山沢晴雄の短編の未読のものをまとめ読み。
・「死の黙劇」(1953):鮎川哲也・島田荘司編『パズルの王国』(立風書房)
図書館で借りてきてこれだけ読む。
須潟警部は工事中の橋から落ちたタクシーに遭遇する。事切れていた乗客は怪我もないのに顔を包帯で包み、なんと砧の名刺を持っていた。その包帯男と直前まで一緒にいたはずの会社社長はその事実を否定した。そこに犯罪の気配を嗅ぎつける砧。
おなじみのアリバイトリックものの変形だが、ちょっと単純過ぎるかも。鮎川さん曰く、「今回山沢氏の作品を選ぶにあたって私が第一に考えたことは、何はさておき理解できるミステリーを、ということだった」。そういう意味では作者らしからぬ一編。砧に迫る人妻の色香が印象的。
・「砧未発表の事件」(1993):鮎川哲也編『本格推理1』(光文社文庫)
月曜の朝に出社してきた不動産会社の社長と社員は、社長室の床に転がっていた顔面が焼けただれた死体を発見する。それは社長と交際があった金融ブローカーのように思われた。だが、ビルの管理人の言葉を信用すると、犯人は元より被害者さえも休日の事務所に入れるわけがない。
短いながらも叙述トリックが効果的。題名はちょっと外しているような気も。
・「金知恵の輪」(1996):<別冊シャレード>Vol.56「山沢晴雄特集3」(甲影会)
『知恵の輪殺人事件』の参考編として、「銀知恵の輪」改定稿とともに収録。
ある会社社長の死体が自宅の応接間で発見された。現場には当夜届けられた将棋の駒と古棋書『将棋妙案』が散乱し、死体の右手には金将の駒が握られていた。容疑は事務員の女性にかかり、彼女のアリバイに作為があることも判明した。だが、……。
「銀知恵の輪」と対になるように四十年を隔てて書かれた作品だが、かなり落ちる。「銀」の木目細かさに比較すると「金」は大雑把に見えてしまう。「金」「銀」ともに『将棋妙案』中の詰め将棋から名前が採られているが、作中に具体的に出てくるわけではない。作者のノートでは「三部作の特徴といえば、姉妹作らしく同じトリックで三作書いたというところでしょう」と述べられている。なんとも大胆な。
・「見えない時間」(1999):鮎川哲也編『本格推理14』(光文社文庫)
新進の女流推理作家が殺され切断された生首が持ち去られた。現場のマンションにはもうひとりの女性の死体も転がり、発見者は犯人により死体といっしょに閉じ込められていた。
複雑なプロットが短い枚数でまとめられる。
トリックは例によって例のもの。
いかにも山沢らしいつくりだが、隠された情念がもっと吹き出てもよかったのでは。
これで当座手に入る山沢の作品は全部読んだ。
なんだかここが日本で唯一の山沢晴雄ホームページになってしまったなあ。いちおう私にとっても好きな作家にはなったが、決して大ファンというわけではない。将棋も鉄道もわからないのでいい読者とも言えないし。本当に好きな人の奮起を望む。