『別冊シャレードVol.51 山沢晴雄特集』に詳細な作品リストと戸田和光さんによる解説が載っていたので、それを参考に持っている短編を再読してみた。
・「砧最初の事件」(1951):鮎川哲也編『無人踏切』(光文社文庫)
<別冊宝石>に「扉」の原型「仮面」とともに掲載された作者のデビュー作。探偵事務所を開いたばかりの砧の元に来た最初の依頼は、自分を振り回した奇妙な出来事の裏を調べて欲しいというものだった。砧は不審な黒眼鏡の男のあしどりを追ったが、それがいつしかバラバラ死体のトランク詰め事件に結びく。
なるほど、関係者の動きは極めて複雑だ。表面に現れている出来事と現実に起こったこととの差異を砧は探る。誰もが策を弄しているように思える中でフェアプレイのゲームを貫き、「余詰」の検討までしているのが作者らしい。
・「銀知恵の輪」(1952):鮎川哲也編『殺意のトリック』(双葉社)
悪徳ブローカーが青酸入りウイスキーで盛り殺された。容疑者は犯行時刻くらいに事務所に出入りした美女二人。被害者のズボンの折り返しには将棋の銀将の駒が一枚。この事件は同じ夜に起きた盗難事件とも関係があるかと思われた。
二つの事件を結びつける手際が非常に巧妙。アリバイトリックが破れる切っ掛けが銀の駒一枚というわけだが、決め手としてはちょっと説得力が弱いかも。
・「電話」(1976):<幻影城>No.24 →山前譲編『犯罪者の時間』(青樹社文庫)不所持
運送店を襲った二人組みの強盗が乗った車は不運な通行人の女性を跳ねて逃げ去った。一方、同じ日の晩に置き去りにされた車のトランクから女性の死体が発見された。
二つの事件の交錯がまた複雑なプロットを作り出した。『悪の扉』の縮小版という趣がある。
・「扉」(1977):<幻影城>No.32 →鮎川哲也編『密室探求 第一集』(講談社文庫)
詰め将棋が得意なヒロインは社長秘書。ある日曜日、社長に付き合って映画を見たが、その後で用事を言いつけられる。社長から電話の電話で社に戻ると、今まで社長がいた形跡がありありとあった。だが、裏口は移動中の金庫でふさがれ、社長はどこから出入りしたのだろうか。
密室の謎にちょっとしたロマンスを絡ませた明るい雰囲気の作品。
・「密室の夜」(1984):鮎川哲也編『密室探求 第二集』(講談社文庫)
ある事務所に勤める男は、定時後のチェス入門教室でいっしょになる女性をお茶に誘うが素気無く断られる。どうにも諦めきれず彼女の後をつけて行くと、彼女は彼の勤め先のビルに入って行った。そして翌朝会社の保管庫から彼女の死体が発見された。
「電話」との共通点は多い。だが、料理の仕方の違いでこんなにも違って見えれば、真相を見透かすのは容易ではない。
・「京都発”あさしお7号”」(1989):鮎川哲也編『鮎川哲也と13の殺人列車』(立風書房)
元刑事の探偵社社長が殺された。かつての同僚は、とかく噂がある殺された男の過去の女性関係を洗う。一見鉄壁に思えたアリバイ。だが、偶然の連続がそれを崩して行く。
作者の唯一の時刻表トリックもの。ただでさえ複雑なアリバイトリックに時刻表が加わるとなおさらよくわからない。だが、真相は非常に簡単なところに落した。
持ってはいないが、現役のアンソロジーに収録されている作もあるので、タイトルだけ記しておく。
・「死の黙劇」(1953):鮎川哲也・島田荘司編『パズルの王国』(立風書房)
・「砧未発表の事件」(1993):鮎川哲也編『本格推理1』(光文社文庫)
・「金知恵の輪」(1996):鮎川哲也編『本格推理8』(光文社文庫)
・「見えない時間」(1999):鮎川哲也編『本格推理14』(光文社文庫)
『本格推理』は全然フォローしていなかったのだが、こんなに書いていたんだなあ。今度探してみよう。
山沢の作品は全てがアリバイトリックである。
計画を秘めて動くのは真犯人ばかりではなく、複数のそれがぶつかり合う。余儀なき事故もしばしば起こり、そのせいで最初の計画が見えにくくなってしまう。密室の多くもその産物である。
それにしても地味だ。ハッタリが殆どない。事務所で土曜日の夜に殺人が起きて、月曜日にそれが発見されるという発端ばかりがやたらに多い。
事件自体は地味なのに筋立てが複雑過ぎるので、読んでもよく理解できない。そしてしばらくしたらどんな話だったか忘れてしまう。
もちろん長所だってある。アリバイを構成するための小道具の使い方が巧みである。また、冒頭部での登場人物の独白にダブルミーニングが仕掛けてあったり、叙述トリックもどきもよく使う。当時としてはなかなかの技巧派であるのだが。
私がこれは凄いと思った中編「離れた家」だけが、発端が例外的にど派手であった。これくらい精密に組み立てられた中身があるのだから、冒頭で読者を惹きつけるためのこんなハッタリがもっとあってもいいと思うのだが。
実力は途轍もないのに、見せ方が下手なために損をしている作家である。私にはそう思えた。