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映画について思ったことを気ままに書いています。近い過去に雑誌などに発表したものを中心に掲載します
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映画に登場するリストラ野郎たち |
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感動の現場から 映画の中の本当にカッコいい男たち 映画の中には、カッコいい男が登場すると相場が決まっている。映画というものはおそろしいもので、知らないうちに見る者を登場人物のしかも主役の気分にさせてしまう。ブルース・リーの「燃えよ!ドラゴン」をはじめて見たときには、自分もいつの間にかカンフーの達人のような気分で映画館を出てきたし、シルベスタ・スタローンの「ロッキー」を見たあとには、ランニングをしながらあのロッキーのテーマ音楽が耳の奥で鳴っていた。誰しも思春期から青年期にかけて、1度や2度は、そんな経験をしたことがあるに違いない。 しかし、年齢を経るにつれ、いつしかそうした超人的なスーパーヒーローには心が動かなくなっている自分に気がついた。 長引く不景気を反映して、ドラマや映画にも不況を描いた作品が目立ってきている。 NHKの「プロジェクトX」が、自信を失った企業戦士たちに勇気を与え、過去の栄光、闘いの足跡を見つめる番組として、高い評価と支持を得ている。巨大プロジェクトとその背景にあった男たちの挑戦と挫折、そして成功譚は、戦後日本の高度経済成長を生き抜いた企業と社員たちの肖像として秀逸だ。東京タワーの鉄塔建設の背後にあった建築技師とその恋人のエピソードや、本四架橋公団の橋梁建設の責任者とその妻への愛と死など、巨大プロジェクトそのものの偉大さよりも、それに関わり遂行した人間たち、そしてその妻や家族の絆を感じさせる構成に共感が寄せられているのだろう。 ●VHS ホームビデオのグローバルスタンダードに挑んだ 瀬戸際の男たちを描いた「陽はまた昇る」に感動 この「プロジェクトX」で話題になり、映画化へのはずみをつけた「陽はまた昇る」という映画がある。70年代の前半、右肩上がりの成長を続けてきた日本経済が、戦後初めててマイナス成長に陥った時代、現在と同じく企業は大幅なリストラとコスト削減を余儀なくされていた。日本ビクターの開発技師だった加賀谷静夫(西田敏行)は、ビデオ事業部への異動を命じられる。当時のビデオ事業部は故障が多くソニーが開発したベータマックスに遅れをとり、非採算部門として整理解雇を指揮するために派遣されたようなものだった。しかし彼は、そこに働く技術者の魂に触れ、自らの力で2時間録画を可能にする新しい本格的家庭用ビデオの開発プロジェクトを会社の反対を押し切る形で推進する。「自分の職場は自分たちで守る」という加賀谷の情熱に、日夜不眠不休の開発実験が繰り返された。やがてソニーの1時間録画をしのぐ2時間録画を可能にした「VHS」(ビデオ・ホーム・システム)が完成する。そして家庭での利便性を考えるなら規格の互換性を優先すべきだと、試作機の技術を家電メーカーにすべて公開するという、かつてない大胆な行動に出る。大手家電メーカーである松下電器がVHSの規格を採用することがドラマチックに決定され、今日の家庭用ホームビデオは、ベータを駆逐し、規格を統一することが実現されたのである。 自分の部下たちを守るために心血をそそぐ主人公を演じる西田と、VHS開発に懐疑的だったビデオ事業部の次長・大久保を演じる渡辺謙の実直なサラリーマンの対比も面白い。試作機が完成しながらも、その技術を各家電メーカーに採用してもらわなくては、VHS軍はソニーのベータには勝てない。その時大久保が、深夜にもかかわらず松下幸之助に直談判するために「大阪に行きましょう」と加賀谷に進言。深夜の東名高速の闇を切り裂いて会社の名前の書かれた社用車を駆って大阪へ向かう車中、そこで語られる家族との絆、仕事、そして夢。美しいシーンだ。 西田敏行と渡辺謙、いずれも今をときめく俳優だが、西田はコミカルな演技が人気の庶民派、渡辺はいわゆる二枚目俳優である。この2人が対照的な人物を演じているわけだが、この2人、じつにカッコよく見える。従業員を守るために強烈なリーダーシップを発揮していく西田に対して、会社のキャリア組のエリートとして将来を約束された人物が、西田の人間性に惹かれ何かをふっきり、今度は逆に西田を引っ張っていく。 同じく渡辺謙が主演したテレビドラマで、2002年のお正月12時間番組としてテレビ東京で放映された時代劇「壬生義士伝・新選組でいちばん強かった男」(浅田次郎原作)の主人公にも、真に強い男、そしてカッコよさとは何かを考えるヒントがあった。