ペダルについてのあれやこれや
Something about Bass drum pedals


ここでは、ドラムハードウェアのうち最も楽しいパーツであるバスドラムペダルについて考察します。
こんな小さなパーツにも
いろいろなノウハウやら工夫が詰まっています。
普段かえりみられることのないそういう事実を
ほじくりかえしてみるのもまた楽しいものであります。

ドラムセットをプレイしたことの無い方にはなじみのないモノでしょうが、
『ふ〜ん、そうなんだ〜』程度に楽しんで頂ければ幸いです




1.ペダルの基本構造

2.ペダルおたくへの道(ワタシの場合)

3.あらためて考えるペダル力学 

 
(1)アイアンコブラの衝撃 
 
(2)基本剛性が大切 
 
(3)力点・支点・作用点
   
・〜前編〜 思い出せ!数1A
   
・〜後編〜 知恵熱に耐えろ!
 
(4)なめらかに動かすための工夫 
 
(5)雑音を出さないための工夫
 
(6)調整機能

4.理想のペダルを探しましょう 


1.ペダルの基本構造


演奏するときに道具を使う楽器というとどういうものがあるでしょうか。ドラムにはスティック、ティンパニやビブラフォンにはマレット、ギターにピック、三味線にバチ...などなど考えられますが、ドラムペダルほど構造がややこしい道具は少ないと思います。

なぜペダルは構造がややこしいかというと、力を加える方向と打撃の方向が違うためです。
人間が椅子に座った場合、自然な足の動きとしては足首の上下運動と足全体の上下運動です。
ところがバスドラムの打面はほぼ垂直に立っているため、力の方向を変換してやる必要があるわけです。

基本構造はこんな感じです。

 ←標準的なペダルを横からみた図

フットボードとビータ軸の間は、チェーン、ベルト、板などでつながっていて
フットボードを踏むと、その動きがリンク・滑車などでビータ軸の回転に変わり、
ビータ軸に取り付けられたビータ(Beater=打撃するもの)が打面をヒットするという具合です。

 ←一昔前のペダル(CAMCO)

ここ数年のトレンドとしては、主流はチェーン仕様、それもダブルチェーンがスタンダードのようです。
フットボード形状は各社それぞれですが、国内各社は10年前に比べ小型化しているように思われます。
最高峰のdwはずっと同じ大きさですね。

もともと、ペダルはポスト部とフットボードヒンジ(蝶番)部を径5mm程度のサポートバーでつなぐ構造のものが
一般的でしたが、サポートバーとポストの固定は単にバカ穴にさし込むだけであるため、
ヒンジ部がバカ穴部のがた+サポートバーの弾性変形分自由に動いてしまい、ペダル全体が
がちゃがちゃとたわむような印象になります。

これを対策するため最近はアンダープレート付きが一般的になりました。
これはペダルの下に厚さ2mm程度の板を取り付けたもの、というか、
ペダル全体を厚さ2mm程度の板の上に取り付けた構造で、ポスト部〜ヒンジ部が一枚のプレートで
締結され、ヒンジ部の相対動きがなくなりますので、ペダルの安定性が良くなります。
踏み込むときにフットボードが左右にぶれなくなるために、非常にコントロールしやすくなります。

ヒンジ部の蝶番(ちょうつがい)自体にも工夫が見られます。
というのも、基本位置をアンダープレートで固めたら、次のガタ要因はヒンジ部になるからで、
各社ともここをタイトにしようと必死です。

今のところ世界最高レベルと認知されているのはdw(ドラムワークショップ:アメリカのメーカ)製の
dw5000シリーズのもので、小さなボールベアリングを組み込み、
ガタをミクロンオーダーまで追い込んでいます。手でさわったくらいではほとんどわかりません。
これに迫るのがTAMAのアイアンコブラシリーズで、ボールベアリングでなくオイレス社製の無潤滑ベアリング
を組み込んでいます。

純粋に摩擦抵抗やガタ詰め効果を追うならボールベアリングかなと思うのですが、
なにしろこの部分は泥やほこりのいっぱい付いた靴で踏みつける部分ですから、
ゴミ侵入のことも考えないといけません。
この点ボールベアリングは脆弱ですから、ひょっとしたらdwのペダルは故障率は高いのかもしれません。
そういう意味ではTAMAのオイレスベアリングはうまい選択であると思います。

