割れた鏡 T

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「割れた鏡」を持つのは、縁起が悪い。
その理由は、いろいろあるようです。
これは、「割れた鏡」に纏わる、ちょっと悲しいお話の一つです。

昔々、現在では「ヨーロッパ」と呼ばれる、沢山の国がある地方の物語です。
ある国の中に、二人の男女がおりました。
男性の名は「アンドレア」。
女性の名は「ルイーザ」と言いました。

二人とも「貴族」と呼ばれる身分の高い家柄で、とても裕福な家庭に生まれました。
アンドレアの家は、祖父の代から王家の身を守る「近衛師団」や「衛兵隊」の上官職を勤めている軍人の家柄で、アンドレアも父親の教育で逞しい軍人に成長していました。
しかも、アンドレアは美男子で頭が良く、剣術や馬術も抜群の腕前の優等生だったので、兵学校を卒業すると同時に、縁談の話が次々と舞い込むようになりました。
アンドレアの父親は、近隣の貴族の中でも一番広大な領地を持つ大貴族の娘で、美しさも一番と言われる「ルイーザ」と結婚する事を進めたのでした。


 

アンドレアとルイーザの結婚は、言ってみれば「政略結婚」でした。
結婚式の当日まで、お互いの肖像画くらいしか見ていなかったのです。
しかし、二人の若者は盛大な結婚式の中、初めて会った瞬間に、お互いが一目惚れをしてしまいました。
親同士が勝手に決めた結婚とは言え、それから数年の間、二人の結婚生活は何一つ不自由の無く、いつも笑いが飛び交う幸福そのものの生活が続きました。

ところが、不幸はある日突然に二人を襲いました。
二人の間に生まれた子供が、わずか3歳で伝染病に罹り亡くなってしまったのです。
しかも、涙も乾かないうちに、アンドレアが国境警備隊の連隊長に任命されました。
これは、大変な出世になると同時に、アンドレア一人だけが、都から遠く離れた辺境の土地の兵舎で何年も暮らさなくてはならない事を意味しました。

いよいよ明日、アンドレアの部隊が出発する夜となりました。
ルイーザは、泣きながらアンドレアに言いました。
「子供が死んだばかりだと言うのに、愛する貴方まで遠くに行ってしまう・・・。
私は一人で、どうすればいいの?・・・」


 

アンドレアは、ルイーザに向かって優しく言いました。
「私は、暫の間、遠くへ赴くだけで、別に死んだ訳ではない。
国境警備の連隊長を何年勤めるか分からないが、父上に頼んで出来るだけ早く帰るようにする」
それでも、ルイーザは泣き続けました。
「何年も会えないなんて・・・。
私は、寂しくて気が狂いそうです・・・」
アンドレアは、言葉に詰まりました。
少しの沈黙を置いて、アンドレアが口を開きました。
「私は、いつでも君を・・・、いや、ルイーザの事だけを思っている」
すると、ルイーザが言いました。
「いいえ・・・、国境の近くには大きな町や大勢の人がいます。
もち論、私より美しい貴婦人方も・・・。
貴方の眼も、いずれ他の貴婦人方に奪われてしまうでしょう・・・」
「馬鹿な事を・・・。
悪い冗談を言うものでは無い」
「それでは、神に誓って頂けますか?」
「どう言う意味なのだ?」
「当然、私以外の婦人に眼を向けないと言う誓いで御座います」
ルイーザの真剣な眼差しに、アンドレアは笑顔で答えました。
「それで、少しでも涙が乾くなら、百万遍でも誓う事にしよう」
「いいえ・・・、誓いは一度だけで十分ですわ」
アンドレアは、直ぐに大きな声で誓いの言葉を口にしました。




 

「さあ、これでいいだろう?。
明日の出立は早いから、今夜は早く休みたいのだが・・・」
アンドレアが寝室に向かおうとすると、またルイーザが言いました。
「お待ち下さい。
どうか、再会の『お守り』を、お持ち下さいませ」
「再会の、お守り?」
怪訝な顔になるアンドレアの手を引いて、ルイーザは居間の大鏡の前に立ちました。
鏡には、アンドレアとルイーザの二人の姿が映っています。
「どうか、この二人の姿を、眼に焼き付けておいて下さい」
ルイーザの言葉に、アンドレアは少し戸惑った様子でした。
「眼に焼き付けておけ、だって?・・・」
やがて、ルイーザは居間の飾り物の一つである小型のブロンズ像を手に取り、大鏡へ投げ付けました。
大きな音と共に、大鏡は砕け散り、破片が飛び散りました。



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