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東京鮨東京寿司情報

江戸前鮨。大人の世界だからこそこだわりたい。東京で多数あるお寿司屋の中から、超厳選した特別な店を、個人的見解でもって紹介します。 INDEX  リヴァロの寿司談義






 すきやばし次郎   東京都中央区銀座4ー2ー15塚本素山ビル地下1階  03-3535-3600
主人 銀座・数寄屋橋交差点近く、地下鉄「銀座駅」入口を階段で地下に降りていく。立派な木の看板と暖簾・・引き戸を開けると小さな蹲踞には早春らしい花が活けられている。奥にはこじんまりとしたL字型のカウンターが左にある。ミシュランで3つ星を取ったばかりの頃は電話がかからなかったが、夜2回転制にして予約も入りやすくなっているようだ。

日本酒1杯目を飲み干す間もなく「始めてよろしいですか?」と有無を言わさず握りがスタート。寿司屋には珍しく一人ずつ持ち帰れるローマ字表記のメニューが置かれているのも「海外の客」などを意識してだろう。
スタートは「平目」。口の中で存在感を感じる微妙な歯ごたえがその上質さを表している。「スミイカ」は逆に噛みしめるとネットリと溶けていくようで、平目とのコントラストが楽しい。爽やかなスミイカ特有の甘みがシャリとともにほぐれながら広がっていく。

「ブリ」の後に「マグロ」が3貫続く。「赤身」はやや焦点が緩いがほのかな酸味は美しい。妻は、脂身のバランスの良い「中トロ」を一番気に入ったようだ。「大トロ」は口に入れるとあっという間に溶けてなくなる。「コハダ」は厚みのある身から酢がジュワッとしみ出て、フレンチのソースのようにシャリと混じり合う。

艶やかな「赤貝」はそのヌルリと色気ある身をゆっくりと噛みしめると、綺麗な海の香りがじんわりと広がる。続く「赤貝のヒモ」がさらに良かった。やや歯ごたえのあるヒモからは、より強い磯の香りがパッと漂い、そして口中をあっという間に満たしていき余韻も長い。
そしてしっとりした脂の「アジ」から「車海老」へ。海老ミソを挟み2つに割って供せられる。相変わらず「次郎」ならではの大きさと身の旨みを楽しむ。大きな「ハマグリ」は、口の中で歯を立てるとこぎみよく切れていくほど繊細な身質。煮ツメとのバランスも良くコクと深みのある握りだ。続く「サバ」。

「タコ」は仕込みが面倒なせいもあるのか、最近の寿司屋では出さないところが増えている。「次郎」の蛸はその人肌の温度が絶妙で、清らかな香りがほのかに漂う。噛みしめるほどに甘いエキス分も染み出してきて、車海老以上に良かった。
ネットリした食感でシャリと一体となる「サヨリ」、そしてクリーミーな「雲丹」、「小柱」の軍艦と続く。雲丹の濃厚な甘さ・小柱のほのかな甘みが、備長炭で炙った海苔の香りとそれぞれハーモニーを奏でる。「イクラ」はつやつやとしてとても綺麗で、溶けた後に上品な甘さを感じる。ほぐれて口の中で消えていく、いかにも江戸前という感じの「穴子」。

最後はデザートのようにふんわり甘い「玉」・・20貫30分(一人3万円)で食べ終わり。メニュー表の後ろに印字されている「握られて出来て食いつく鮨の飯」という江戸川柳の通りである。食べ終わるとテーブル席に通されメロンが出される。

とにかく上質さから来る「ネタの綺麗な存在感」は群を抜いている。ただ値段からしたら当然とも言え、他の寿司屋のそれと比較するのは意味がないかもしれない。シャリはハラリとはらける感じではなく、ジワリとネタと渾然一体になる感じ。粘りもかなり感じるためネタによっては「どうかな」と思う瞬間もあるが、空気の入りが良いのか全体的にはいい塩梅で絡み合う。
丁寧な仕事で引き出された上質のネタの「食感」と「自然の甘み」、シャリの「柔らかな触感」と「穏やかな酢と塩加減」、煮キリで感じる「ほのかな醤油の風味」、煮ツメの「繊細でしっとりした旨み」、時々ツンと感じるワサビの「刺激」。これらの味覚・感覚を微妙に絡み合わせた、「計算し尽くされた握り」といえるだろう。

一方、六本木ヒルズ店では巨匠・小野二郎氏の次男・隆士氏が握っている。お昼は、お任せ握り1人15000円のみ。シャリは、「炊き立て」のようにあたたかく、かつ「つや」がある。パラパラでもなくシットリでもなくふわふわ、ネタとのバランスは取れている。こちらの息子さんの方が指が綺麗で長く、その影響もあるのか、握りの形は美しい(夜はこちら)。

「リヴァロ家の食卓」
年の瀬の六本木ヒルズ店で」、「ロブションの後はやっぱり次郎で六本木ヒルズ店で初秋を体感」、「巨匠・小野二郎氏を貸切状態で満喫する贅沢の極地」、「六本木ヒルズ店でランチデートは御主人独占





 鮨 水谷   東京都中央区銀座8-7-7 JUNOビル9F  03-3573-5258
主人 京橋の「与志及」、「すきやばやし次郎」を経て、「次郎横浜店」の水谷氏が銀座に出店した「鮨水谷」。日航ホテル前のビル地下1階から「久兵衛」すぐ前の新ビル9階に移転した。美しく洗練されたこだわりの内装で更にグレードアップ。

マコガレイはまずまず。アオリイカはねっとりとしておりしゃりを混じり合う。続いて、すきやばし次郎と同じくマグロ3連発。赤身、中トロ、大トロ。コハダを挟んで、赤貝、ミル貝、トリ貝と貝類が続くのにちょっとびっくりするも、トリ貝はその独特の肉質がすばらしい。「江戸以来、戦後昭和30年までの永い間、握り寿司の品数には変化がなく、シラウオ、コハダ、キス・・赤貝、ミル貝、タイラ貝、トリ貝、あさり、アオヤギ・・といった寿司が普通だった」というから、古典に忠実ともいえるだろうか。


ネタに関しては、爽やかな酸味と脂がすばらしいマグロ、美しい宝石箱のような小柱・ウニの軍艦巻、デザートのような卵焼きは、すきやばし次郎と同じ印象。ただ車海老は次郎のそれよりかなり小さく、茹でてからやや時間が経っており、冷たく感じた。かんぴょう巻きは、次郎ほど甘くなくこちらの方が好きだった。ガリも次郎より甘みが感じられず、上品な酢がツンと立っておりおいしい。

必要以上に口を開かない水谷氏の握る姿勢は美しい。捨てシャリをかなり神経質に(多い時はひとつまみ、ふたつまみ、そしてまたもう1回と)行う。そして2本の中指・人差し指がきれいに反り返り、押さえていく。できあがりの握りは小振りで非常に美しいが、扇型ではない。細長いというか、長方形というか、独特の流線型。ほのかに暖かさを感じるシャリは、バランスよく切られたネタとともに、ゆっくりと、しっとりと、口の中で混ざり合う。

当代有数の握り手といわれる水谷氏の握りは、非常に「謙虚」というか、オーソドックスで古典的。派手さはないが、時間が経つとまた食べたくなる感じだろうか。「握る人間の味は、すしの味のなかに消せ」といわれるが、まさにそんな握りが食べられる店である。

「リヴァロ家の食卓」男一人で 鮨 水谷新店舗で更に洗練、至福の時





 松波   東京都台東区駒形1-9-5  03-8341-4317
主人 浅草の下町にこじんまりと一昔前のモダンな建物。ドアを開けると、玉砂利が敷き詰められていて、赤と黒が印象的ならせん階段がある。2階から聞こえる「いらっしゃいませ」という声をたよりに階段を上ると、松波さんと奥さんが迎えてくれる。
昔、1階は宴会場だったが、今は2階カウンターしか使用していない。2階は、細長いカウンターで12、13名。カウンター右端にはちょっとした工夫がある。そこだけ正方形になってて、松波さん側にも椅子がおかれている。つまり、ちょっとしたテーブル感覚で、4~5名が向かい合って頂くこともできる。

