短 歌
《15首詠》
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| 耕して天に到りて戻らざる人も田毎に帰る月の夜 |
小原起久子 |
| 桔梗を手折れば指に青しみてはや、秋と知るその冷たきに |
福島洸 |
| 《今月の作品》 |
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| 天空に失せたる影をとりもどし降りくる観覧車のどのボックスも |
山下和夫 |
| どんぐりの二粒をわれに呉れにけり認知症なる神のごとき笑み |
鈴木明子 |
| 住み古りて老が惰情の草の庭うつつ世の外ひがん花赤し |
仁歩きしの |
| 風の傷負いたる梨がくぼみにも糖度あまねくとどめおきたる |
細野悦子 |
| 光年のひびきためいる吹割の滝足下より落下してゆく |
関根さつき |
| プラネタリウムに銀河を越えてなおもゆく「死んでも命のありますように」 |
池田美智子 |
| 校庭のメタセコイアも夏休み蝉の脱け殻いつぱい下げて |
石井恵美子 |
| 「筆先で紙を切り裂くやうに書け」といひつつ口調も強くなりゆく |
板垣志津子 |
| われらが陸に上がりて何代目 還りゆく波を見おり蜻蛉と |
井上俊子 |
| 欅大樹は天心へいま登りゆく万葉にみどりの水を満たして |
江原幸子 |
| 相容れぬことの詮無し 根を太く種宿しいるカタバミを抜く |
遠藤キヨ |
| 女ひとり住む家に盆の客あるらし車一台ま夏日反す |
遠藤良子 |
| 実習生を前に看護師わが腕に針さすじっと見守る 長し |
岡本富子 |
| 追い越され追いこされし道はるか負けることにも馴れて老いたり |
加藤文子 |
| 坐らざる椅子の二脚を日常の余白とおもう朝の厨辺 |
菊地 葩 |
| 祖母の家へは近くて遠し村の道闇の限りを死人つきくる |
久保田トミ子 |
| プールより地上に戻るスロープにずつしり重し空気といふは |
熊谷淑江 |
| 閑かさの雨に目覚めていましばし水の底ひに横たわりおり |
小池稔治 |
| 藍淡き額紫陽花の飾られてコーヒー豆屋に早夏のきざしが |
崎田ユミ |
| 復員後を美術と生徒指導に力注ぎたる若鮎のごとき先生なりき |
佐藤和子 |
| 林中に雨の音の静かなり泰山木がさらりと匂う |
島野政枝 |
| 夕闇はたちまちに来て我が視界曇らせば知らず裡を見ている |
田村奈織美 |
| やわき手でクルリと描きし似顔絵に婆の眼鏡は忘れられたる |
兵藤光江 |
| 時雨きてとびこむ茶房 コーヒーのカップに描かれて山吹の花 |
船岡与茂子 |
| 万本の向日葵の実の熟れる音聴けりと思う真昼間の黙 |
細谷 榮 |
| なかぞらの時間の扉を漏れてくる日照雨とおもい掌に享けている |
堀江良子 |
| 忽然と霧払われて残雪の尾根夏雲の中につづけり |
牧口静江 |
| わが裡の鬼を眠らせ鏡にはたとへば嘘があるやうな昼 |
宮崎あゆみ |
| 夕闇を裂きて自転車漕ぎ行けば紅の椿が吾に近づく |
宮澤 Y |
| 職業欄には傘寿を期して記入せず色即是空色即是空 |
室岡仙太郎 |
| 政権は上書き保存に継続か蹴り損いの毬栗が痛い |
茂木益子 |
| 水槽に声なく一ついる亀の孵化せぬ卵在りて夏逝く |
茂木タケ |
| 夫逝きて独りとなりし老女らの語らいふとも止む一瞬あり |
森 たま江 |
| 瀧画きて瀧となりゆくひと時を山のひびきのゆたけきに居る |
矢代康子 |
| 貼り替えねばならぬ障子を閉ざしたり晩秋の陽の沈むひとり居 |
横田峰子 |
| 古代米を守る案山子の九体がひとつ増えたり稗抜く老婆 |
吉田悦子 |
| 独り居の倦怠をのがれまた独りスターバックスに文庫本読む |
吉田佳図子 |
| 縛られてなお咲き誇りいし盆栽のサツキの紅の乱れ落ちたる |
吉田貞子 |
| 忽然と一本の筋昇りゆく天までの赤 彼岸花燃ゆ |
四ッ柳富子 |
| 花火消え白煙も消え何事も無かったような夜空見ている |
伊藤由美子 |
| 見目も良く甘え上手だった友「ボロになっちゃった」の一言寂し |
斎藤幸子 |
| 雨の日の便りはうすく滲みおり鎌倉山の紫陽花いろに |
小曽根昌子 |
| さらさらと竹の葉をふく風の音難聴の吾の鼻先に聞こゆ |
廣岡敏彦 |
| 障子の桟にごみかとみれば小さき蜘蛛手足ちぢめてこの世を見てる |
小林八重 |
| レガッタの艇庫の傍えのひまわりは見開きしまま朽ちてゆくらん |
木村静子 |
| 闇の中に白木蓮の浮かび出で人は夢追う如く見とれる |
石川ひろ |
| 類例を探しおりたる「しきたりとマナー」閉じ福寿草を紫に描く |
佐藤真理子 |
| 学生に切り刻まれし献体はジャッキに下がり動かずありき |
武田久雄 |