『別冊シャレード 山沢晴雄特集6』

『別冊シャレード 山沢晴雄特集6』



 今回は砧もの以外の初期短編集。ここでしか読めないものが多い(→作品目録)。 初読のものについてコメントを記す。

 「仮面」は「砧最初の事件」とともに発表された作者の処女作の片割れ。 内容は後の「扉」に殆ど使われる、密室トリックとアリバイトリックの組合せという山沢短編の典型的な作品。ただ、それに加え本作では探偵と悪女の恋という枠組みが存在していた。処女作を見ると作家のその後がわかるとよく言われるが、山沢も当時からそんなテーマを書くことに惹かれていたわけだ。

 「神技」では、語り手は知人の男性が神霊術の妙技を用いて初対面の女性の心を読む様に仰天する。ところが、語り手に対して彼はそれは相手の外見から推理を働かせたものに過ぎないと言う。だがしかし、……。
 短い枚数に何回もどんでん返しを効かせた手際は見事。

 「厄日」は「神技」をさらに発展させて書かれたもの。喫茶店でバーの女給と対話中に突如相手が毒死してしまった探偵作家M氏に語り手は旅先で出会う。語り手は事件の後にM氏が発表した短編「神技」への疑問をぶつけてみる。実際の事件をこのように小説化した意図は何なのか。
 アマチュア作家ならではのこねくり回し方が楽しい。ある種のミステリ評論とも思考実験ともなっている。

 「宗歩忌」は江戸時代の実在の棋士の天野宋歩に取材したもの。語り手は東北の僻村の古刹で、住職から寺に伝わる将棋の駒の絶品を見せられるとともに詰め将棋の棋譜を見つける。住職が若いときに見たのはのは、宋歩と彼を尋ねてきた旅の遍路の凄惨な対局だった。
 短い枚数なのに、結末でいきなり現代と二重写しの怪奇幻想談になってしまう。歴史ものの枠内で決着させたほうがよかったのではないか。

 「時計」は振子時計のある喫茶店で初対面の男から聞かされた話。男の友人が若いときに買った辻占には彼の過去がぴたりと言い当てられているとともに今後の暗い運命を予言されていた。そのときは気にも留めなかったのに、落ちぶれて行くにつれてその占いが大きくのしかかり、わざとそれに逆らうような突飛な行動を取るようになる。そして、……。
 完全な怪奇幻想談。結末でより奇妙な状況が明かされる。この作家がこんなものを書いていたのかとちょっと驚いた。

 「さそり」は、「仮面」と「扉」の間に位置して今回初めて発表された作品。あるパーティーで雇い主の社長の夫人とばったりあってしまった男は、夫人を消す必要に迫られ懸命にその後を追う。果たして翌朝夫人は他殺死体で発見された。だが、疑いがかかった男以外にも社長や夫人の愛人と目された医師も不審な動きを見せている。
 大勢の人物がそれぞれの思惑にのっとって動いて奇妙な状況を構築する山沢流の真骨頂。タイトルにあるさそりこそがキーパーソンなのだが、まるで注目されていない真空地帯にいるのもうまい。

 砧シリーズ以外ということで、かなりバラエティーがある一方で、作者らしい精緻な作品も収録されている。この集により殆どの山沢作品が読めるようになったわけであり、読み手としては嬉しいことだった。


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→山沢晴雄目次
→読書日記
→表紙