山沢晴雄『砧自身の事件』

山沢晴雄『砧自身の事件 ダミープロット』


 作者がインタビューで自信作と答えた第二長編。1982年より執筆のまったくの新稿。作中の舞台は1983年の大阪。

 のっけから多くの人物の思惑が交錯する。フリーライターの女性は調整局課長と女占い師の情事を嗅ぎつけ強請りにかかる。商事会社に勤める男は高校からの友人よりアリバイの偽証を頼まれる。ある平凡なOLは容貌が瓜二つの新進ファッションデザイナーから代役として雇われる。
 役者が揃ったところでついに事件が発生。切断された女性の右手首がデザイナーの夫の事務所に送りつけられ、また顔面を潰された生首の入ったボストンバッグが地下鉄の車両内に放置された。殺されたのはフリーライターか、それとも占い師か。

 ここまでネタを明かして大丈夫なのというような導入部。さらに私は作者の短編を読み返してかなり似たような状況の話が多いことに気づき、また双子トリックかと正直なところ思ってしまった。せっかくの長編なのにまた『悪の扉』のようにあんまり乗れなかったら痛いなとも思った。
 だが、そんな危惧を裏切る離れ業をやってくれた。だいたい作中の登場人物が山沢の作品を書いたという設定で、「離れた家」に対する酷評(ネタばれするので注意)まで紹介している。手の内をさらした上でどこまでやれるかという実験作のようだ。そしてそれは見事に成功している。
 この作品の読みどころは、結末で作者自らが「陰の声」として解説してくれている。至れり尽せりである。またここを見てくれとの自信の現われとも思える。
 この作の凄さ、そして巧妙さをわかってもらうには実際に読んでもらうしかあるまい。ここで言葉を費やすのがどうにももどかしい。
 弱点といったらタイトルの割には砧の影が薄いことぐらいか。だが、結末ではある運命が砧を襲う。

 砧ものの長編は、まだ『知恵の輪殺人事件』(執筆済み)と『砧最後の事件』(腹案中)があるというので、さらに期待を持って待ち望みたい。


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