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 インターナショナル・ウィーク

Written by Eriko on 8 May


■インターナショナルウィークとは

 ショウウッドヒルズスクールの年間最大の行事がインターナショナルウィークである。
世界から集まった大学関係者が多く住むインターナショナルなこの地域を巻き込み、2月から準備が始まり、3月第3週目に行われたの民族衣装パレード、各国のパフォーマンス、フードフェアと賑やかに幕を閉じた。
 各クラスは自分たちのテーマとする国を決め、あらゆる方法でその国のことを勉強していく。そのために惜しげもなく時間と労力を費やす学校の姿勢に私はある種の驚きを感じた。日本でいったら”ゆとり”或いは”無駄”と捉える人もいるに違いない行事にどれだけの時間を子供達が費やしているかを、日本をテーマに選んだ2クラスの様子を記すことでわかっていただけるだろう。

 日本をテーマに選んだのは1年生のコールウェル先生、と3年生のペイトン先生の2クラスだった。この2クラスのこの行事に取り組む様子をかいま見ることができたのは、私がふたりの日本人(双方長年米国に住み完璧な英語を話す)と一緒に、習字と折り紙とちぎり絵を子供達に教えに行ったからである。各教室は3月に入るのも待たずに、テーマの国に合った飾り付けや展示をしていた。私もこのために、日本から持ってきていた浴衣やげた、浮世絵、あやとりや学習書やマンガなどの子供向けの本を貸し出していた。

■習字

 最初はペイトン先生のクラスのお習字だった。クラスに訪れた日本人のおばさん達に子供達は「こんにちは!」と日本語でにこやかに声をかけてきた。教室の壁には”HAIKU”と書かれた大きな文字のまわりに子供達が作った俳句と一緒に、墨絵のつもりだろうか、白黒の濃淡で描かれた子供達の絵が展示されていた。
 私は日本から持ってきた筆と墨汁を使って、先生のリクエストである”平和”の文字を黒板に貼られた紙に大きく書いて子供達に見せた。私の傍らでTさんが解説をいれる。
 Tさんの解説は私が聞いても面白いもので、習字の歴史から、漢字の日本と中国との違いまで上手に説明していた。折り紙の解説を聞いたときもそうであった。外国に来て自国の文化をさらに深く知るとは、変な話だが、よく聞く話でもある。
 書き順などを丁寧に説明して聞かせ、それから子供達はそれぞれ自分の作品に取りかかった。子供達は黒い絵の具に水彩用の筆で画用紙にどんどん書き出した。
 えーっ、今の説明どういう風に聞いてたのよー。と思わず叫びたくなるような惨状が目の前に広がっていく。書き順めちゃくちゃ、文字のバランスがた崩れ、線をペタペタ何回も塗りたくる、余計な飾りを付ける子もいる。中国人と韓国人の子なら少しは.......と思って見に行ったが、他とほとんど変わらない。
 でも子供達は本当に楽しそうな表情で書いている。私達3人は子ども達のテーブルを回り、ちょっと手直しをしてあげたり、質問を受けたりした。筆順を教えようともしたが、それは意味のないことだとすぐに分かったのでやめた。習字はこの子達にとって、楽しいアートでいいのだ。”平和”を描く記号でいいのだ。そう思った。それでも何枚も書いているうちに段々と形はさまになっていった。名前を書く時、カタカナで自分の名前を書ける子が何人かいて、日本語の勉強もしていたことを想像できた。新たに覚えたい子には、その子の名前の発音に近いカタカナを選んで教えた。
 後に子供達の元気な作品は、教室の天井から万国旗のように吊るされ、しばらく教室を賑わしていたのだった。

■ちぎり絵

 ”ちぎり絵”と聞いて、どんなものかピンとくる日本人はどのくらいいるだろうか?日本でも、あまり普及していないこのアートを子供達に教えることになったのは、たまたま私の母が”ちぎり絵”を趣味としていたことが発端だった。
 私はこの行事の全てが初体験で珍しかったが、TさんとNさんは毎年同じ事を教えるのに飽き飽きしていた。「子供達にさせて楽しめるようなもの何か思いつかない?」と言うTさんの問いかけに私は軽い気持ちで、母の趣味であるちぎり絵のことを話した。それを聞いたTさんは「私自身も楽しめそう!ぜひやりましょう!」と乗り気になったのだった。
 ”ちぎり絵”は手漉きの和紙を手でちぎり、糊で貼り重ねていくことで独特の色彩と陰影のある絵画を作りあげるものである。
 母の作品はたくさん見てきてはいるが、実際にやったことの無い私は、このために母から送ってもらった本を読みながら、練習をしなければならなくなった。
「和紙に触れているだけで、楽しく穏やかな気持ちになっていくのよ。」と以前、母が言っていたことを思い出した。悪戦苦闘しながらも和紙の強く長い繊維のふんわりした美しさに触れてみると、そのことが分かるような気がした。