小さなざるに本日のネタが綺麗に並べられている。その中からお勧めの刺身を切ってもらう。薄く切られたカンパチは、脂がのっているにもかかわらず繊細でしまっている。縁側とともに頂く星かれいも秀逸。タコは柔らかく旨みが凝縮されている。細長く切ったあおりいかには練り梅、サバには酢みそなど、随所にこだわりがうかがえるも、「好きなように食べて結構ですよ」と一言添えるのを忘れない心配り。

期待が高まったところで早速握ってもらう。形は見事なまでに綺麗な流線型。口に運ぶ時にはボリューム感を感じるけど、口に入れると人肌のシャリがゆっくりネタと混ざりあう。シャリの1粒1粒は固めだが、それが柔らかくまとまっている。次郎の「泡雪」、おけいの「男性的な味わい」ともまた異なる、「バランスの妙」だろうか。
大とろ、アナゴはそれ自体とろける感じ。海老のすり身と山芋をふんだんなく混ぜて、ほんわりと焼いた卵はスフレのよう。北海道産のウニはシャリとともに口の中で消えていく。柔らかい握りに、やはり柔らかい味わいの日本酒「賀茂鶴」が実によく合う。

江戸っ子らしい、しかし優しい松波さんのやわらかな話しぶりで、下町風情を味わいつつ、伝説の京橋「与志乃」譲りの最高の江戸前が頂ける店。





 あら輝   東京都中央区銀座5-14-14 サンリット銀座ビルⅡ1F  03-3545-0199
主人 2010年2月上野毛から銀座5丁目に移転した寿司の「あら輝」。4月に閉館取り壊しとなる歌舞伎座の反対側、細路地沿いという好立地にある。新店の構えは、エントランスが二重になり余裕があるほか、カウンターも一直線で9席のみ。カウンター後ろに客の荷物置くスペースをゆったりと取っている。椅子も今までの赤色ではなく落ち着いた色調で安らぎを与える。

まずは星ガレイと縁側からスタート。トコブシは繊細な味付け、特に小さな肝はかみしめると海の香りが漂う。長崎からは初ガツオ。カツオの出汁を含ませた醤油が海苔とともにさっとかけられておりそのまま頂く。赤い柔らかい酸味がとても綺麗。これも繊細な味わいだ。続いて函館のキタムラサキウニ。軽く塩が振られて透き通るような甘みを引き出している。
軽く火が入り風味豊かなバチコを頂くうちに、荒木氏は大きなマグロのブロックをドンと出して、赤身はヅケに、中トロ・大トロは握り用に切り付ける。愛おしそうに用意する姿に鮪に対する愛情を感じる。

握りは鯛からスタート。それから中トロ2個、大トロ2個と続く。福岡で揚がったマグロという。シャリも適度な大きさで緩めに握られているので、2個共あっという間になくなる。中トロは、甘みと旨味の余韻が長くしばらく口の奥で余韻を楽しむ。大トロは上品にとろけ、むしろ繊細な広がり。

アジは軽く炙ってかぐわしい香りとアジ特有のネットリした旨みをやんわりと引き出している。煮きりをソースの様に多めに垂らしてアクセントに。そして東京湾のコハダは、フンワリとシャリが沈み込む。やや強い塩、酢でぎゅっと迫ってくる。「すきやばし次郎」のように、粒が立っていてあからさまにはらける訳ではないが、ネットリとネタと一緒にバランスよく広がり、ネタの特徴とシャリの美味しさを最大限引き出してる感じだ。
新烏賊、三河の車海老は、生暖かくやや歯ごたえを残し甲殻類の上品な甘さ。手渡しで頂く浅利も噛み堪えがあり、浅利特有の苦み走った甘さ。穴子はふんわりと江戸前らしい仕上がり。
〆の玉子は、烏骨鶏と地黄卵を合わせたもの。適度なしっとり感、適度な甘さ、そして適度な風味。寿司屋の玉子は甘すぎたり・凝りすぎたり・家庭ぽかったりと、なかなかいい寿司屋が少ないがこれは良かった。追加でお勧めの巻きを頼むと、中トロを巻いて切った後に大トロをまぶした贅沢な一品が出てきた。

昼でゆったりしていたこともあるだろうが、笑顔で自然体に接客しており居心地も良い。繊細なツマミから徐々に濃い味に移り、握りは白身の後のマグロ尽くしで一気に佳境を迎え、あとはゴール目指して一手ずつ丁寧に打っていく。そんな計算された骨太のコース。
握りも色気があり男好きするだろう。少食の女性や幅広い種類の握りを食べたいタイプ、お好みで食べたいタイプには合わないが、主人・荒木水都弘氏のストーリーに素直に乗れば十分に堪能できる江戸前寿司だ。

「リヴァロ家の食卓」銀座移転、新しい寿司ストーリーが始まるマグロはさすが!世界に向かう鮨 あら輝








 銀座 青空   東京都中央区銀座8-5-8 かわばたビル3F  03-3573-1144
主人 「すきやばし次郎」で12年修業した高橋青空氏が2006年に独立した「銀座 青空(はるたか)」。若い寿司職人の握りに期待満々?の男性一人客、接待らしきグループ、大人の落着いたカップルなどでL字型のカウンター10席に、掘ごたつの小さな部屋も満席だ。掛け軸が飾ってある小奇麗な内装の中に、主人はキリリと美しい立ち姿。的確な所作で客のペースにあわせて握っていく。

数日熟成させたスミイカは、ネットリ感と新鮮さのギリギリの着地点。赤身、中トロ、大トロも熟成感がある。シャリの形自体は、「すきやばし次郎」とも「鮨 水谷」とも異なり、長方形の台座型で決して美しくははない。ただ、きりりとした酸、やや強めの塩加減は男っぽく、ネタとのバランスが良くて美味しい。
何と言っても抜群なのは「次郎」譲りのコハダと車海老。流線型も美しく切り付けられたコハダは、噛み締めるとジュワーと心地好い酢がしみでてくる。
客に出す直前に茹でられる車海老は、どの寿司屋よりも大きい。二つに切られて供せられ、それぞれ味噌とおぼろが一緒に握られている。みその香り、甲殻類の独特の甘さがシャリと混じり合う。抜群のハーモニーだ。

冷酒は「手取川」を頂く。コクがありながらキリッとして上品な酒質が[青空」の粋な握りと良く合う。「次郎」と違ってゆっくりと酒も飲める。24時までと遅い時間までやっているので、ふらりと訪れやすいのも便利だ。
美しい立居振る舞い、自分なりの色を出していこうとする向上心、奢らないがおもねりもしない接客、そして抜群に上質なネタ・・・訪れる者に、これからも成長する姿を応援したいと思わせる、そんな魅力がある店だった。





 ほかけ   東京都中央区銀座4-10-6  03-6383-3300
主人 銀座三越の横から銀座4丁目に移転してもう3・4年になるか。小綺麗で清潔感のある空間・・手狭な感じが逆に落ち着く。入り口入ってすぐ右には水屋、カウンターを越えて奥には小さな小上がりもある。
以前のレトロな昭和な雰囲気はなくなったが、飴色に変色したツケ台や古色然とした屋根はそのまま移築して、あの頃の情緒は残っている。何とも言えぬ居心地の良さは相変わらずだ。

しばらくすると奥から高齢の御主人がゆっくりと登場。期待感と安心感を感じるのはキャリアというものだろうか。
カウンターの横には、仕込み中のザルにあげられたコハダとアジが綺麗に並べられている。そのアジ、コハダ、そしてあなご、煮アワビはオーソドックスな江戸前の仕事。かすご、赤身、トリガイ。うに、小柱は軍艦で。そして海老のすり身入りの卵でしめ。これは、というものはないものの、総じて安心して頂ける。

お昼時にうかがったが客はおらず貸し切り状態。御主人はこちらの食べるペースを見ながら、頃合いを図ってあっという間に握る。そのスピードの早いこと、早いこと。シャリの形は平べったく、また時には崩れていて決して美しい握りとは言えないし、ネタもやや大きめだが、口に含むとほんのりと暖かいシャリがネタと軽妙に混ざり合う。安心できるうまさ、という感じか。

