2000.11.12-2001.05.22
【2000.11.12】 テピのお気に入りの札幌テルメ(ウォータースライダー・大型プール・スポーツ施設・温泉・レストランなどがある都市型リゾート施設)が倒産・閉鎖してからもう3年近くになります。その間、テピは毎日のように「テルメ行くの!」と言い続けています。もちろんテピは倒産とか閉鎖という概念が分かってはいませんので、行けるものと信じてそう訴え続けているのです。いくら親に訴えても、いっこうに願いを聞いてくれないので、テピはかんしゃくをおこします。それで私はテピを連れてテルメに似たリゾート施設をあちこち巡り歩きました。行った先々でテピは十分に楽しんで満足げなのですが、家に帰るとしつこく「テルメ行くの!」と訴えてきます。それが何度も繰り返されて、別のリゾートで代替しようとする私の作戦は、この3年間成功することはありませんでした。テピの願いをなんとか別の形でかなえてやろうとすればするほど、家では最後にかんしゃくをおこさせてしまうのです。そして、この問題はテルメ以外にも飛び火してしまいました。それは、なんとあの「東京ディズニーランド」です。<続く> 【2000.11.15】 テピは、どうやらテルメはだめらしい、ということに気がついたようです。それで、新たに要求し始めたのが「東京ディズニーランド」。これなら倒産・閉鎖してしまったテルメよりは現実味のある要求です。それに、私たちの本を読んだ東京の岡部さんたちの働きかけで、自閉症の人が長時間列に並ばないですむゲストアシスタンスカードが試験導入されて、ますます魅力的な場所になりました。でも、札幌からは遠いのです。「行きたい!」と言われて何度も行ける場所ではありません。そういう意味ではかなり非現実的な願いです。事実、東京ディズニーランドにはこれまで2回しか行ったことがありません。 ところで、テピが話し言葉で要求している様子を読んで、機能レベルが高い子だと思われる人もいるでしょう。しかし、テピはIQが一桁に近く、言葉によるコミュニケーションはかなり限定されていますし、字も数字も読み書きできません。「テルメに行きたい」という要求をある時には言葉で、またある時には言葉にすることができずに悶々としていることもあります。そんな彼が、具体物や写真カードを使って自分なりにあみだした方法があります。テルメの写真を使わずに、ですよ。ちょっと横道にそれますが、その話を次にしましょう。 【2000.11.23】 「テルメに行きたい」という願いをテルメの写真を使わずに親に伝える方法。それは、私たち家族にしか分からない方法ではありましたが、実に理にかなっていました。まず、テピはテルメ用の水着と一般の温水プール用の水着の違いに気がつきました(プールには競泳用、テルメにはレジャー用)。さらに、一般プールでは水泳帽が必須ですが、テルメでは必要ありません。これらの違いに気がついたテピは、テルメ用お出かけアイテムだけをひとまめとめにしたバッグを準備して、それを私たちに見せることで「テルメに行きたい」という願いを伝えるようになったのです。さらにそれは、親の意図とは別に、写真カードを用いた要求へと発展していきました。 テピは、テルメ用アイテムと一般プール用アイテムを家族の分も含めて完全に自己管理下におき、何か足りないものがあると、焦って探し回り、見つからないときは決まってかんしゃくを起こすようになっていました。
ということで、ちょっと脇道に逸れましたが、ここで話を元に戻しましょう。「テルメ」、「東京ディズニーランド」に行きたい気持ちをちゃんと親に伝えているのに連れて行ってもらえない、それで頻繁にかんしゃくを起こすようになったテピを、どうしたら楽にしてあげられるのでしょうか? 私は散々躊躇したあげくに、ある方法を試みることにしました。<続く> 【2000.12.17】 さて、みなさんなら、どういう方法を採用しますか?
