2004年8月 遠隔医療研究会誌掲載原稿
痴呆性高齢者の遠隔在宅ケア支援
−FOMA電脳雛祭り交流によるユビキタスコミュニティケア−
報告
早稲田大学国際情報通信研究センター: 近藤則子、大島真理子、塚田啓一
金曜サロン:森田信治、相根美智
シニアパソコンサポートせたがや:平野貴大
1.異なる地域、世代で遠隔在宅ケア実験
介護保険制度において要介護とされた高齢者のほぼ半数に痴呆(痴呆性老人自立度2以上)の影響がある。その数は2002年で約150万人、2015年には250万人になると予想され,痴呆性高齢者グループホームの事業所数は3年間で10倍の約3000ヶ所に急増した。痴呆性高齢者にどのようなケアを行っていくべきかは高齢者介護の中心的な課題である。(※1)
痴呆性高齢者は徘徊や暴言など問題行動をおこす場合が多く、多くの在宅介護者は片時も目を離すことができないと思い、社会から孤立しがちな日常生活を送っている。
痴呆は早期の治療や適切な介護によって症状が改善するが、外出の困難な介護者への知識の普及や啓発は難しい。
本研究では、痴呆性高齢者の介護を家族だけではなく、遠隔地にいても支援したいという意欲のある親族や友人など、異なる地域や世代が協力するために、介護家庭と社会をつなぐために双方向の携帯テレビ電話サービスというマルチメディア技術を活用した。さらに、新しいサービスの利用に際して高度な機器の操作の苦手な高齢者を支援するために地域の情報ボランティアと連携し、要介護高齢者者も介護者と共に電子共同体にアクセスし、ネットイベント「電脳雛祭り」(※2)に参加してもらった。
※1:『厚生労働省 高齢者介護研究会』
2015年の高齢者介護―高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けてー2003年6月
※2:『期日2004年3月20日
主会場 東京都新宿郵便局 主催 電子情報通信学会ICS研究会
委員長 塚田啓一(早稲田大学国際情報通信研究センター)
協力 京都国立博物館 松本市博物館 いちえ会
技術協力 NTTドコモ パナソニックモバイルコミュニケーションズ ビックカメラ
後援 新宿郵便局
内容 京都、松本、気仙沼とFOMA映像交流
2.実験方法 FOMAを使って遠隔地の友人と雛祭を楽しむ
世田谷区のT氏夫妻宅にて、携帯テレビ電話―FOMAを使って京都や新宿郵便局との映像交流を行った。
パソコンなどの情報端末利用支援ボランティアとして、近くに住む学生に訪問してもらい、京都在住のボランティアがFOMA端末を使って送出する京都市内の観光名所映像で受信し、双方向で、約30分間交流した。
T氏夫妻は妻(85)は糖尿病で痴呆もあある。在宅療養は13年目になり介護認定では要介護4.夫(85)は昨年、転倒し、退院後、言語障害、高次脳機能障害で要介護4である。
京都のボランティアは三年坂近くのそばやの店内から名物のにしんそばをライブ中継したり、事前に収録した京都国立博物館の雛人形の映像をパソコンを使って紹介した。
写真1 介護家庭に集まったボランティアらと高齢者
写真2 京都から東京へ携帯テレビ電話で発信中
3. 実験の結果 介護家庭に日常会話を取り戻せた
3.1 要介護者の会話能力の改善に効果
痴呆症状のある妻(85)は来客があるということを理
解し、孫(17)に対して「客がくるから迎える準備をするように」とはっきりと意思表示をした。客がいなくなると通常のぼんやりとして表情にもどってしまった。
この日の天候は京都は雨で東京は晴れであった。妻は痴呆症状があり、時間や空間の認識が混乱しがちであったが、映像交流で現在の遠隔地、京都の情報を映像でみることで、京都と東京の違いを理解し、会話をすることができた。
京都は過去に訪問した記憶があり、中継された三年坂の景色と記憶の中の景色がつながったのではないかと思われた。即時双方向で遠隔地の映像をみることは痴呆性高齢者の時間や空間を理解するリハビリテーションにも効果があると思われる。
しかし、FOMA端末の画像表示画面が小さく、糖尿病の合併症で視力の低下している妻には、みにくかった。
高次脳機能障害により言語障害のある夫(85)は対面での会話が通常は困難であるにも関わらず、電話では比較的スムーズに対話ができた。医師から指導されていた良い刺激のひとつになれるのではないかと介護者には思えた。
3.2 介護者への効果―孤立感が解消
痴呆症状のある高齢者の介護を困難にする理由のひとつに日常生活における普通のコミュニケーション、会話が難しいことがあげられる。今回の実験において、新宿や京都と電話交流している前後は日常会話が取り戻せたことは介護者にとって、大きな驚きであった。
遠隔交流ができたことは楽しく、介護をするために地域の祭といういわゆる地域共同体の「ハレ」の場に参加できなくなっていた介護者にとって、近所のボランティアたちの訪問により、新たな電子共同体という場所の「祭り」に参加でき、社会とのつながりを取り戻せたことは喜びであった。長期の介護による孤立感が解消できたという。
3.3 ボランティアへの効果―学ぶ意欲が向上
元気なシニアボランティアにとって病気や介護などで気軽な観光旅行などが難しい高齢者や障害者のために情報ボランティア活動をすることは楽しく、向上心が刺激されて学ぶ意欲が増した。遠隔地の友人を支援するために最先端情報通信技術を使っていることに誇りを感じている。
障害のために京都に来たくても来る事ができない遠方の人に四季おりおりの美しい景色をみてもらいたいという気持ちでホームページを作成することが毎日のはりあいにもなった。ホームページの掲載内容をを充実させたいと思い、取材のために外出する機会も増え、楽しく歩けるようになったことが2年前に手術した足のリハビリテーションにもなって一石二鳥であったと喜んでいるという。
