オール・タイム・ベスト書評

夢野久作


(15)『ドグラ・マグラ』
 日本探偵小説界の奇書といえば、怪奇と衒学の大建築物である
『黒死館殺人事件』、昭和の狂気の告発書『虚無への供物』、そしてこの脳髄の地獄『ドグラ・マグラ』です。
 主人公が時計の鳴る音で目覚めるとそこは精神病院の一室。自分が何者かもわからない。そんな主人公を待っていた運命とは……。
 この小説の内容を説明することは私の拙い文章力では到底できません。どうしても知りたい人は本文85ページからを読んでください。一患者の書いた原稿として『ドグラ・マグラ』の内容が詳細に説明されていますから。『ドグラ・マグラ』の内において。
 さて、言語に絶する経験をした後、主人公は蹌踉ともといた七号室に戻って行きます。そのとき時計の音が……。この長編全体が狂人のみた一瞬の悪夢でないと誰が言えるでしょうか。徹頭徹尾、人を惑わすためにのみ書かれた小説です。
 これを読んだ人間は必ず一度は精神に変調をきたすと言われていますが、私は平気でした(ほんとかね)。



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