東北の寒村から仕官し新撰組に入隊した吉村貫一郎(渡辺謙)は、仲間にさげすまれながらも、金のためなら何でもやる男だった。その動機はひとえに妻子への愛である。義のために死ぬという武士の美学から離れ「(妻子のために)死ぬわけにはいかねのすっ」といって、風雲急を告げる情勢の中で何が何でも生きるために、武士としての矜持や見栄を捨て去るところに、この男の強さと迫力があった。 ●失業中年男たちの愛と闘いの感動映画「フル・モンティ」「ブラス!」 イギリスの製鉄の町の男たちがいる。映画「フル・モンティ」の主人公ガズ(ロバート・カーライル)は、不況から工場閉鎖にともなうリストラにあい、失業。昼間からブラブラ、妻にも逃げられ子供の養育費も支払うことができないでいた。職安に通う仲間たちも失意の中にあって希望を見いだせずにいた。元上司も最愛の妻に失業の事実を告げられず毎朝スーツを着て職安に通うのだった。ある日、男性ストリップを偶然目にしたガズは、これで一攫千金を狙う決意をする。破産寸前の失業者たちを集めて、起死回生の大ばくちに打って出ようとするのだが、そろいもそろってダンスもできないお世辞にも美しいとは言い難いおじさんたちばかり。苦難の特訓を経て男たちは女たちの目の前でフル・モンティ(すっぽんぽん)になるのだった。どん底に落ちながらも明るさを失わず、まさに裸一貫からの出直しの過程で、それぞれの男たちは家族や息子との絆を回復していく。可笑しさと同時に、さわやかな感動を呼ぶ上質なコメディである。 同じイギリスの炭坑閉鎖にゆれる町を舞台にした「ブラス!」では、長い伝統を誇る炭坑夫たちによるブラスバンドが存続の危機を迎えていた。失業の恐怖を目の前に、多くのメンバーが音楽を捨てようとするなか、無骨にバンドを守ろうとする主人公ダニー(ピート・ポルスウェイト)。炭坑の閉鎖が決定され、メンバーたちはバンドを解散する気になるが、病に倒れたダニーと解雇された坑夫たちのために、最後の演奏に向けて立ち上がる。質に入れた楽器を買い戻し、再び楽器を手に全英コンクールに向かうのだ。クライマックス、アルバートホールでの演奏、炭坑の街の希望を乗せて渾身の力強い演奏が響き渡る。そして優勝の栄冠を手にする。が、病院を抜け出し演奏を見守ったバンドリーダーのダニーは、満場の聴衆の前で声を詰まらせながら「彼らの炭坑は閉鎖され、多くの者が職を失った。彼らはすばらしい演奏をします。でも何の意味が……?」とのべ、優勝トロフィーを拒否して壇上から降りてしまう。彼は、もはや優勝トロフィーよりも大切なトロフィーを手にした瞬間だった。そして「威風堂々」を演奏しながら凱旋するラストシーンが心に沁みる。 生きがたい現実が、目の前にある。しかし、その困難を乗り越えるには、ひとり自分のためでなく、愛する人、家族、そして友人であり仲間のために生きること、そしてそれこそが究極のかっこいい生き方だと、いずれの作品も語っている。いずれの登場人物たちも、自分の誇りとするものを失い、または失いかけながら、傷ついていく。しかし、家族への愛や仲間への友情を基本に据えたときに、主人公たちは本当の強さを発揮していく。それは甘っちょろいプライドというものではない、勇気を持って泥臭い闘いに向かって突き進んでいく誇り高い姿だ。本当の強さ、カッコいい生き方は、それがはた目にどんなにみっともなくても、愛する者のために生きていくことを選択した人間なのではないだろうか。そんなことを感じさせてくれる、瀬戸際の男たちのがんばりを描いたお勧めの映画たちである。 「男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」というフィリップ・マーロウのあの名言が、耳の奥に蘇ってくる。 陽はまた昇る(12月6日、東映ビデオよりビデオ発売予定) 監督=佐々部清 脚本=西岡琢也、佐々部清 出演=西田敏行、渡辺謙、緒形直人、篠原涼子、真野響子、仲代達矢ほか フル・モンティ(20世紀フォックス エンターテイメントよりDVD発売中) 監督=ピーター・カッタネオ 出演=ロバート・カーライル、トム・ウィルキンソン、マーク、アディほか ブラス!(アミューズピクチャーズよりビデオ、DVD発売中) 監督・脚本=マーク・ハーマン 出演=ピート・ポスルスウェイト、ユアン・マクレガー、タラ・フィッツジェラルドほか 壬生義士伝・新選組でいちばん強かった男(松竹ホームビデオより、ビデオ、DVD発売中) 出演=渡辺謙、高島礼子、柄本明、内藤剛志 |
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硬派イメージの阪本順治監督が放つ、不可思議な魅力の怪作 |
