最近よく降る雨のせいで、緑がぐんぐん成長している。 雨上がりに枝をふるわす木々からは、濃い緑の匂い。まだ早いけれど、 そこには確かに夏の気配があって、歩いているだけで 気分が良くなる感じ。駅から家までの約30分の道のりを、だから 最近は歩いて帰ったりしているのだけれど、その途中には、わたしが3年間 通っていた高校がある。 毎日友達としゃべりながら通い、泳いだあとの(水泳部だった) 心地よい疲れをひきずりながら、これまたおしゃべりしながら帰っていた 道のり。この道を歩いて、この緑の匂いを感じていたのも、もう10年も前かぁ、 なんて、その気がなくてもついつい郷愁を感じてしまう、そんな道のり。
そして、この緑の匂いを嗅ぐと思い出してしまう思い出がもうひとつ。
そのころ私は恋をしていて、その人とは何度か遊びに行って、結構いい感じなんだけれど、
でも決定的なことを言われたわけでもなく、これから私たちどうなるんだろう?
そんな感じだった。
6月のある晩、12時をまわった頃にその彼から電話がかかってきた。
「旅行のお土産を持ってきたんだけど、今から家出られる?」
その日はちょうどわたしの誕生日で、だから「もしかして・・・?」なんて期待しつつ
わたしは家を出た。でもそのお土産は名産品のお菓子で、なーんだ、とちょっと
残念な気持ちを押さえながら、近くの公園のベンチでしばらく話をした。
だらだら続く世間話の中で、いい加減わたしも眠くなり、もう帰りたいなぁ、と
心の中で思いながらも、ずっと話に付き合っていた。でもさすがに、1時間くらいその
どうでもいい世間話が続いたころには、段々どうでもよくなって
「実は今日誕生日なんだ。」
と自分から切り出した。すると彼はこう言った。「・・・・知ってるよ。でも
自分から言い出すなよ。」と。そして「誕生日おめでとう」、と小さなプレゼントを
くれた。その日から2人の恋は始まった。
多分彼は言い出すタイミングが見つからなくて、だからきっとえんえん世間話を続け、
私もなんとなくその気配がわかっていて、でも待っていられなくて自分から誕生日の
ことを言い出した。(なんだか「ラブレター」で美穂ちゃんが回想する
プロポーズのシーンみたい。神戸が舞台だったよね)もっとかっこよく言ってよね、と
思いつつ、その怒ってふてくされたような言い方がかわいくて、嬉しくて、
そしてその場に漂っていた濃厚な緑の匂いは、その時の記憶とともにわたしの胸に
今も刻まれている。あの不器用な感じはちょっと忘れられない。緑の中で始まった恋。
そういえば、今の彼と仲良くなったのもこの季節。蛍を見に行った。 ちょっと遠出なドライブで行き着いたその場所は、ものすごいたくさんの蛍が乱舞していた。 走っている車の窓から見える緑や、漂ってくる空気の感じ、 あの夜のあの田舎の緑の匂いもちょっと忘れがたい。緑の中で始まったもうひとつの恋。 今年もまた、あの緑の中へ蛍を見に行く予定になっている。
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