御主人は余計な口ははさまないが、「光り物がお好きなんですか」「もっと食べられそうですね」など話しかけてくれる。その表情がとっても柔らかい。お茶を運んでくる奥さんの身のこなしも優しく柔らかい。脈々と引き継がれる江戸前の伝統寿司を、昔の下町のような雰囲気の中で心地よく味わえる店。

「リヴァロ家の食卓」懐の大きさを感じる寿司屋
昔ながらの江戸前鮨と秋の気配





 鮨処 しみづ   東京都港区新橋2-15-13  03-3591-5763
主人 烏森神社新橋鶴八」で11年修行後、若くして独立した30代の大将が握っている。場所は新橋鶴八の近く、烏森神社の横丁の、「えっ!?こんなところに?」っていう場所にある。

店の中は、8席程度のカウンターで清潔な店構え。大将も30代とはいえ、大柄で落ち着いている一方、気さくに客に声をかける努力をしているなど好印象。客の年齢層は高く落ち着いている。

仕入れには力を入れている様子かな? 鶴八が古典的なネタもシャリも大ぶりで、喉につまりそうな感じだとすると、ココは古典的な点も残しながらも、現代的な点も入れていこうとしている感じ。シャリの堅さは鶴八譲りで堅めだが、若干小さめ。

ネタの車エビは次郎と同じく、握りを2つに切って出てくる。鰹のたたきも次郎と同じく藁であぶるなど、スモーキーな味わいを出していたね。ウニは、鶴八が2種類を軍艦巻きにすることを売りにしているけど、ココはあえて握ってみせる。鮑蒸しはココの売りの一つで、他の客も全員注文していたよ。握りよりもつまみの方が美味しい。
師匠の技術を前提に、いろいろな工夫を見せている点は非常に好印象だったなぁ。場所も新橋駅近くと使いやすいので、また行ってみたい店の一つ。

「リヴァロ家の食卓」盛夏、江戸前鮨で楽しめ!





 はしぐち   東京都千代田区麹町5-7紀尾井町タワービル2F  03-5275-5877
主人 故・里見真三氏がお気に入りだったという「はしぐち」。カウンター6席、夫婦2名だけでひっそりと佇むお店。ビル自体は、女将さんが「タワービルっていうけどタワーじゃないんですよね」と笑うほど小さな古いビルの2階。しかし店内は清潔そのもので好印象。

目の前の寿司だねには、品数は少ないものの上品かつ新鮮なネタが綺麗に整列して並んでいる。ここの寿司は美しい流線型。大将がゆっくりした動きで握った後に、目の前に置かれる寿司は沈み込むんだ。生きているかの様に「フー」と息を吐いて、寿司が高さを変える。
その昔「すきやばやし次郎」の寿司は沈み込むという伝説があったけど、少なくとも私が食べた時は沈まなかったが(笑)、ココはしぐちのそれは確かに沈んでいた。その味わいは非常にや柔らかい。江戸前特有のあのハラハラやパラパラというより、優しく口の中でネタと混ざり合うね。沈み込むほどに柔らかく、シャリの中に空気を入れて握っているからだろう。夫婦2人で真面目に取り組む姿勢がそのまま「寿司」に表れている感じがして好印象だった。

おつまみはそれほど多くはないけど、穴子は煮詰めがほどよい甘さで美味しい。握りはこの日、中トロが中トロとは思えない位の旨味が出ていて良かった。新イカは新鮮なだけでなく見栄えも良い。包丁をいれずに柔らかなカーブを帯びた真っ白なイカがシャリに乗って流線型を形作っていて、しばし目で楽しんだ後、口の中に放り込むととろけていった。
シンコの4枚付けはシンコらしい柔らかい食感が、柔らかいシャリと渾然となって本当に秀逸だった。シンコは今年は市場でも高値が付いてしまいどの寿司屋も苦労していたけど、この夏食べたシンコの中では一番だった。ココの芸術的な握りを思い出すとまた食べに行きたくなる。






 鮨 喜寿司   東京都中央区日本橋人形町2-7-13  03-3666-1682
主人 大正12年創業の老舗「鮨 き寿司」。日本橋人形町の大通りからはずれた小さな通り沿い、木造瓦葺きの昔ながらの店構えだ。年期の入ったL字型のカウンター。テーブル、座敷もある。お昼だったがおまかせをお願いすると、「8個にしましょうか。10個にしましょうか」と尋ねられたので、とりあえず8個をお願いする。
3代目になるご主人油井さんは、背筋をピンと張り姿勢良く握る。こちらの食べ具合を確認しながら握ってくれる。他のお客さんの注文が重なり少し時間を取らせるときは、「少々お待ちいたけますでしょうか。」ととても丁寧だ。きちんとした人柄が伺える。

綺麗だが深みのある酸味の赤身。なかなか上質の真鯛はかぶすを軽く絞って供される。酸味が爽やかだ。イカ、トロ、シンコ。シンコはもう大振りになっているが、とても旨みにあふれたシメ具合。車海老、アナゴで一通り。
もちろん追加で、赤貝、いわし、あじと頂く。ほんのりとした温かみのあるシャリは、やや大きめのネタとゆっくりと交じり合う。口の中でのバランスがとてもいいから素直に味覚に響いてくる。おいしい。更に、ご主人にお勧めを聞くとイクラを勧めてくれる。優しく漬け込まれた自家製のイクラは、とても小さなミニどんぶりで。上品な味わいにスッ、スッとあっという間に平らげてしまう。

現代の寿司の「美しく小ぶりな形の握りが、口の中でハラリほどけて、ネタと調和するおいしさ」とは違う。しかしこちらは、「お寿司って、色々考えずにおいしく頂いていたなぁ・・」と昔ながらの握り寿司のおいしさを思い出させてくれる。
話し込んでいる客には話しかけず、一人客にはそれとなく目配りするなど、丁寧で目配りの効いた接客は、いかにも下町の江戸前寿司らしい。
店内は一昔前の相撲取りの写真が張られたり、寒川神社の神棚があったりと風情がある。昔は良く関取が来ていたとか、油井さんも2~3歳の頃に抱っこされていたとか、80代の常連さんとご主人との会話が盛り上がるにつれ、店内の雰囲気が和らいでいく。タイムスリップしたかのような心地よい風情に身を任せていただく、昔ながらの握り鮨を堪能した。








 鮨 青木   東京都中央区銀座6ー7-4 銀座タカハシビル2階  03-3289-1044
主人 先代が急死されて跡を継いでもう10年越え、銀座の寿司を代表する名声を維持している。二人客一人客、そして銀座の女性を連れた客と様々な客層だ。
カウンターは奥行き細長く、華やかに赤い椅子がそなえつけられている。中ほどにテーブル席もある。一番奥に御主人・青木利勝氏、そして真ん中、手前にもそれぞれ職人がたたずむ。

お任せでつまみから頂く。さて握り、「平目」は温かく塩気の感じるシャリと混じり合って良い塩梅。「平目縁側」。美しく光っている「コハダ」は程よい締め具合。「アジ」はなめらかで上品な脂がシャリとほどけてとても美味。
「赤身」「中トロ」「大トロ」とつづく。この時期はなか
なか難しいが、「カマの部分に近いです」というトロはなかなか脂が広がって良かった。
「アオリイカ」はネットリとまとわりつくような歯ごたえが、らしい味わい。「トリガイ」は海の香りがぱっと口中に広がり、力強い磯の味わいが余韻として残る。手渡される「タイラガイ」の磯辺巻きはは海苔の風味とあぶったタイラガイのほのかな甘みが混じり合う。

「車海老」は中に海老ミソをかませてある。海老ミソとミリンなどを和えた特製だ。独特の旨みが車海老の甲殻類のニュアンスとともに感じられる。北海道根室のクリーミーな「雲丹」。
「穴子」にはフランスのフルールドセルがまぶされる。このあたりは弟さんがパリで料理屋をしているという青木らしい。「巻物」はカマに近い部分のトロの鉄火を楽しむ。口の中で適度な脂が海苔、シャリと綺麗なハーモニーを奏でる。