 先ずは、ペイトン先生のクラスでの講義だ。Nさんが図書館で調べてきてくれて、パピルスから始まる紙の歴史から、製法や生産地、最後の和紙についての説明をしてくれた。そして、私が実際に小さな作品を作って見せながら、皆に手順など説明する。
 英語で解説することに自信が持てなかった私だが、「ここの小学校の子供達は変な英語に慣れているからだいじょうぶよー。自分でやってごらんなさい。」とTさんとNさんに変な励まし方をされてその気になったのだった。彼女達が言ったように、子供達は私の変な英語を熱心に聞いてくれた(いい子達だねー)。解説の最後に「何か質問ありますか?」と付け加えると、いつも必ず数人は手を挙げる。これが恐怖で、子供の話す英語はわかりにくい上に、答えようがないような飛んだ内容だっだりする。こういう時はTさんが、私の代わりにさりげなく上手に答えてくれるので助かった。校長先生や美術の先生も見学に来て、ちょと緊張した1時間だった。このアートの呼び方について聞かれたが英語に直訳するとあまりにも味気なくなるので、”CHIGIRIE ART”と名付け、そう教えた。こう呼んでアメリカに伝えたのは私達が最初かもしれないと思うと胸が躍る。1年生と3年生の2クラスで教えたのだが、子供達の作った自由な作品は思った以上に、面白く楽しいものだった。

■折り紙

 折り紙は米国では結構ポピュラーなものになっているように感じる。私達が住むコミュニティーのセンターハウスのシンボルが折り紙の鶴だったり、カルチャースクールの講座のひとつに”ORIGAMI”という欄があったり、本屋さんに行けば折り紙やその本も売っている。一度市内最大の本屋へ行った時、幾何学図形の複雑な折り紙(というより切り紙)の本を見つけた折り紙大好き少年の次男は、それを欲しがった。買い与え、家に帰ってよく見るとその本は made in Japan だった。ある植物園で行われたアートフェアに出かけた時、たくさんのアートが並ぶ一角に、きれいな和紙でオーナメントとして作られた折り鶴が1個6ドルで売られていた。その高額さに驚いた私だったが、一緒に展示されていた広島の平和公園の千羽鶴の写真と解説文を目にすると、鶴に込められたた想いの重さがじわじわと胸を締め付けてきて、なんとなく納得してしまったのだった。

 コールウェル先生のクラスでは、折り紙の風船と三角帽子の折り方を教えた。Tさんは元数学の先生だったということも関係しているように思えてならないが、折り紙には精通しており、自分で作ったたくさんの大作を持って来て見せてくれた。子供達と一緒に紙を折り始めて、紙を折るという感覚が、折り紙に馴染みのない子供たちにとっては本当に大変なことなのだと、私はこの時初めて分かった。角と角を合わせる、指の腹で隅から隅まで折りすすむ、それが難なくこなせる子がいれば、感覚として理解できないようで、うちのテピに教えるように手を取ってゆっくり教える必要がある子供もいた。
 出来上ると皆嬉しそうに三角帽子をかぶり、風船をぽんぽんついて遊んでいた。

 予め折り紙で折ったキャンディーボックスに雛菓子(雛霰や金平糖など日本から送られてきたもの)を入れて、子供達ひとり一人にあげた。きれいな干菓子など雛祭りや春の和菓子は重箱に入れて、和紙で作ったお雛様と一緒に”見るだけ”ということで教室に展示した。アメリカでは出会うことのないような繊細な形と色彩のこの和菓子に子供達はとても興味を示していた。

■その他

 私が関わった以外には、「かぐや姫」や「かさ地蔵」の紙芝居(もちろん英語で)、日本を紹介するビデオ鑑賞、日本の学校についての解説と質疑応答、俳句、簡単な日本語等に取り組んだようだった。
 ドレスパレードはヨピが青い絣のウールのアンサンブルの着物と、私の赤いはなおのげた(適当なのがなかったし、誰も気にする人はいない)を履いて出た。もう一人の日本人はアメリカ人との混血のアニカちゃんというとてもかわいい3年生の女の子で、きれいな振り袖がとても似合っていた。控え室でのこの子の帯結びは皆の注目の的だった。”着物=美しい=高価”という観念は米国では一般的に定着しているようだ。この華やかでかわいらしいパレードを目にすることで、たくさんの国から子供達が来ていることが一目瞭然だった。(約50カ国の内19カ国が参加)。
ドレスパレードに続き、国ごとの子供達によるパフォーマンスがあった(今年度日本は参加しなかった)。この日のドレスパレードとパフォーマンスはテレビで何度もで放送されたそうだ。
 締めくくりがフードフェアだ。15カ国が参加し様々な料理が並んだ。私は巻き寿司を作ってだしたが、作った人の名前と材料(アレルギーや宗教など食物制限のある人のために)は料理と共に明記しているので、何日もしてから「あなたの作った”スシ”おいしかったわよ。」と言ってくれる人が何人もいて嬉しかった。

■Thank you カード

 この行事が終わってから、約一週間後にコールウェル先生(一年生)とペイトン先生(三年生)のクラスの子供達からたくさんの御礼状が届いた。一年生はまだ文字を習っていないので、先生の書いた感謝の言葉の回りに一人ひとり自分の名前の寄せ書きがあった。
三年生は一人ひとり手作りのカードにきれいな文字で立派な文章が綴られていた。時間をかけて一生懸命書いたことが想像できるカードだった。子供達の感想はひとり一人少しづつ違っていて、ちぎり絵が一番楽しかったという子、お習字が良かったという子、日本は素晴らしい国だ、興味深い国だ、美しい国だという子、また、たくさんの子が雛菓子のことに触れ美味しかったという(やっぱり子供だね)、そしてぜひ日本に行ってみたいと。
 ぜひまたクラスに来て欲しい、私はあなたの友達です、とか決まり文句なのだろうけれど暖かい言葉の連続のカードを次々と読み進んでいくうちに、私は胸が一杯になった。日本の伝統的な家を作っているのは木と紙。その中で発展していった日本の文化を見直すいい機会を得られたことと、子ども達との楽しいふれあいは、私にとっていい思い出となったのだった。



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