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Written by Yutaka on 29 February 1996
ハワイ旅行に思い切って行ったのは、1994年12月のことでした。出発前は、重度自閉症児の長男テピ(当時10歳)が逃げ場のない飛行機内や公共の交通機関でかんしゃくを爆発させはしないか、突発的に病気になりはしないか、予想もつかないような事態をひきおこしはしないかと、不安いっぱいでした。ハワイが天国になるか、地獄になるか、本当に分からない状態で出発でした。
長男は、移動中驚くほど静かでした。空港の待合い室でも、ウオークマンに聞き入っていて、騒ぎを起こしませんでした。
ウオークマンで耳をふさぐ作戦は、NIFTY/FEDHAN8番会議室でアドバイス頂いた「音に対する過剰反応対処法」のひとつで、旅行に備えて準備したものです。実は、長男は耳に触れられるのが大嫌いで、ヘッドホンやイヤホンは嫌悪の対象になっておりましたので、ウオークマン法はうちの子には適用できないな、とあきらめていました。ところが、長男がお気に入りのMacのエデュテインメントソフトをプレイしている時に、サウンドをインナーイヤー型ヘッドホンで聞かせてみたら、いとも簡単にそれを受け入れてくれたのです。再生装置をMacからウオークマンに変えても結果は良好でした。そして出発前には、長男の大好きな曲を集めたテープをウオークマンで聞くことに熱中するようになっていました。これさえあれば、嫌いな音に悩むことはありません。また、ウオークマンは音を遮断する役目をするだけでなく、少し不安定になったときに安定剤の役目も果たしてくれました。
機内でも、備え付けのヘッドホンで音楽を聞きながら、静かに過ごしました。機内には幼い子どもを連れたファミリーが沢山同乗していたので、赤ちゃんや幼児の泣き叫ぶ声がひっきりなしに響いたのですが、長男は動じませんでした。私には長男が神様のように見えました。
千歳ーホノルル間は、往きが5時間で帰りが9時間でした。その間、普通児の次男(当時7歳)はしっかり睡眠をとっていましたが、長男は一睡もせずに過ごしました。
危機一髪だったのは、ホノルル到着後、ホテルにチェックインするまでの間です。現地時間の朝7時にホノルルに着いたのですが、ホテルにチェックインできるのは午後です。機内で一睡もできなかった長男は、さすがに10時を過ぎるとふらふらになって、機嫌が悪くなってきました。
ビーチに行ってはみたものの、とても楽しむ状況ではありません。少し落ちつく場所へ、と思ってアイマックスシアターに入ったのですが、暗い場所で心地よいサウンドに囲まれて、いつの間にか長男はすやすやと気持ちよさそうに眠っているではありませんか。旅行社が用意するホテル行きのバスに乗るための集合時間が12時なので、映画が終わり次第、長男を起こして集合場所まで歩かせなければなりません。せっかく気持ちよく眠っていたところを無理に起こされたのだから、長男の機嫌は最悪です。顔色も良くありません。かんしゃく爆発寸前の状態を綱渡りをするように、集合場所へ。そこには、バスへの案内を待つ沢山の旅行者が集まっていました。
冬の日本から来た人達ですから、風邪を引いて咳込む人が相当数います。長男はウオークマンを受け付けないほどいらだっています。長男の大嫌いな咳込む音があちこちで聞こえて来て、長男のいらだちは爆発寸前にまで高まってきました。私はパニックに陥った長男の姿とそれを驚きと嫌悪の目で見る周囲の旅行者の姿を目に浮かべ、冷や汗が背中に流れるの感じました。
もうだめだ、と思ったとき、私たちの宿泊ホテル行きバスへの搭乗が案内されたのでした(空港到着後、すぐにホテルにチェックインできる「ダイレクト・チェックイン」というシステムもあります。私たちの場合は予約が遅かったため、利用できませんでした。ダイレクト・チェックインだと一泊分に相当する額を余計に払わなければなりませんが、障害児を連れた旅行では、できる限り利用した方が良いと思います)。
ホテルはコンドミニアムタイプでフルキッチンが備えてあるので、自炊できました。誰の気兼ねもせずに食事ができるので、気が楽です。また、次の日からは、レンタカーで自由に行動したので、危機らしい危機はありませんでした。しかし、二つの誤算がありました。「時差」と「海嫌い」です。
ハワイ時間は、日本より19時間遅れているのですが、実質的にはハワイの方が5時間早く朝が来ます。「5時間くらいなら大した時差じゃない、すぐに慣れるさ。」とたかをくくっていたら、長男だけは最後まで日本時間を守って生活しました。彼の場合、日本時間の7時、つまりハワイ時間で昼の12時にならないと、起きませんでした。夜は夜で、ハワイ時間で夜中の2時か3時にならないと眠りません。この生活時間のずれが、私たち家族のハワイでの自由な活動を阻害したことは否めません。もっとも長男が寝ている間はホテルのプールで過ごすなどして、それなりに楽しみましたが。
二つ目の誤算、「海嫌い」は、「あんたハワイに何しに行ったの?」というような結果をもたらしました。長男はビーチに行くには行くのですが、足の先すら一度も海水につけることなく終わってしまったのです。長男は水泳をYMCAで5年間習っていて泳ぐことができるので、水に対する恐怖心は全くありません。しかも私が学生時代、水泳選手兼水泳指導員だった経験を生かして、水泳に関しては早期教育を施しました。そのせいか、プールで泳ぐことは心底好きになっているのです。
しかし、本当は、「海嫌い」は予測可能な事態でした。かつては海や川で遊ぶことが大好きだった長男ですが、2年前の秋に渓流に誤って落ちてから、川や海に対して恐怖心を持つようになっていたのです。渓流に落ちたといっても、ごく浅い川で、すぐに自分で立ち上がってはいあがって来たのですが、頭から冷たい川に落ちたことがよほど怖かったのでしょう。それ以来川を見ると「ばしゃんって、かわ」と言って近づかなくなりました。
それでも私は、「海嫌いの長男だって、ぬるま湯みたいに暖かい海な喜んで入るだろう。」とたかをくくっていたのです。しかし、海から2m以内には絶対に近づこうとしない長男には、海の暖かさを実感することはできませんでした。それに、ハワイの海は思ったより冷たかったので、足をつけたら、逆にギャーギャー大騒ぎだったかもしれません(12月のハワイの海は11月の沖縄の海より明らかに冷たく感じました。8年前九州に住んでいた頃、11月の沖縄に行ったことがあるのですが、当時2歳だった長男は大喜びで海に入っていき、ひとしきり遊びました。泳いでいる人はほとんど見かけませんでしたが本当に暖かな海でした)。
せっかくハワイに行ったのに、午前中はホテルに留まり、ビーチでも海に入らなかった彼は、今回の旅行を楽しんだのだろうかといういが強く残ります。しかし、今回の旅行の目的のひとつは、長男が海外旅行に耐えられるか否かを試すことでした。彼が海外旅行に耐えられることを確認したことで、彼にとってのハワイ旅行は大成功だったと言えるでしょう。
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