握りはやや小さめだが端正で整っている。人肌で力強い味わいのシャリと、一流のネタとのバランス良い混じり加減。エッジの効いた握りを求める求道者には物足りないかもしれないし、つまみや接客だけからすると別の店があるのかもしれない。しかし清潔感のある空気の中リラックスして、上質のネタとほどよいシャリとともに「鮨」本来の楽しさを満喫できる。余り難しいことを考えずに楽しめるところがここの特長かもしれない。
夜は特に常連客を中心にお酒が入り華やかでそうぞうしい雰囲気。値段も含め「銀座のお寿司」を体現する寿司屋であることは間違いない。

ちなみに、西麻布交差点近くにできた西麻布店。京都の宮大工が手掛けた店内は、木の温もりと香りを感じる落ち着いた雰囲気。綺麗に磨きあげられたメインカウンターは、大きなガラス越しに中庭が見える開放的な作り。右奥にはL字型のカウンターもあり貸し切って利用する客も多いという。清々しい雰囲気で落ち着いて食事ができるので、こちらもオススメ。

「リヴァロ家の食卓」西麻布の粋な新店舗で味わう銀座本店で大人のランチデート





 すし処 宮葉   東京都港区浜松町2-11-8  03-3431-3880
主人 ふと思い立って一人浜松町から徒歩で「すし処 宮葉」に向かう。思いもかけず満席だったが、何とか一人滑り込ませてもらう。ご主人・宮葉幹男氏も忙しそうだ。長年勤めた職人などが辞めて、今は二人だけで切り盛りしているという。
「お任せ」をお願いして、まずは冷酒を頂きながらご主人の仕事ぶりに目をやる。やや猫背で黙認と握る・・シャリをつかみとり、ネタとあわせる際に一度捨てシャリをする。噴火湾の「中トロ」「大トロ」2貫からスタート。
忙しいからか形はやや不揃いで手にもシャリが残るが、口に入れた途端引き込まれる。シャリは粘ることなくはらけるが、これみよがしではなく自然な感じだ。スルリとはらけてネタと一緒になる・・なるほど、年季を感じる握りだろう。こうして通して食べると技術が分かるというものだ。同じシャリ、同じネタを使っていても握り手で差が出るところが、鮨のまた面白いところだろう。

「鰈」は歯ごたえがあり上質な甘味と旨味が広がる。集中して一人黙々と食べていると「どうですか?」とご主人。「シンコ、シンコ」と言いながら楽しそうに目の前に置いてくれる。今年初のそれを頂く・・シンコらしい穏やかで儚い歯ごたえに日本の夏を感じる。
「かすご」は逆に肉厚がありジンワリと酢が染み出してくる。「イカ」も肉厚があり甘さが好ましい。「アジ」、「ウニ軍艦」、生の「イクラ」は可憐な甘味がしとやかに広がる。「赤貝」は微かな歯ごたえに続き、海の香りと塩気が漂う。
「ハマグリ」は出汁とともにスルスルと頂く・・宮葉の定番だ。柚子の香りと爽やかな甘味、その奥にある蛤の軽い苦みが余韻をまとめあげる。「これも珍しいですね」と言うと「昔はしていた仕事なんだよ。こういう仕事を寿司屋は残していかないとね」と嬉しそうに答える。「巻き」はかんぴょう。かんぴょうの甘味の後に海苔の風味とともに山葵がつんと鼻をつく。

甘味だったり、酸味だったり、香りだったり・・それぞれの構成要素の配置がズレず安定してる。女性にも「良かったら手で食べて下さいね!」とか、「手が届かないから出来たらお客さん達もっと詰めて座って頂けますか!」とかビシリと背筋が伸びた接客(笑) 鮨を食べ慣れてない客だと萎縮するかもしれないが、個人的にはこういうレトロな雰囲気・接客も嫌いでない(デートには向かない?から妻を連れて行くことは難しい)。
いずれにしろキャリアの長い握り手の熟達の技とそのベースにある温かい気持ちを感じながら、伝統を食せる鮨屋といえる。こういう年季ある職人の昔ながらの江戸前にもたまには足を運びたいと改めて思えた。





 西麻布    東京都港区西麻布2-11-5 カパルア西麻布  03-5774-4372
主人 西麻布交差点を右折し、外苑西通りに入ってすぐの小さい路地。「西麻布 拓」がひっそりと佇む。寿司屋らしからぬコンクリートの打ちっ放し、のれんをくぐると店内は思いの外広々としている。落ち着いた大人の雰囲気だ。正面に8席のカウンター、左手に個室。個室もカウンターを囲む様になっていて、職人が目の前で握るという。
翌朝1時までやっている営業時間のせいか、19時20時でもさほど込んでいない。外国人の常連客がワインを楽しんでいる様は、いかにも3年連続でミシュラン東京2つ星らしい風情。

ここ「拓」の特徴は、店主と女性ソムリエの共同経営である点だ。工夫したワインの品揃え(もちろんフランチレストランほどではないが、寿司屋にしては豊富)のリストが楽しい。

炭火で火を入れられたつぶ貝はその歯ごたえと風味を味わう。エボダイの押し寿司、そしてサヨリの笹焼き。笹の香りをしっかりまとわせたサヨリのふっくらとした身がおいしい。ここでかすごの握りが入る。続いておつまみに戻り、甘く仕上げた富山の白海老。岩手の原木の椎茸は、周りに火が入っているものの、中はぷりりとしたかみごたえで抜群の一品だった。そしてスミイカの握り・・・

つまみと握りを交互に出すところは「すし匠」を思わせる。尋ねるとやはり「久兵衛」など複数の修行先の中にすし匠もあった。接客が柔らかく自然体なところなどは、なるほど久兵衛の良さを吸収しているのかもしれない。「すきやばし次郎」のように一つの店で長年修行するタイプ(どちらかというと握り中心店が多い)と、複数の店を渡り歩くタイプ(どちらかというとおつまみ充実店が多い)、客側にとってもそれぞれの楽しさを使い分ける選択肢が広がっていることを改めて実感した。

ボトル売りしているワインも、相談するとグラスで出してくれるところがソムリエらしい工夫で嬉しい。グラスが豊富(柔軟)だと、寿司屋でも色んなワインを堪能できる。ただワインに門外漢だとグラス売りはロスが出やすいから、なかなか他の寿司屋では難しいだろう。女性ソムリエが共同経営している長所が十分に生かされている。

アナゴの西京焼き、鮪は赤ワインに合わせて、北海道と大間の雲丹食べ比べは白ワインで楽しんだ。シャリの形は美しくないが、シャリとネタのバランスは良い。握りの味わいとしては中庸タイプだが、鮪は赤酢で握る工夫や、コハダのミニ巻き、イクラのミニ丼、印籠巻きなどバリエーション豊かな楽しさはある。
翌日どの「握り」を食べたか印象は薄く、握りの旨さをしっかり堪能したなあという余韻は残らないものの、場所柄にあった店のコンセプト(企画)が上手で、デートなどにも使いやすいだろう。





 鮨 かねさか   東京都中央区銀座8-10-3  03-5568-4411
主人 銀座、建物入口に分かりやすい表示があるが、実際の入口は地下で狭い階段をぐるぐる降りて行く。店内もかなり狭く、入ってすぐのカウンター、左奥にずずっとまわったカウンターに分かれている。従業員の行き来もし辛い程のギリギリのスペースという感じ。必然、握り手に正対しない客が多くなり、座った席によっては違和感がある。ただ職人の仕事ぶりなどは横や後ろからよく見える事になる。
和でありながらモダンなデザインを意識して造られている内装。簾風の天井と飾られた緑が涼しげに合う。店入口右奥には寿司屋らしからぬ、赤いソファの小さなボックス席がある。

握りをお任せでお願いした。白身から始まり、トロを前半の山に持ってきて、こはだを境に後半がスタートしての山場というオーソドックスな、いわゆる「次郎流れ」で20貫弱。
白身は「まこがれい」「ほしがれい」。この時期、「まこ」を握る店は多いが、高級な「ほし」まで持ってくるところに素材に対するこだわりを感じる。しゃりは人肌よりやや温かい。塩がかなり強いため、食事初め、かつ、白身だとポンと浮く感じだ。