●映画「ぼくんち」 制作=「ぼくんち」フィルムパートナーズ/配給=アスミック・エース、オメガ・ミコット 原作=西原理恵子 監督=阪本順治 脚本=宇野イサム 出演=観月ありさ、矢本悠馬、田中優貴、真木蔵人、今田耕司、岸部一徳、鳳蘭ほか 2003年陽春 シネスイッチ銀座、横浜・関内アカデミーほかにてロードショー ■映画賞総ナメなんて面白くない 2003年の幕開け、映画の世界でも、日本アカデミー賞や各新聞社や出版社などが主催する映画賞が発表になってきた。今年はおそらく山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」が総ナメするに違いない。映画賞といえば、このところひとつの映画がその年の映画賞を総ナメするというのが、だいたい相場だ。かつて「月はどっちに出ている」という作品で各賞を総ナメにした崔洋一監督が、「内外の映画賞をたぶん400か500くらい貰った」というようなことを言っていたが、いい物はいい、確かにそうだ。しかし、そもそも映画の選考基準が曖昧で、選ぶ方にも選び方の個性がないと言わざるを得ない。もっと癖のある選考委員がいて、その基準で、普通は埋もれてしまうような怪作や、もっと世間に見てもらってもいいと思われる小品が選ばれてもいいのではないか。一般の人々もランキングが大好きで、お手軽に世の中の流行や動きが分かるという幻想に踊らされているだけのような気もする。ランキングトップ10だけでは見えてこないものがあるはずなのに。 ■阪本順治監督の新作「ぼくんち」 デビュー作には、その作家のその後を決定づけるようなものが必ず出ているといわれる。 さて、今回の「ぼくんち」という作品を撮った阪本順治監督だが、そのデビュー作となった、元ボクサーの赤井英和を起用した「どついたるねん」の印象もやはり鮮烈だった。そして、一昨年、日本アカデミー賞、キネマ旬報監督賞など、主な映画賞を総ナメにしたのが「顔」(藤山直美主演)とういう作品だった。時効寸前で松山県警の執拗な捜査の果てについに逮捕された福田和子をモデルにした作品だったが、逃亡生活の中で内気だった主人公が大きく人間として変化し成長していくところに感動があった。見応えのある痛快な傑作だった。そして、さらに去年は、日韓の歴史の暗部である金大中事件に真正面から取り組んだ「KT」という極めて硬派なポリティカルアクションで話題をまいたばかり。「ぼくんち」は、これまでどちらかというと硬派な作品の多い阪本監督が、一転して、西原理恵子のマンガをコミカルに映画化したとあって、興味津々だった。もちろん「どついたるねん」以来、「ビリケン」などで見せた大阪出身者らしい小ネタギャグを散りばめる演出はこれまでも健在だったけれど。 関西のとある島で暮らす小学生の兄弟のもとに、家を出たまま行方知れずだった母親といっしょに、見も知らぬ姉が突然帰って来る。ビンサロに勤めながら弟たちの生活の面倒をみる姉との3人の不可思議な生活が始まる。島に住むこれまた不思議かつユニークな人間たちとのふれあいの中で、姉弟たちも、ふたたび家族の絆を確認しながら、それぞれに旅立ちの時を迎えていくというお話。 個性的な役者たちの登場によって飽きることはないし、兄弟を演じた新人の子役たちも難しいセリフをそれなりにこなしているのだが、果たしてこの物語は、誰の物語なのだろうかと、見終わってからしばし考えてしまった。 ピンサロに勤める若き母親を演じた観月ありさも、幼い弟にピンサロってどんなところと聞かれ「オチンチンなめたら5000円貰える」とか、「私のオマンコでそんなもん払うたる」などと威勢のいい啖呵を切るなど、ほんとうにガンバッているのだけれど、どの人物に感情移入していいのやら最後まで掴めずにいた。もちろん、映画というものは、見る人間によって、それぞれ思い入れを持つ人物がいていいのだが、この映画の場合、あまりにもそれぞれのキャラクターが個性的過ぎるのだ。 かつて「時にどうにもならない失敗作を撮らないとダメなんです」と言った巨匠がいたが、硬派な映画が続いたあとに、ちょっと口直しにいかがとでもいうような、阪本監督の不思議な一作である。この作品が12作目となる阪本監督だが、ここまで粒揃いの傑作・秀作をコンスタントにとり続けている監督も珍しい。マンガ原作を読んでいないので、西原理恵子原作の世界をどんな味付けで料理したのかは分からないが、紛れもなく阪本監督でなければ撮れない阪本ワールドの不思議な魅力をもった怪作であることは間違いない。どんな評価が下されるのか、それはやはり観客が決めることなのだろう。 (児玉勲) |
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