などが一般的でしょうか?私が散々躊躇したあげくに試みた方法とは・・・。それは、「無視」です。実現不可能なことを要求されたときは、一切反応しないようにしたのです。この「計画的無視」がうまくいけば、一時的に要求行動がエスカレートするものの、いずれ消えていくはずです。問題は、一時的というのが、いったい何日、あるいは何週間続くのか、私たち家族がそれに耐えられるのか、ということです。その間にひどいかんしゃくや自傷行為もでるでしょう。また、せっかく獲得しつつある要求スキルなのに、これで芽を摘んでしまうのはとても惜しいと思いました。そこで、実現不可能な要求行動は「無視」しましたが、可能な要求には確実に応答し、必ず実現できるようにしました。その具体例を以下の表にあげます。
この背景には、テルメに代わる場所・活動を探し求めてきた結果、テピが楽しめる場所が確実に増えていたということがあります。また、1年半前から始めた、月に一度の若いガイドヘルパーさんとの「外出」が、テピに色々な「遊びとしての活動」の面白さを教えてくれました。個々の遊びに対する積極性が、この一年半でずいぶんと育っていたのです(感謝>ガイドヘルパーのMさん)。上の表の計画的無視は、実現不可能な要求行動を消去し、代わりにテピが既に楽しめるようになっていることを要求できるようになって欲しいという願いが込められています。 さて、「計画的無視」を始めた初日、テピは・・・。<続く>
【2001.04.15】 なんと、もう4月も半ばになってしまいました。テピは、高等部2年生に進級しました。担任の先生が変わりましたが、「個別の指導計画」をフル活用して、1年生のときに積み上げた学習を継承しつつ、卒業後のことをにらんだ計画の作成もお願いしようと考えています。 さて、「計画的無視」の続きですが、この「無視」という言葉には嫌な響きがありますねえ。できれば使いたくない用語ですが、私が勝手に造語するわけにもいきませんので、このまま使います。 テピの「テルメ行きたい」という要求には反応せず、実現可能な要求には必ず応える、というやり方を採用したその日から、予想通り「テルメ行きたい」という要求は激増しました。だって、昨日まで「(いつか)行こうね」と応えてくれた両親が、突然反応しなくなったんだから、「あれ、変だぞ、聞こえてないのかな?」と思って、前より大きな声で何度も何度も要求したくなるのは当然ですよね。2日目は、さらに要求が激化。実現可能な要求なんてひとつも言い出さないので、そちらを強化するチャンスもありません。3日目も同様でしたが、パニックや自傷行動などにつながらないのが、救いといえば救いです。<またまた続く> 【2001.04.22】 3日間。「テピと何かを新しく始めるときは、3日間は猛烈に拒絶されることを覚悟しておこう。」これは計画的無視に限らず、トランジッションエリアにおけるスケジュールボードの導入、カレンダーの導入、自立課題の設定など、全てのことに言えることでした。逆に言えば、3日間辛抱すれば、受け入れてくれるようになることが多いということを私たちは経験で学びました(ただしこれが他の自閉症の人にあてはまるかどうかは分かりません。1日かもしれないし、1週間かもしれない)。その間は、せっかく作った視覚支援の道具や教材等を引きちぎられても、怒らず・悲しまず・諦めず、何度でも提示し続けます。3日経っても受け入れられないときは、作ったものや新しい試みがテピの発達レベルに合っていなかったと反省し、あっさりと撤回するようにしています。 さて、今回の計画的無視もとりあえずは3日間続けてみようと思っていました。これに備えたわけではありませんが、テルメ以外の要求が出やすい環境は既に整っており、定着していました。下の写真は、トランジッションエリアの近くの壁に貼ってある「コミュニケーション・ボード(私の造語)」。日常的にテピがやりたいことや欲しい物を写真カードにして、クリップ留めしています。
さてさて、計画的無視が4日目に突入したとき、テピが選んだものは・・・・<つづく>。 【2001.05.22】 計画的無視が4日目に突入したとき、ついにテピはコミュニケーション・ボードからプールカードを選んで、私にカードを差し出しました。もちろん、すぐにそれに応答して、区民プールに連れて行ったことは言うまでもありません。これでテルメに行きたい気持ちがテピから消えたわけではなさそうですが、カードを使って意志表示することが、テルメや東京ディズニーランドに固定されてしまっていた状況から抜け出すことができた記念日となりました。この日を境に、プール以外にも、特定の散歩コースや遊園地などに行きたいという意志表示を、カードを使ってできるようになっていきました。 後日談ですが、今でもテピはテルメに行きたがります。でも、それは要求というよりはマイルドな希望になりました。今ではそれが原因でパニックになることは全くありません。いつの日かテルメが再開することを私たちとともに楽しみにしています。 次のテーマは「テピ、自分の部屋で寝る」です。実は、ここでもテルメが出てきます。テルメを効果抜群の強化子として利用してきたことを告白するストーリーでもあります。 |