続いて「中トロ」「大トロ」「づけ」。佐渡のまぐろは普通。「すみいか」「コハダ」。コハダはかなり強い締め。強いシャリとは合うのかもしれない。「かつお」「あじ」には葱たたきをポンと載せている。「キスこぶ締め」、「白うお」にはカボス。
「車海老」はミソもあわせて。クリーミーなゆで加減。東京ミシュランが二つ星つけたのはこのあたりもあるだろう。フランスのフレンチは概していずれも塩がかなり強い。そしてラングスティーヌのサラダなど、トロリとした甘味を出した前菜も多い(日本人フレンチシェフだときちんと綺麗な火入れをしてしまいがち)。そんなフレンチ本場テイストを感じる車海老。
「はまぐり」。ツメを合わせない仕上がりだが、とてもジューシーではまぐり特有の旨み。「うに」「あなご」は塩とタレ。久兵衛譲り。巻物は「トロ」と「かんぴょう」。卵はとてもクリーミー。

ワインリストにはシャンパーニュ、白、赤の定番ものをそろえている。例えば、シャンパーニュは補糖しないリンとした酸味と辛味が和食にもあわせやすいローラン・ペリエを持ってきている。ワインクラースタンドも用意してある。
客あしらいも久兵衛出身だけにそつがない。握りはやはり久兵衛らしい、悪くいえば「ゆるい」、よくいえば「やさしい」握り。ハラリとしたシャリとネタの融合を目指す握りではなく、いわゆる、ネタとジュワッとした一体感を目指す握り。付け台から指で持ち上げる時に折れてしまう事もあった。





 すし屋 真魚   東京都中央区銀座1-11-2 ホテル西洋銀座1F  03-3562-7890
主人 銀座1丁目の「ホテル西洋銀座」一階、車止めのエントランスと反対側端にひっそりと佇む「すし屋 真魚」。同じく銀座の鮨「かねさか」が手掛ける店だ。入口の木戸は成田屋模様で暖簾は荒磯模様という歌舞伎らしい様子・・・市川海老蔵監修の店としても話題だ。
店内は清潔で落ちついた雰囲気。正面には大屋石が埋め込まれ、しっとりと風合いで店内になじんでいる。カウンターも清潔感があり居心地がいい。
店名の「真魚(まお)」は「弘法大師・空海の幼名で、末永く人気を博するようにという、初代市川団十郎歌の祈願が込められている」という建前。が、妻はポツリと「海老蔵のお嫁さんの名前だよね」と勝手に決めつけていた(笑)

お任せで握りを頂くことにする。まこがれいは上質な甘みと歯ごたえが良い。新島のしまあじは独特の風味が面白いが今一つ。マグロは赤身づけと剥がし。「この時期は鮪も一番難しい時期で、今日のは両方とも鹿児島のものです」と言うがその通りだろう。
イカ、コハダ、真鯵。車海老は人肌、味噌の部分の半生の風味をいかして。徳島の赤ウニはミニ丼で楽しく頂く。唐津よりやや大振りで甘さが強くてなかなかの味わいだ。
ミルガイが綺麗な後味で上質。一晩付け込んでしっとりとしたシャコ。穴子は塩とタレで。最後のかんぴょう巻で締める。

ミシュラン東京2つ星の「かねさか」の系列店として、2009年6月オープンするや早くも2009年版ミシュラン東京で1つ星を獲得。ネタは「かねさか」と同じルートの仕入でそれなりの品質。そして若い職人・笑顔のサービスによる気の置けない優しい接客という点は確かにミシュラン好みではあるが、握りの印象としては特に強い印象は残らない、穏やかなもの。握りの形も時々崩れることがあった。
歌舞伎好きのご年配を連れて行くと話題としては喜ばれるかもしれない。品のある空間でデートにも使えるが、寿司を食べ慣れた味重視の方には満点とはいかないだろう。「ホテル西洋銀座」を利用する際や近場で時間が空いた時に、フラリと気軽に訪問するという寿司屋にはぴったりだ。

「リヴァロ家の食卓」
飛び込みで一人穏やかに味わえる穴場





 鮨 真   東京都港区西麻布4-3-10-3F 03-5485-0031
主人 ある昼に向かったのは、六本木ヒルズから西麻布交差点を左折してすぐの、雑居ビル3階にある鮨「真(しん)」。ビル入口の控えめな案内が目印。店内は広くはないが小綺麗で優しい色合い。カウンターは8名も座れば満席だがややカーブを描いたL字型であるため、客同士の視線が微妙に合わない。カウンター自体は重厚感はなく軽いが、その計算された設計が鮨に集中するには良い。
西麻布という場所柄もあり、客層は食好きらしい落ち着いた大人が中心だった(目前の鮨を放置しておしゃべりに熱中するマダム軍団もいたが)。

お浸しはきっちりダシを効かせているが柔らかい味わい。L字型カウンター左奥に一目をひく大きなお櫃。そこから手前の小さなお櫃に移して握られていく。若くて男前な大将は、一見の客にも名前を呼んで挨拶するように心がけているようだ。若手4、5名もテキパキと作業をこなしてとても気持ちがいい。
さらりとお決まりを頂くことにする。鯛からスタートして、さば・赤身付け・たこ・赤貝・とろ・車えび・ホタテ・ウニ軍艦・穴子と進んで、玉子でしめる。軽く締められた鯖は薄い昆布をのせて握られる。赤酢がほのかに色付く強い味わいのシャリと抜群の相性。タコ・赤貝は丁寧に包丁を目の前で入れていき、口の中でふっくらとしている。特に赤貝は海の香りがフワッっと鼻の奥に広がった。
 トロもねっとりとシャリと一緒に口の中に吸い付くよう。下味をつけてほんのり色が付いたホタテは、擂りおろした柚を振るなど細かい仕事も目をひく。最後に追加したコハダは大きめに切られ、口の中で噛み締めるとじんわりと旨味に溢れた酢がゆっくり広がり、かすかに暖かい色気あるシャリと渾然一体となった。

大将若手もピリッと真剣に仕事をこなしているが、客に不必要な緊張感は意識的に与えないように意を配っていた(「俺の仕事はこうなんだから、分からねえ奴はくるな」的な一昔前の寿司屋に典型な開き直りとは対極である)。お茶は三分の一位飲むとすぐ熱々が注き足される。一貫食べ終わる毎に台をサッと取り上げ綺麗に拭きあげ、次の握りに準備する。そんな様々な心遣いを自然に行うところも、東京ミシュランで3年連続一つ星と評価されている所以かもしれない。
握り一つ一つはよく練られているが、「大河のような骨太の流れ」、「全体として迫ってくる完成度」には至らず、単発・単発の勝負になっている感じはする。が、また麻布辺りに来たら寄りたい良いお店だった。





 鮨 そら   東京都中央区日本橋室町2-1-1 マンダリンオリエンタル東京38F  03-3270-8800
妻 「マンダリンオリエンタル東京」の38階フロント横、江戸前鮨の生まれ故郷である日本橋にできた新感覚のオシャレなお寿司屋さん。壁一面の窓の向こうに広がる大きな夏空と「東京スカイツリー」の景色はかなり美しい、さすが38階からの眺めといった感じ。内装はマンダリンお馴染みの小坂竜氏が手掛けている。実はその絶景の為に、わざわざ角度を計算し配置したという「樹齢350年の尾州檜カウンター」・・なるほど少し斜めな感じ。
8席のみというこじんまりした空間でも、マンダリンらしいエキゾチックな漆黒に盆栽や金箔、カラフルな食器が浮かび上がるモダンな演出。職人やサービスも若く語学堪能で、やはりホテルらしい感じは外国人に安心なはず。寿司通というよりは寿司デートに向いている雰囲気ね。

板長さんはまだ30代と若く、コンラッド東京「風花 (鮨カウンター)」にいた以外は全国の漁場を回ったという変わった経歴を持つ。後の二人の職人も更に若く、香港やフランチャイズ寿司店出身者と、アメリカ帰国子女で銀座「鮨 きよ本」出身者。当然ながら語学ができることを前提にした個性的で面々よ。

さて本題、お任せでお願いすると白身や貝類など色々出てくる。出汁にも気を配っていて繊細で綺麗な味わいにまとめている感じはホテルらしいわ。「古代米の酢」を使用したシャリは珍しいピンク色をしていているけど、「味わいは繊細でネタを邪魔しないね」とうちの主人談。
綺麗に仕事されたネタケースや、発想豊かな醤油や酢の使い方など、若い職人さんに色々聞くにつけ楽しくお酒もクイクイ進んでいく。酒担当の女性スタッフもホテルらしい爽やかで居心地良い接客。