ヤマハとパールは残念ながらこの部分については10年前と変わらないブッシュ結合を使っており、
詰めがいまいちです。
(もちろん各社優れた部分があります。詳しくは後日。)


【PAGE TOP】



2.ペダルおたくへの道(ワタシの場合)


最初のペダル

ワタシがはじめて使ったペダルは、なんとラディックのスピードキングでした。

 ←基本設計が同じ
 <最近のモデル>      <60年ごろのもの>

ドラムをはじめたころは機材についての知識など何もなく、
軽音楽同好会の練習部屋にあったものを何も考えず使っていました。
なんでも、有名なハードロックドラマーが使っているとのことでしたが、
このペダルそのものは
「全身摩擦抵抗のカタマリ」みたいなぎくしゃくした動作で、
初心者のワタシは「ドラムってなんてむずかしいんだろう〜」と思っていました。

このペダルの最大の特徴はフットボードからビータの間がプレート結合になっている点でしょう。
詳しくはまた述べますが、この構造は

・踏み込み側も戻し側も力が伝達される
(踏み込み速度よりもビータ速度が上回ろうとしたとき、それを許容しない)
・プレート両端が摩擦要素となるため、低フリクションにするための配慮が必要。

という特徴があります。

前者はちょっとイメージしにくいかもしれませんが、勢い良く踏みかけて途中で止めた
場合などに発生します。チェーンやベルトならばそれらがたわんだりゆるんだりすることで
この動きを許容しますが、プレート結合の場合は常にフットボードとビータは直結なので
一蓮托生で動きます。つまり、つま先でちょんとつついて軽くヒットするという使い方が
非常に困難になります。

現在他社でこの構造を採用しているのは、AXISとプレミアのEDP-400Jぐらいでしょうか。
プレミアはさわったことがないのでよくわかりませんが、AXISの方はほとんど極限と思えるほど各部を軽く
作ってあります。おそらくこれでビータ側から駆動されたときの追従性を確保しているものと思われます。

←AXISのペダル。とにかく軽量。

スピードキングは今でも生産されています。実に不思議な存在です。
どう考えても非効率的なレイアウト、構造、実用上問題となるレベルのフリクション、
困難なメンテ性...どうして人気があるのかさっぱりわかりません。
どうにもワタシには使い辛いのですが。

そう、スピードキングには超オリジナルとも言える仕掛けがもうひとつありました。
写真を見て何かお気づきにならないでしょうか?
そう、このペダル、スプリングが無いのです。というのは嘘で、実はポストに内蔵されています。
テンションはポスト裏側のねじで調整するようになっています。

ビータ取り付け部周りも個性的で、普通のペダルならメインシャフト中央にカムをはめる構造がほとんどですがこのペダルは弓形にシャフトを曲げることでカムの働きも兼ねるような構造になっています。ビータ角度の調整はできませんが軽量化という点では究極と言えます。

幅の広いカム部を持たないということはベルト方式にするのがほぼ不可能ということで、
当時はチェーンが一般的でなかったこともあり必然的にプレート伝達になったのではないかと思います。
この超個性的なペダルからは「とにかく軽量化命」というシンプルな設計方針がひしひしと伝わってきていさぎよささえ感じます。
角度の調整機構がないため人によっては全く合わないでしょうが、しっくりくる人にはたまらないというペダルなのではないでしょうか。

非常に惜しいのはフットボードとビータをつないでいるプレートの取り付け方で、単純に平板の両端をまるめて蝶番にしているため摩擦抵抗が大きく、使い込んでいくと動きが渋くなってしまうことです。ひどいときはキコキコと音がするほどです。もちろんグリスアップが必要ですが、あまり粘度の高いものだとそのグリス粘度のせいでペダルのかえりが悪くなったりゴミが付着したりして具合よくありません。かといってCRCのようなさらさらなものを使うとすぐに潤滑切れ状態となって音が出ます。

20年前には手段が無かったと思いますが、このプレート部分に小型のベアリングが仕込んであれば機構的には完璧なのにと悔やまれます。きっと設計した人もそう思っているでしょう。
最近のモデルについては詳細を確認していませんが、ぱっと見この部分の基本設計は同じに見えます。はたしてこの20年でスピードキングはどう進歩したのか?そのあたりの実態をユーザの方から伺えれば幸いなのですが。

いずれにしてもこんな個性的なデザインのペダルはほかにないでしょう。




はじめて買ったFP-520

ワタシがはじめて買ったのはヤマハのFP-520というペダルで、
ヤマハのベストセラーペダルFP-720の廉価版ペダルでした。
実際につかってみてまず踏みやすさにびっくり。
というか、それまで摩擦のカタマリのスピードキングで練習していたため、落差が激しかったようです。


ちょっと奮発してFP-920(910?)


