本書の角川文庫版の初版は1975年1月。最初は『蜃気楼島の情熱』が併録されていたが、後の版から削除された。
『びっくり箱殺人事件』は、等々力警部が登場するがいちおうノンシリーズ長編になるのか。『獄門島』と平行して連載された作者にはちょっと珍しい部類の作品。
丸の内の梟座のレビュー「パンドーラの匣」に登場する怪物団の
フランケンシュタインの人造人間、
ハイド氏、
ノートルダムのせむし男カジモド、
キングコング、
ねむり男チェザーレ、
カリガリ博士という錚々たる面々が楽屋で殴られてブチ顔になるという椿事があった。
果たしてその夜の公演ではパンドーラの匣から飛び出した短刀で二枚目俳優の石丸啓介が刺し殺されるという事件が起きた。その匣を開けるのは本来は主演女優の紅花子の役割であった。何者が彼女を狙ったのか。そして彼女がその夜に限って匣を開けなかったのは何故か。
カリガリ博士こと深山幽谷とその一党。事故で不具になった元俳優の楽屋番のオペラ座の怪人と仇名される剣突謙造。一六新聞の記者で頓珍漢小僧の野崎六助。
個性的な登場人物があたふたする中、第二の、そして第三の惨劇が。
全編通じてのファースである。登場人物みんなが等々力警部を含めてやたらに「タハハ」と情けない声を上げる。
正史は一体この話をどこから発想したのだろうか。カーの『盲目の理髪師』あたりが下敷きになっているのだろうか。
トリックは予め定めておいて、個性的な登場人物を動かすのを作者自身が楽しんでいる感じがある。
頓珍漢小僧とミドリ嬢の「モギャーッ」「キャッ」のシーンや、突然の暗闇の中で幽谷先生が男女二組の睦言を漏れ聞いてタハハとなるシーンに実は重大な手がかりが隠されていた。
ちょっと怪作だけど面白い。
『北村薫のミステリびっくり箱』付録の秘蔵音源CDにこの作を探偵作家クラブの文士劇でラジオドラマ化したときの音声が収録されていた。
そのときの配役は以下の通り。