握りは「アオリイカ」「タイラガイ」「サバ」「アジ」「コハダ」など。北海道「羽立水産の生うに」はかなりの迫力で甘くふんわり。更に「アワビ」「車エビ」「アサリ」「穴子」「玉」。
うちの主人が言うには「シャリの味はやや骨格が弱い感じもする」と。ただ「きよ本」出身の若手職人の「握り自体は形・はらけ具合ともきちんとしていて、安心して食べられた」との事(職人3人によるローテーションのようなので、職人によって違いがあるかもしれない)。

そして私がはまってしまったのはまた鮪。少し熟した大間の鮪を「赤身」「中トロ」「大トロ」、更に脂がのった「カマ近く」を炙って頂いた。九州でなかなか満足するマグロには巡り会えないので、思わず目がくらんでしまう。・・・しかしここはホテルだった。追加追加はきっちり加算されていて、とてもランチとは言えない高額な値段になっていた!きっと決まったコースや予算を言うと大丈夫なはずなので、デート使用の方はくれぐれも「鮪追加」にはご注意下さい(笑)

若い個性的なスタッフ達とエキゾチックな雰囲気、ホテルならではの贅沢な仕入れと丁寧なサービス。うちの主人曰く「寿司好きや鮨通が敢えて通う店ではないが、ホテル宿泊客や外国人観光客には重宝されるのでは?」との事。空に浮かぶランチも良いが、来年5月にはライトアップされる「東京スカイツリー」の夜景もきっと見応えあると思うわ。





 すし 與兵衛(よへえ)   江東区大島2-24-5 コーポ高橋1F  03-3682-3805
主人 席に着くと、皿に盛られたおつまみ盛り合わせが供せられる。牡蠣の煮びたし、海老頭、煮ホタテなど。それぞれ味わい深く、これから始まる握りへの期待が高まる。

ご夫婦で軽妙に客あしらいをしながら、てきぱきと握っている。握りの形は綺麗。強めに握っているのかかなりシャリが詰まっている感じを受ける。ガチッとした骨格を感じる男っぽい握り。
珍しい北寄貝はその食感が楽しい。ミル貝もジューシー。そして何と言ってもサヨリが抜群に良かった。肉厚があり噛みしめるとじわっと酢がにじみ出てくる。
名店のコハダで感じる感覚。煮ハマグリはハマグリらしい心地よい苦みがシャリと混じり合う。アナゴには煮ツメがトロリと。見た目にも味わい的にもかなり濃いツメ。個人的にはもう少し軽やかな感じが好きだが、いかにも昔ながらの仕事という感じで嬉しい。

西大島のうらさびしい商店街を抜けたところポツリとあるロケーションがまた一興。こんな寿司屋が近所にあったら・・・と思わせる。昔の伝統を引き継ぐ江戸前の仕事と江戸っ子らしい明るい接客がすがすがしい寿司屋。
銀座「久兵衛」で10年近く修行し、ドイツで職人をした後、ここ西大島の地に與兵衛を開いて既に20年以上になる。








 すし善 銀座店 
主人 北海道・札幌「すし善 本店」を訪問して以来。銀座店は汐留からに移転してきて久しい。汐留店も開放的な空間が嫌いではなかったが、大箱のテーブル席がなくなり、より目が届きやすいように移転したとの事。入り口すぐ右側、さらに奥と2つのカウンターに分かれている。カウンター席数は汐留店とほぼ同じというが、地下ということもありこじんまりと落ち着いた空間だ。

「お任せの握り」は「鯛」からスタート。「閖上の赤貝」はしっとりした噛み心地から海の香りが広がる。「スミイカ」は大葉を挟み柚子をかける。続く「和歌山のトロ」は、春らしく澄み渡るような清廉な脂が口の中に薄っらと広がる。「北海道のオースケ」は一日漬けにしたもの。一瞬トロッぽい脂を感じた後に、ゆっくりとサーモンらしい独特のコクが広がるから面白い。噛み応えのある新鮮な「アジ」。豊予海峡の四国側で獲れたものだ。流線型の「コハダ」もにじみ出る酢の加減もなかなか良かった。

「北海道の海水ウニ」は丁寧に一個ずつ軍艦の上に重ねられていく。それにさっと「広島の藻塩」がふられる。台座が低くて独特の形、それがかえってウニの甘味を引き立てた。茹で立ての「車海老」は、ミソにおぼろをまぶしてみじん切りにして握られる。最後はすし善オリジナルの「トロタク」。その名の通り、トロとタクアンの巻物である。賄いから人気の定番に昇華したという一品は、ゴマと共に爽やかに〆てくれた。

6名の職人のうち4名は北海道から来ている。江戸前の進化した現代鮨ではないが、北海道らしいネタは楽しい(といっても大半は築地だというが)。握りはやや粘るが形は整っている。ネタはやや大振りにきりつけるがネタ自体は薄めなので、口の中で交じり合うバランスは決して悪くない。シャリの味付けも品が良く全体的に安心して食べられる握りだ。

江戸前の仕事を取り込みながらも、やりすぎてない適度さ。素材の新鮮さを全面に出す北海道寿司の良さを感じる事ができる。地方寿司に慣れた人には馴染みやすいかもしれない。「鮨」に向き合うというより肩肘はらずに「寿司」を楽しむことができる店であろう。





 銀座 久兵衛   東京都中央区銀座8‐7‐6  03-3571-6523
主人 銀座・九兵衛1階のカウンターが一杯でも、2階、3階にそれぞれカウンター。どの職人にあたってもそれなりに楽しめるのが強み。一方で、あの人の握りを食べられる、という楽しみはないのが弱み。

刺身は薄く切ったマコガレイ。ここはいつも白身を透き通るようにうすく切るが、これではあまり白身の旨味が味わえないと思う。生のトリガイは海の滋味が広がる。大トロ・赤身は普通。コハダはまずまずのしめかた。穴子の肝を焼き鳥のように棒状にして。三千盛が進む。
握りに移行して、マコガレイ、アジ。サバは時期終わりで細っているが特有の香りが楽しめる。アオリイカ、サヨリ、車海老、ウニ、イクラと続くが、特に特徴がないものの、おいしくは頂く。アナゴは恒例通り、塩とタレの2種類で。
シャリのはらけ具合、シャリとネタのバランス・・云々を言う前に、様々なネタで酒が進む店。ネタ重視の博多前寿司に慣れている九州人には分かりやすい寿司といえるかもしれない。
握りそれ自体は、印象に残らないものの、安定した中庸の寿司。なお、職人は等しくサービス・接客に優れており、楽しく安心して時間が過ごせる意味では非常に優れた店(なお、仲居の女性はびっくりする位態度が悪い。接客ウリの店なのだから、仲居の接客態度は改善して欲しい)。接待はもちろんだが、デートや女性客も多い。

魯山人は昭和28年に、秀逸な寿司屋として対照的な2店をあげている。1店は一人で仕事をする「新富支店」、もう1店が久兵衛である。
「西銀座にすばらしい店舗を持つ久兵衛は、古くさい寿司屋形式を排し、一躍近代感覚に富むところの新建築をもって唖然たらしめるものがある」
「久兵衛のは贅沢寿司として文句なし。握り具合はほどよい特色を有し、酒の肴になる寿司である」
「一方、新富支店はイナセな名人肌というものを受け継いでいる。久兵衛も鮨となると平均して新富支店には及ばない」
「新富支店は遠慮の固まりのごとく細々としながら、どぎった寿司を作るのがおもしろい。久兵衛は全く違い、その明快な性格に惚れ込み客が次々に訪れる」

「新富支店」を「おけい寿司」や「はしぐち」に置き換えると、平成の世の「江戸前界」でも50年前のその指摘は正鵠を得ている。その意味では、久兵衛も伝統を守っているといえるのだろう。