そのころ使わせてもらっていた先輩のドラムに、名機FP-720がくっついていて、
とても使いやすいペダルだなーと思っていました。
自分のFP-520よりもずいぶん良いと思ったので、欲しくなりました。
で、そのまま正直にFP-720を買えばいいのに「もっと高級な920ならさらにいいに違いない!」と思いこんで
FP-920を買ってしまいました。
ところが、これはまさに選択間違いで、920は鬼のように重い体育会系ペダルだったのです。

フットボードは720と同じ、ベルトドライブである点も全く同じなのですが、
ポストが片保ちで、しかも高さを調整できるようになっているという点が違っています。




今思えばこれは決定的な差で、
片保ち→メインシャフトを片方のベアリングのみで支持しなければならず、
しかもひねり方向の荷重がかかるため、軸受け部を非常に丈夫なベアリングで支持する必要があります。
つまりそれだけ摩擦抵抗の大きい支持方法になってしまいます。

また、ポスト高さ可変というのが結構くせ者で、高さ調整のスライド部分に結構ガタがあり、
固定するときにポストがわずかに回ってしまうことがありました。
こうなるとベルトがまっすぐ走らないため、動きがスムーズでなくなります。

そして結果的に、軽快なFP-720とは似ても似つかわぬヘビーなペダルになっていたのでした。

【スプリングは上か下か?】

そうそう、FP920はスプリングの引き方向を上にすることも出来たと思います。
本来は下引きなのですが、スプリング支持部を上下逆につけると上引きになりました。

 
(訂正:これはワタシの勘違い。違うペダルと間違えていたようです。)


他の例としては、例えばラディックでこのようなものもあります。


 ←スプリング上引き

よく見て頂くとわかるのですが、このラディックの場合スプリングを上引きにした理由は
バスドラムクランプ操作ネジとの干渉よけです。
スプリングを上に置いたことで、ポスト右側に大きめの操作ネジを設置できるので
取り付け、取り外しの操作性は非常に良いはずです。


スプリングがどっちを向いていようとペダルの機能には関係ない気がしますが
実際は動作に差が出ます。




通常の下引きスプリングでは、ペダルを踏むことによる力F1とスプリングの引き力F2が両方とも下方向へ
作用します。つまりメインシャフトは常に下方向へ押されている状態です。
これに対してスプリングを上引きにした場合にはフットボードを踏んでいないときにはメインシャフトが上に引かれ、
フットボードを踏んだときはスプリング力よりも踏力が上回るためメインシャフトが下方向へ動きます。

つまり、下引きスプリングでは、メインシャフトは常に下向きに引っ張られ、上引きスプリングの
場合はペダルを踏む度に上下に交互に引かれるようになるのです。
軸受け部には通常ボールベアリングが使用されていますが、ベアリングとその周囲、
およびベアリング内輪外輪の間のガタが大きいと、この上下動きが足でわかる程度に大きくなってしまいます。
人間のは結構敏感なモノで、ほんのわずかなガタなども気づいてしまいますから
軸受け部ベアリングはすきまツメツメの設計にしておく必要があります。
当然摩擦抵抗は増えるわけで、片持ちポストと上引きスプリングを組み合わせるのが
最もこの点不利な設計ということになります。

前述のラディックのように、明らかなメリットがほかにあってそちらを優先する場合のほかは
上引きを採用する理由がありません。
ということで、最近の製品ではスプリングは下引きにするのが一般的です。


CAMCOとの出会い


学生のころ、東京へ工場実習(という名の就職ツアー)に来まして、はじめてお茶の水の楽器屋さん巡りをしました。
で、下倉楽器で発見したのがCAMCOのチェーンペダル。


 ←大好き。CAMCOペダル(1985年製)