4.ユビキタスコミュニティケアをめざして
新宿会場ではデジタルテレビで拡大閲覧できる端末もあり、
技術支援があったのでみることができたが、初心者や高齢者にも使えるものではないのが残念であった。
写真3 新宿郵便局の電脳雛祭りのようす
4.1 端末操作の簡素化と利用支援充実が課題
介護者はパソコンや携帯電話といったマルチメディアを使って電子メールやウェブサイトのサービスを利用し、自宅から情報収集や専門家や経験者に個別相談のできることが有益であることがわかっていても、その利用技術を獲得することは決して簡単とはいえないのが現状である。
パソコンや携帯電話の操作は初心者や高齢者には難しく、利用料金も以前よりは安価になってはいるが、高齢者の多い地方では、購入するにも学習するにもそうした機会は少ない。
在宅介護者の多くは中高年の女性であり、新しい知識の学習機会や支援体制が乏しく、便利な情報機器の利用方法を習得することが困難な場合が多い。
地域で高齢者や障害者の情報技術利用支援体制をさらに充実させることが望まれる。
介護保険の見直しや制度の変更など、利用者への情報提供、情報公開は将来の地域医療の重要な課題である。
保険者である地方自治体と地域の医療・保健・福祉の専門家と利用者である介護家庭との連携が切実に必要とされているが、多忙な人たちの情報共有を可能にするのは情報通信ネットワークで結ばれた電子共同体である。
5. まとめ
介護家庭を支援するために、最先端の情報技術を使った楽しいネットイベントで高齢者や介護者が電子共同体に参加するきっかけをつくり、パソコンやデジタルテレビなど高度な情報端末を利用できるように地域で支援するボランティア活動に参加する元気な高齢者や若者が電子共同体を通じて地域や広域で連携できれば、マルチメディア学習をきっかけに新しい地域の絆を育む機会になれる。
介護家庭はマルチメディア学習の場所を通じて信頼できる人間関係を訪問ボランティアを通じて獲得することができる可能性がある。それは痴呆性高齢者の在宅介護という外部からはわかりにくく、家庭からは伝えにくい仕事の支援を必要としている人と彼(女)らを支援をしたいと考える医療機関や介護サービス事業者、ボランティアらを結ぶ情報ネットワーク、電子共同体を形成するきっかけになる。
その電子共同体、いわゆるe―コミュニティは今後さらにユビキタスな情報端末の登場によりユビキタスコミュニティへと発展していくと予想される。
超高齢社会を安心して生きるためには地域社会の再生が不可欠である。電子共同体が現実の地域共同体と連携することで、だれでも、いつでも、どこからでも介護家庭を支援することのできる「ユビキタスコミュニティケア」が実現できると考える。
●英文(要約)
Multiemdia Tele-Care for Dimentia Patients and their caregiver at home - Ubiquitus Communicaty Care by FOMA( Mobile Picture Telephone)with Friends at the Hinal Doll Festival -
Noriko Kondo1), Mariko Oshima1), Keiichi Tsukada1) Shinji Morita2) Michi Sagane 2)Takahiro Hirano3)
1)Waseda University ,Global Information and Telecommunication Institute
2)Seniornet Kyoto Friday Salon 3)Rikkyo Univerysity, Graduate School of Community Walfare
Abstract: There are more than 1.5 million dimentia patients in Japan. And its 80% patients receive home care service from Long-term care insurance system. Patients and Caregivers at home suffer from isolataion and they need more information and communication in the daily-life.But they have limited access to the real community. We tried to support them by using multimedia communication system such as mobile picture phone and the internet. We have held the online event Hina-Doll Festival with volunteers and we provide an access support service for care-family by local volunteers. Multimedia realtime tow-way communication have made a dramatic impact for patient’s communication skill and it improved the quality of life of a caregiver at home.
Keywords: Dimentia, Tele-care,Ubiquitus, Multimedia(FOMA) , Caregiver Support ,QOL of CareFamily
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