「リヴァロ家の食卓」親孝行だね、鮨 久いち久兵衛のニューオータニ店で昼寿司





 寿司幸本店   東京都中央区銀座6-3-8  03-3571-1968
主人 1階、2階にそれぞれカウンター。1階はL字型のカウンターで10名も座れば、肩ふれあう感じでかなりギチギチ。中に3~4名いる職人との距離も思いの外近く、まさに昔の屋台を彷彿させる。客は場所柄、同伴はもとよりカップルが多いし、年齢層もかなり高い。
明治18年創業、銀座数寄屋通り沿いという敷居を全く感じさせない雰囲気。それとなく会話に入り込んでくる客あしらいは上手だ。そんな雰囲気が饒舌にさせるのか、客の方も思い思いに楽しんでいる様子。

「おつまみからお任せで適当に」とお願いすると、煮込んだしゃこの爪、かじきまぐろの焼き物、あんきもに白子の煮付けなど、日本酒に合うおつまみが出てくる。しろえびを和えたものは、甘みが芳醇でなかなかだった。
両隣を見ても、同じ品が同じペースで出ている。刺身は普通の小皿にのって出てきて量も少ない。博多寿司のおつまみに慣れている身にとっては驚きの一品はない。

握りを頼むと、いいペースで握ってくれる。周りはまだおつまみをちびちびと食べており、握りをぱくつく客は少ない。季節柄か、中トロ、赤貝はかなり新鮮かつ上質だった。握りは適度の大きさ、バランスは悪くないが、印象はさほど残らない中庸の握り。しゃりの印象も薄い。客を選ばないという感じだろう。

値段的に
は同じ銀座の「青木」などに比べると、かなり押さえている方ではないかな。丸の内ビルにも店出して、客に人気のあった愛想良い職人が移ったんだ。





 吉野鮨本店   東京都中央区日本橋3-8-11政吉ビル1F  03-3274-3001
主人 創業明治12年という江戸前の老舗で、「トロ」握りの発祥の店。現在は4代目と5代目がこの老舗を守っている。サラリーマン・OLが行き交う日本橋の通り沿いに大きな看板。店内に入ると、左側にL字形のカウンター、右側には掘りこたつ式の小さな座敷2つと、小さなテーブルが3つほど。カウンターに座ると、やや高さのある、昔ながらの普通の透明ネタケース。

盛り込みを頼むと、赤身、中トロ、イカ、車エビ、穴子に玉など8貫と鉄火3つがスイと出てきた。冷たいシャリは固めで、一粒一粒に酢飯の味を感じる。子どもの頃、近所の寿司屋に連れられたときを思い出す・・「懐かしい~」というあじわい。

食べ終わったところでお好みで握りを追加。いきなりのギアチェンジで、暖かいシャリに繊細なネタを握ってくれる。アワビは切りこみを入れ、美しい流線型。コハダは優しい酢の利かせ方で極上。小柱は新鮮でヒラメは旨みを感じるね。シャリはゆっくり優しく、温かさを保ちつつほどけていき、盛り込みで感じた固さをそれほど感じさせない。

そう、3代目の故吉野曻雄氏が握りの理想として指摘する「家庭でつくるおにぎりの握りかげん」という感じだ。
例えて言えば、盛り込みの握りは「遠足の日、朝早く親が作ってくれたおにぎりをお昼に頂く」感じで、お好みの追加握りは「遠足に出かける前に、あつあつをくすねて食べるできたてのおにぎり」って感じだろうか?個人的には、最初からお好みで通して頂いた方がより満足できると思う。

従業員も明るくて敷居は低く、老夫婦、おばさんの集団、サラリーマンなどが、肩肘はらずに「食べている」。盛り込みだけだと2000円、ビール1本にお好み6貫追加で5000円弱という、驚く値段だった。気軽に寿司をパクッといきたい時、そんな時にはぴったりのお店だ。





 新橋 鶴八   東京都港区新橋2-16-1ニュー新橋ビル2階  03-3591-1551
主人 恐ろしく古い新橋の駅前雑居ビル。中には飲食店・チケット屋・安売り紳士服屋などが入り乱れている。その2階の片隅に、江戸前の伝統を引き継ぐ「新橋鶴八」がある。
大将は16歳から神保町の名店「鶴八」で修行して、この新橋に店出して20年以上たつらしい。今では本店の「鶴八」よりもココの方が名声高くて、江戸前寿司の5店の1つに上げる人も少なくない。

お昼13時10分くらいに訪問した。客は誰もおらず、既に店じまいの途中だったようだ。こじんまりとした古い店は「名店」との予習がないと、入ったことを後悔しそうな造り。カウンター横には雑然と、ビールの空きケースが置いてあったりする。

無言で弟子がワサビをすり出す。出された握りは、シャリは堅めでやや大ぶり、酢のシメ具合は適度。ネタも大きい。グイと喉に押し込むと、ワサビがツーンと鼻をつく感じさ。次郎もそうだが、江戸前には博多寿司にはない、ワサビの味がある。
それから、コハダは大きい!博多の2・5倍はありそうだ。ウニはてんこ盛り。「江戸前はウニなんか握れねえよ」なんて言ったのは一昔前だ。どんどん握ってもらううちに暖簾がしまわれ、店内には大将と向き合う私だけ。

アナゴに合わせて再度コハダを注文。大将もノってきたのか動きが大きく、笑顔が出てくる。「それでは!」と鶴八名物の「トロの鉄火巻」を注文。ドンと出された巻は4つ。海苔からはみ出るように、トロが入っていた。そしてやっぱり最後は玉。今までの大味な握りとは違い、非常に繊細で甘いデザートのよう。

「握り寿司」は周知のように、江戸市中でうまれたファーストフードだった。当初は旅路を急ぐ江戸商人なんかが、出店屋台でパク付いたのが発祥。今回は、まるで江戸市中の屋台にいるような不思議な気分だった。
30分で寿司12貫、トロの鉄火巻と玉。しめて1万1000円。「寿司」に値段を払ったというより、江戸前の「伝統芸能」にお金を払ったという感じだろうか?「ごちそうさまでした!」と声をかけると、上機嫌の大将が「ありがとやした!」と2度大声。
大きめのネタ、堅めでのどに詰まりそうなシャリ、江戸市中の寿司の面影を現代に残すイメージか。デートや夫婦では決して使えないが、「江戸前の歴史」を勉強した一店ではあった。





 寿司 仙   東京都中央区銀座8ー6ー9  03-3571-3288
主人 銀座の三井アーバンホテルを右手に見ながらやや進むと、右手に日中にもかかわらず細暗く狭い路地。思い切ってすすむと寿司仙との看板。並びには小笹寿しもある。カウンター10席、70年近くの歴史を数える江戸前の店。

年輩の職人が2人たたずみにこやかに、違うネタを1個ずつ2個セットで、テンポよく付け台に置いていく。赤身と大トロ。冷蔵庫から出したばかりなのか、ひんやりしすぎており、赤身の酸が生きていない。カレイ・カスゴ。濃い煮キリが、白身に合う。青柳・あわび。青柳は色もキレイで、絶妙な味加減。コハダ・アジ。コハダの〆加減はあまり好みではない。アジは季節柄おいしいが、やや大振りすぎるのでシャリとのバランスが悪い。ウニ・煮あわび、穴子・卵。最後の干瓢巻は、その強い醤油味がシャリと混ざり合いほどよい加減。
そのシャリは人肌、やや粘っこく、ハラリと崩れる感じはない。ここもほかけと同じような平べったい形で、時々形が崩れている。ネタはやや大振りなため、煮ツメや煮キリがトロリと付け台にこぼれ、口に運んだ後、毎回、職人がふき取る。その煮ツメはやや濃い。ガリは廻る寿司屋でよくみるような、薄い紅色の細切りで今ひとつ。

現代の江戸前寿司とは対局にある、昔ながらの江戸前寿司。特筆すべき握りではないが、年輩の店主の柔らかい物腰・風情など雰囲気のある寿司屋。カウンターや店内もキレイだし、場所柄接待に使える。ただし同じ風情の同じ味わいというくくりで、1人で握りを食べるのであれば「ほかけ」の方がお勧め。