型番は知らないのですが、とにかく当時(1985年)カムコといったらそれしかありませんでした。
ドラムマガジンなどで見かけたことはあったのですが、実物を見るのはもちろんはじめて。
当時はチェーンペダルも出はじめだったため、とってもかっこよく見え、
店員さんを値切り倒して9500円で買ってしまいました。

その後聖橋を渡ったところにある公園で箱をあけてしげしげと眺めて悦に入ったことを鮮明に覚えています(笑)

このペダルの特徴はなんといっても踏み心地が軽快なことでしょう。
基本構造はdw5000シリーズを踏襲しており、短めのフットボードにシングルチェーンです。
カム部はギヤを使ったスプロケットになっています。
金属同士の噛み合い接触音を消すのが難しいため現在ではdwのみが使っている構造です。

アンダープレート無しの長所として持ち場こびも簡単で、現在までメインのペダルとして
15年以上も活躍しています。
現在はツインペダルに改造され、相変わらず第一線投入中です。



TAMA アイアンコブラ HP−90

93年に初代アイアンコブラを購入。
これは、

・アンダープレートを用いた基本位置固定
・ヒンジ部ガタ縮小によるコントロール性向上
・ダブルチェーン化でフットボード横ぶれ防止
・カムのギヤを廃止しフェルト張り付け
・スプリング保持部へベアリング追加し摩擦抵抗低減
・ビータ角度、フットボード角度を別々に調整可能
・ビータシャフトへの調整おもり追加

などなどの新技術を織り込んだ意欲作でした。

動作はきわめてなめらかで、フットボードを一度手で押してはなすと、20回近く揺れ続けます。
踏み心地は結構重めで、サンバキックを長時間続けると辛いです。

「もしかしてこのペダルって重すぎ....?」

構造がしっかりしていて安定感は抜群。それが選択の理由だったのですが、
演奏していてどうにも重いと思ったことが何度もありました。

構造的に安定していて各部のフリクションも少ないペダルならば、「効率が高い=軽い」
はずだという思いこみがあったのですが、よくよく考えるとそうとも限らないのではないかという気がしてきました。
実際にCAMCOと比較すると、アイアンコブラの方が明らかに重いのです。


この件をきっかけに、ワタシはペダルについていろいろと深く考えるようになっていったのでした。


【PAGE TOP】


3.あらためて考えるペダル力学

3−(1) アイアンコブラの衝撃

就職で東京に来てからも、ドラムセットをクルマに積み込んでいろんなところへ
出かけていたのですが、あるときふとした出来心で2ドアのクルマにどーしても乗りたくなってしまいます。


 ←とてもドラムは積めない

そのときはたまたまバンドもやっていなかった時期だったし、
ま〜いっか...こうやって社会人は音楽から離れていくのさ...ふっ(遠い目)...と割り切って、
ドラム関係の物品を全部実家に送り返してしまいました。

ところがそんなときに限ってバンドの話が持ち上がり、今回だけ、今回だけと思う内に
次々とバンドの話がやってくるようになり、

やっぱしスネアとペダルぐらいは必要だよね〜(にんまり)

ということで買ったのがTAMAのアイアンコブラでした。(説明長いぞ!)
1993年のことでした。

 ◇ ◇ ◇

出来心でテキトーに買ったにもかかわらず(ごめんなさい)、このペダルは衝撃的でした。

とにかく、安定性、動きのなめらかさなど、当時としては経験したことのないレベルでした。
(厳密にはこの時期すでにdWも現行モデルに近いレベルになっていたはずですが)

2002年になった今から思えば、国内のペダルに関していえば明らかにアイアンコブラを境に
新しいスタンダードが実現されたのではないかという気がしています。
現在のペダルで使われている技術のほとんどがこの時期に盛り込まれたと言っても
過言ではありません。

例えば
・アンダープレートを用いた基本位置固定
・ヒンジ部ガタ縮小によるコントロール性向上
・ダブルチェーン化でフットボード横ぶれ防止
・カムのギヤを廃止しフェルト張り付け
・スプリング保持部へベアリング追加し摩擦抵抗低減
・ビータ角度、フットボード角度、ビータシャフト重さ調整機能追加

などです。

これらが、現在各社のペダルでどのように採用されているか整理してみましょう。
(最も奢ったグレードでの比較)

