本書の角川文庫版の初版は1973年8月。再読であるが何年ぶりかもわからない。
伊豆の下田の南方七里に位置する月琴島の旧家大道寺家は源頼朝の後裔を自称していた。十九年前に大道寺家の一人娘の琴絵は島を訪れた二人の学生の一人と契りを結んで懐妊したが、その学生が変死した。私生児として生まれることになった智子は、五歳で母をも失い、祖母槙と家庭教師の神尾秀子を頼りとして成長してきた。
智子の十八歳の誕生日をきっかけに一同は東京にいる智子の養父大道寺欣造の元に引き取られることになっていた。月琴島を後にした智子たちの一行は伊豆の修善寺温泉で大道寺欣造らの一行と合流した。欣造は智子の婿の候補として三人の青年を連れてきたが、その内の一人が殺されてしまう。一番濃い容疑をかけられたのは事件直後に失踪した多門連太郎という謎の青年だった。
何か凄く異色な気がする。
男を惑い狂わせる美女というのをやろうとしたが、ヒロインはそれでも清純のままにしたかったので、何だか妙な感じになってしまったのか。
多門連太郎を登場させてロマンスの味付けをしようとしているが、中盤で多門は警察に拘束されて筋に絡めなくなる。
犯人については、智子が動機とはいえ論理に合わない行動を取ったように思えた。ただ謎解きをされてみると犯行に踏み切ったきっかけは決して不合理なものではない。さらにそれを元にのぴっきならなくなるまで雪だるま式に狂気を増大させていくことになったというわけで、それなりに説得力があった。
十九年前の犯罪での蝙蝠のくだりは実に面白い。これはチェスタトン「*奇妙な足音*」から発想したものだろうか。
金田一耕助は修善寺の事件から関わっていて、連続殺人は許すは、大切な証拠写真を取り上げられるはの大失態を晒す。
その上に解決後には最初の事件後から目をつけていたとのたまう。
ある人物の妨害工作はあったりしたが、今回も弁護できないレベルである。
その人物の最後の落とし前のつけ方、そして金田一への遺書の内容には涙をそそわれはするが。
金田一の協力者として新日報社の宇津木慎介が登場するが、これは本来は三津木俊介の役どころではないのか。また、風間俊六の二号の割烹旅館松月の女将節子も顔を見せる。
等々力警部も大人向けの長編では初共演。以前より昵懇の間柄であり、いままで二、三度事件をともにしたことがあって、たがいに親愛の情を抱いていた、とある。
[2009.07.27]
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