 すし匠 はな家与兵衛   東京都新宿区四谷1-11陽臨堂ビル  03-3351-6387
主人 店入口JR四谷駅から四谷1丁目に向かう途中を左折するとすぐにある店。40歳前後と若い大将の中澤氏は、福岡・大阪を含め全国を流れ歩いてここに開業。現在新進気鋭の店の一つ。カウンターは15席程度、洗練されて清潔感のある店構え。

系統はつまみ系なんだけど、途中に握りをつまみのようにはさんでくるのが特徴。またおつまみも、博多寿司の割烹系とは異なり、目新しいものをほんの少しずつといった感じ。
この日は、あさりの甘辛煮から始まり、富山のしろ海老、イカの印籠巻、あげ巻き貝の串焼き、つぶ貝の肝、etc・・・とにかく次から次へと、ちょこちょことつまみが出て来る。

日本酒も、まず料理に合わせた中庸から始め、それを基準に辛目・甘目のどちらが好きか・・・と面白い飲み方を勧めてくれた。握り自体にはさほど特徴はなく、印象に残らない。一通り出てくる握りは量ともに不満かな・・・。追加した玉は、江戸前の伝統をいかした海老をきざんでいれこんだものと、出汁巻きの2種で楽しめた。さらに北海道のバフンウニと唐津のアカウニをそれぞれ追加して味わい、食べ比べもできた(バフンウニに軍配。アカウニはかなり小粒で博多に完敗)。

2人で5万円(お任せ一通りにかなり握りを追加、日本酒3杯ずつ程度)で、満足度よりはやや高め。なお、つまみはかなり塩気が強いし、鰹のたたきやさんまの刺身につける醤油もかなり濃い。江戸前が濃いといっても、この店はかな~りしょっぱいんじゃないかな? 翌日は胃が疲れてた。

妻
 サービスは好印象よ。大将以外の職人さんもフレンドリーで、一品一品の説明も詳しいし気が利く印象ね。でも「握り」をじっくり楽しむ感じはないので、好き嫌いはかなり分かれそう。お酒が得意じゃない人には向かない店かもね。








 すし処 喜久好   東京都港区赤坂3丁目16−2 赤坂栄林会館  03-3585-2478
主人 赤坂見附の飲食店街、階段を降りていく。そこには「伝説の握り手、藤本繁蔵譲りの握り」が味える「すし処 喜久好(きくよし)」がある。入口横には石鉢に石狐で風情ある様子。「握」の文字の入った暖簾をくぐると右側に4名ほど座れようかという座敷、左側にカウンター。年期が入っているが広くて小奇麗は好印象。カウンターは綺麗にみがきあげられ、ステンレスも光っている。

おまかせでお願いする。ひらめ。熟成させ三日目の大間のマグロの赤身づけ。「この時期だから150キロ位だけど扱いやすく良いです」と言う。
続いて中トロ、いか。コハダは、大振りで美しく切りつけられてある。流麗で色気がある。すごく柔らかく仕上げてあり「九州産のコハダは固めですからね、これはかなりソフトでしょう」と大将。
車えび、うに軍艦、こばしら、赤貝、さば、しめたひらめ。変わったところでげそまき。げそのカリカリした歯ごたえが新鮮で、とろりとしたつめとハーモニー。
穴子は目の前のコンロでさっと火が通される。シャリに合わて低温に温められた大振りの穴子が、シャリをすっぽり覆い隠す。小皿で供せられるその出で立ちはふんわりと優雅。卵は最低二日間は冷蔵庫でねかせるという 、この日四日目の卵は独特の粘りと柔らかさだ。

独特の、とても早いペースで握っていく。昔ながらの大振りな握り。シャリは体温位の温みめの暖かさ。ふっくらたきあげられたシャリは、昔ながらの「お握り」を彷彿とさせる。
無口だが、尋ねると笑顔で色々と教えてくれる。握りの形、味わいは現代最先端のその握りではない。妻にはその大きさ、スピードはハードだったようだ(笑) デートには向かないこと請け合いだが、こんな昔ながらの仕事を続ける、江戸前の真摯な仕事ぶりに敬意を表したい。





 小笹寿し   東京都中央区銀座8-6-18  03-3289-2227
主人 本家「小笹寿し」の系統をふむ。カウンター中央付近は大将が担当し、奥は年輩の職人が担当するんだ。その職人が担当した

ネタがかなり大きく、シャリが見えなくなる。親指をあまり効かせていない。軽く握るが握り終わった後、提供する直前に思い出したかのようにギューともう一度固める
普通見られる形を整える所作ではない)。だから強制的に形作られたそのシャリの形は悪くないが、口の中ではらける感じは全くない。ネタとシャリが口の中でバランス悪く混じり合う。アジ、鯖など魚そのものを感じるよ。
握り終わった後、包丁をふいたフキンで、ネタからたれる煮きりをふいたりする。それもたまたま1回ではない。

ちなみに大将には以上の所作はなく、軽やかに握るが親指はあまり効かせていない。二人とも意識的に余り客に目線をやらないようにしてて、そのため威圧感はほとんどない
良い意味で、回転寿司のカウンターのような気軽さを演出している)。カウンターに座ったカップル、女性客はそれぞれにこやかに握りを楽しんでいる。

定評のあなごは確かに美味しい。江戸前のあのとろける穴子は苦手で・・という方も楽しめるだろう。おつまみとして、穴子をあぶった雉焼き(きじやき)を頂くのも一興だ。
握り方がどうの、シャリがどうの、清潔感がどうの、そんなことはさておき、日本全国津々浦々、地元で愛されているお寿司屋さんはたくさんあるだろう。そんなお店が、たまたま銀座にあり、たまたま銀座の住人に愛されている・・・・そんな感じの寿司屋かな。





 おけい寿司   東京都中央区八重洲1-8-11  03-3271-9928
主人 おけい寿司の主人は平成20年8月に引退したため、現在は代替わりして、恰幅の良い二番手だった若手が跡を継いだ。暖簾も新しく再スタートをきっている。
最後のきゅうりの巻物は、先代時代通りの軽やかな酸味がしめにふさわしい。シャリの形も先代譲りの箱形だが、ネタとのバランス悪くハラケル感じはない。しめた平目、コハダともにゆるい味わい。宝石箱のようだったネタ箱がなんとなく雑然としていた。先代に追いつくのは大変だが伝統の継承にがんばって頂きたい。


(以下、先代時 L字型10席のカウンターの奥、ご主人の左斜め前に寿司だねがある。寿司だねといっても長方形の檜の箱で、真ん中の小柱を中心として、ぐるっと新鮮なネタが並んでいて、カウンター客の目も喜ばす。時々、「ピシ」「パリ」と音がするのは、寿司だねの下の氷が割れる音で、食欲をそそるよ。

お任せの握りはトロからスタート。スズキ、アジ、ミル貝、穴子、車エビなどが続く。ここの握りは非常に小さめのシャリの上に、上品にネタがのっていて、まず見栄えが優雅で美しいんだ。ところが口に入れると、黒酢を使った堅めのシャリの一粒一粒がしなやかにほぐれるものの、最後の最後まで口の中に残って、ネタと混ざり合う。次郎の寿司の「泡雪」のように口中で消える感じを女性的と表現するなら、おけい寿司のそれは非常に男性的といえるかもしれない。

江戸前ならではのネタとしては、ハマグリが良かったね。こちらは大ぶりのハマグリに煮詰めをトロっと塗ってある。小さめのシャリの上にこのハマグリを載せると、シャリが見えなくなり一見バランスは悪く、つまむのはやっとこさ。ところが口に入れると、シャリの粒のほどけ具合・一粒一粒の強さが絶妙にバランスを取る。
それからウニや小柱の軍艦巻き!これが小さくて本当に芸術品のよう。指の第1関節、第2関節に乗っかるぐらい、普通の軍艦巻きと比べると高さがない。普通の握りとほとんどおなじ大きさのシャリに、本当に少しだけの海苔で巻いて、軍艦巻きにしあげてる。苦労せずに口に入れることができて、軍艦巻きとして食べたことを忘れてしまう位だ。

おけい寿司の歴史は昭和8年創業の銀座「御慶ずし」に始まり、魯山人ごひいきだった寿司屋としても有名だが、そんなことを露とも感じさせない、ご主人の気配りは居心地が良い。


「リヴァロ家の食卓」
夏の訪れはシンコで。(2)