要因 要素 TAMA YAMAHA Pearl dW
基本剛性向上 アンダープレート
  ダブルチェーン
  ポスト間結合      
低フリクション化 ヒンジ部ベアリング化    
  スプリング上端ベアリング
  チェーン位置決めガイド    
低慣性化 ビータ軽量化      
  カム部樹脂化(※1)      
  カム部スケルトン構造(※2)      
低騒音化 チェーン低ピッチ化
  ギヤレスカム  
  ベルトドライブの選択肢  
  スプリングへの塗装    
  フェルト入りスプリング  
信頼性向上 スプリング下端回転防止
調整機能追加 ヒール部前後調整      
  ヒール部高さ調整      
  フットボード角度調整
  ビータ角度調整  
  ビータヘッド角度調整    
利便性 中折れアンダープレート      
  調整ボルト(※3) 3種 2種 1種  
  BDクランプネジ外出し  

 −...未確認
(※1)本来の狙いは樹脂部を付け替えることでプロフィールを変更するため
(※2)左右ポスト部をつなぐ構造を実現するためにはこうするしかない
(※3)もちろん少ない方がいい

細かい部分まで見ていくときりがないのですが、最も重要な
・基本剛性
・低フリクション(摩擦)化
・低騒音化
という点において、TAMAは少なくとも90年代前半には基本的な考え方を確立し、
初代アイアンコブラでそれを製品として具現化できていたことになります。
この点では文句なくTAMAが最先端だったと言えるでしょう。

というわけで、
何気なく店先で買ったアイアンコブラはワタシにとってまさに衝撃的なペダルだったのです。


【PAGE TOP】

 ◇ ◇ ◇


3−(2)基本剛性が大切

ジョン・ボーナムが力一杯踏んだときの踏力がどのくらいなのかは今となっては検証しようがありませんが、
通常演奏時、フットボードに入力される垂直方向の力は最大で演奏者の体重とほぼ等しい程度になるのでは
ないかと思われます(静的にペダルの上に立つとこの状態)。

この踏力はフットボード→チェーン等→カム部→ビータ→ヘッドへと伝わります。
ヘッドを打撃した瞬間の力の釣り合いを考えてみましょう。



ごくごく簡単に書くと上図のようになります。
踏力F1がカムを引っ張る力F2(大きさはヒンジからの距離比F1より小さくなる)に変換され、
これによりビータが力F3(カム半径とビータ長さの比分F2より小さい)でヘッドを押します。
このときカム中心にはF3の反力と、踏力による引き力F2がかかることになり、
ポストには下図のような変形が発生します。
(厳密には力のベクトルはもっとややこしいがここでは省略)

 ←ペダルを踏んだとき、ポストはこのように変形する

もちろん、このような変形が実際に目で見える訳ではありませんが、
変形の大きいペダルと、剛性が高いペダルを比較すると違いが足でわかってしまいます。
(だからこそ各社とも対策する)

変形が大きい実害はどういう部分に表れるかというと、これは大きく2つに分かれます。

1つ目は、
「逃げ動きが大きくなり、ペダル全体のストローク効率が悪くなる」ということ。
例えばポスト全体が後ろに逃げたり、シャフトが弾性変形したりすると、その逃げの分だけ
ペダルの踏み込み量を増やさなければビータがヘッドに届きません。
これも実際の変形量はわずかな数字になるはずですが、人間の感覚はおそろしく敏感で
わずかな差を感じ取れてしまいます。

2つ目は、
「変形によって軸受け部の摩擦が増加する」ということです。
シャフトがベアリングにまっすぐはまっている状態が当然最も摩擦が少ないわけですが、
シャフトが曲がるとそれに引きずられてベアリングの内輪と外輪の位置関係が変化し、
ボールがスムーズに転がらなくなります。
この影響を軽減するためにはシャフトとベアリング内輪のはめあい隙間を大きめに設定するといいのですが、
そうすると、シャフトのがたつき感が出てしまい、フィーリングが著しく悪化します。

演奏者の意のままにあやつれるペダルにするためには、このような損失を出来る限り減らす
必要がありますから、
各部変形を極力なくすということが、ペダル設計の第一歩になるわけです。

◇ ◇ ◇

で、まず各社が導入したのがアンダープレート(各社呼び名は違う。ヤマハは「フロアプレート」パールは「ベースプレート」)です。
これが付く以前のペダルは、ポスト部中央にあるクランプ点のみが固定点でした。
つまり、わずか2、3センチのくちばしでバスドラムフープにかみついている部分だけで
フットボード踏み込み時のビータ反力を支える構造でした。フープ自体も変形するし、かみつく部分も
べったり平面接触しているわけではないので、剛性の低い構造です。
特に演奏者側への倒れについて規制力が弱い構造になっていました。

