。関係者はみなアリバイを持つが、そのどれもが疑わしくもある。
山沢の作品は長編短編ともにアリバイトリックが主眼となる。多くの作品で別々の人物によるアリバイトリック同士が衝突しての不可解な状況を描いてきたが、本作は複雑さにおいてその頂点を極めた趣きがある。
作中に出てくる詰め将棋が《金知恵の輪》と《銀知恵の輪》。だが、知恵の輪は将棋だけではない。人間関係のつながり、そして各々の事件のアリバイの連鎖もが難解な知恵の輪と化す。
終幕に至ってようやく登場した砧は警察にある仮説を示唆する。そして終章は序章と見事に呼応し、ここでも円環が完成する。
山沢には珍しい「殺人事件」というタイトルだが、まさに『知恵の輪殺人事件』以外に命名のしようがない中身である。
個人的には『砧自身の事件 ダミープロット』の方が好きだが、これも悪くはない。積ん読の関係上今年の本が全然読めていないが、山沢晴雄の長編が読めたというだけで2000年はよい年だったと言えよう。