これに対しプレート付きでは、ポスト自体がプレートにボルト固定されていますので、
プレートがしっかり地面についていればポストが演奏者側へ倒れる量は非常にわずかです。
効果が誰にでもわかるレベルであること、また設計変更が楽(ポスト/シャフト/カムといった
基本部分の設計はそのままでよい)ため、各社ともこぞって導入しました。


さて、プレート付きで基本剛性が向上すると、残りは
・シャフト剛性
・ベアリング剛性
・ポスト剛性
ということになります。
しかし、ベアリングは専門メーカの標準品(スペシャル品にすると値段が一桁上がる)であり改修困難、
一方、シャフト径を上げると慣性が大きくなってしまう上にベアリングを大型化する必要がある、等の問題があり
焦点はポスト部本体の仕様に絞られてきます。

もちろんこの部分も剛性を上げればよいのです。が、各社対応時期はまちまちです。
こう直せばいい、ということがわかっていても、じゃあ明日から設計変更しようというわけにはいかないのです。
これには事情があります。

どんな製品でもそうですが、モノづくりにおいては開発→設計→製造というプロセスがあり、
特に製造プロセスが最も準備や変更が大変なのです。

原材料から形を作り、加工し、組立ててようやく製品ができあがります。
製品の仕様を変更すると、これらの生産設備全てをやり直す必要があり、それには莫大なお金がかかるのです。
例えば、多くのドラムペダルはアルミダイキャスト(型に溶けたアルミを流し込んで成形する)で作られていますが、
これに必要な型は1セット数千万円もするのです。
ポスト部の剛性を上げるために形を変更して、そのために型費1千万かかったとすると、
例えば販売価格\10,000円のペダルで利益率20%(そんなに高くないか?)としても、
10000000÷2000=5000ということで 5000個売ってはじめて型代ペイ。つまり
5000個以上売らないと利益なしということになります。

日本にはどのくらいのドラマーがいるのかわかりませんが、例えばごくおおざっぱに10万人としましょう。
...で、そこのドラマーのあなた、ペダルってどのくらいの頻度で買いますか?
いくらなんでも毎年は買い換えないでしょ?
まあ、3年に1回として、1年間に33333個。これがマーケットの総数ですが、各人好みによって
好き勝手な会社の製品を買うでしょうから、ヤマハ、パール、タマ、dw、ラディック、プレミア、ソナー、
AXIS、メイペックス....いろいろなブランドでこの33333を取り合いですね。
そうすると、一社でドラムペダル5000個売るのがどんなに大変なことかは容易に想像が付くでしょう。
(数字は根拠のないいいかげんなものです。こういう事情があるということだけご理解下さい)


ということで、各社とも型を変更するタイミングを見て剛性アップということになっているはずで、
例えば例のアイアンコブラについては、93年のデビュー当時はポストの基本形状がCAMCOと同じでしたが、
これが98年に現行モデルになる際にようやく全面変更されています。
ワタシがCAMCOを買ったのが85年ですから、少なくとも13年は同じポスト形状であったことになります。

もちろん、国内3社ともすでに第一段階のポスト部剛性アップを終了しています。
個人的に、一番うまいことやったな〜と思うのがヤマハです。

下図がその構造ですが、ヤマハは現行モデルへの変更時に、左右のポスト間に支柱を追加しました。



この方式の有利な点は、最も力がかかるポスト上端付近で開きを抑制出来る点であり、
ポスト自体はねじれ方向と倒れ方向だけに気を使って設計すればいいことになります。
こりゃいい、というわけでヤマハはこれを1996年にパテント出願しています。
(特開平10−39860 『ドラム用フットペダル』 等複数)

他社は、ポスト開きを抑制するためには根本部分を補剛してそれぞれのポストを頑丈にするしかなく、
ヤマハと同じくらい高い開き剛性にするためには、ポスト自体がとても重いものになってしまいます。
つまり、軽量化しながら剛性を確保できるおいしい基本特許をヤマハは持っているわけです。

実際、TAMA/パールのペダルと並べてみるとヤマハのペダルはポストが華奢に見えます。
しかし踏んで見てわかるほどの剛性の低さを感じることはありません。
実にうまいバランス感覚ではないかと思います。

ヤマハ方式のもう一つのメリットはツインペダル化の際にも表れるのですがそれはまた後日。


【PAGE TOP】

 

 ◇ ◇ ◇

3−(3)力点・支点・作用点(高校数学程度の解析!?) 〜 前編 〜

ワタシがペダルの動作についてあれやこれや細かく考える目的はただ一つ、
自分にとって理想のペダルを追求するためです。

気に入ったペダルはいろいろあるのですが、そのペダルがどうして気に入ったのか、
理由が明らかになれば自分の好みの傾向、奏法のクセ(逆に言えば弱点)がわかると思うんですね。

そんな軽い気持ちで考えはじめたものの、
基本的な部分だけでも実態は非常にややこしいモノだということに気づきました。
でも、深く考えれば考えるほど、ペダルって深いんだな〜と感動したりしています。

もちろんこんなこと知らなくてもドラムの演奏には全く支障ありませんので、
あまり深く考えずにおつき合い頂ければ幸いです。

さてさてそれではぼちぼちはじめましょう。

まずペダルに作用する静的な力のバランスを考えるところから全ては始まります。

ビータ重さWbによる回転モーメント:Fb=W1’×L1
(ビータ重量がシャフトを時計回りに回そうとする力)

フットボード自重による回転モーメント:Ffb=Wp’×L2
(フットボード重量がシャフトを反時計回りに回そうとする力)

とすると、
フットボードを踏んでいないとき、メインシャフトを回転させる力Fは

F = Fb − Ffb
  = W1’×L1 − Wp’×L2


となります(図で時計回りの方向のモーメントを正とする)。
通常L1のほうがL2よりも長いため、フットボードを踏んでいない状態でのバランス点では
Fは正となる、つまりスプリングを外した状態で手を離すとビータがフットボード側へ落ちて止まります。

 ←メインシャフト回りに働く静的な力

この力Fとつりあう力F’はスプリングによるもので、
下図より

F’=Fsp’×L5

になります。
スプリングはリンクをまっすぐ引っ張りますが、その力のうち回転接線方向成分Fsp’がシャフトを回転させる
成分になりますよね。
スプリングの引き力FspとFsp’の関係はちょっと複雑で、

Fsp’=Fsp×sin(A1+A2)

になります。
A2はスプリング上端固定点の回転角度、
A1はスプリング傾斜角度で、「スプリング取り付け部の寸法関係とA2」で決まります。
ややこしいですね。

 ←上図とつりあうスプリング力Fsp’

ペダルを踏んだときの足に対する応答が、これらの力が相互に働いた結果になることは
おわかりかと思います。


という事実をふまえつつ....ここからが本題なのですが(笑)


まず、非常におおざっぱに言って、

ペダルに関する印象=「踏み込み量」と「ペダルから足への反力」の特性

ということだと思います。

これをさらに分解していくと、

ペダルから足への反力=カム部からフットボードを引く力

ということになり、つまり上図で

メインシャフトを時計回りに回そうとする力とペダル踏み込み量の関係

がペダルの印象を決めているということになるわけです。

とまあこう書いてしまうとシンプルなのですが、これはたとえば、

「ルックスと性格が人間の印象を決める」

と言ってるようなもので、ちょっとアバウト過ぎます。


実際はいろいろな要因が影響してくるわけで、それらをちょっと整理してみましょう。
今までのお話では静的釣り合いのことばかりでしたが、実際は摩擦・慣性・ガタという要因が効いてきます。
それらも含めると下表のようになってきます。

要因1 ポイント
ペダル踏み込み量とメインシャフト回転角度の関係 チェーン(ベルト)かリンクか?
  フットボード末端位置はどこか?
  フットボードの力点・作用点の位置関係は?
  カム(スプロケット)形状は?
スプリング引き力とメインシャフト回転角度の関係 メインシャフト回転中心〜スプリング上端の距離は?
  メインシャフト回転中心〜スプリング下端の距離は?
  スプリング上端〜下端の距離は?
  スプリングのばね定数は?
慣性要因 フットボード質量&寸法
  ビータ質量&シャフト長さ
  カム(スプロケット)部慣性モーメント
  メインシャフト慣性モーメント
摩擦要素 フットボードヒンジ部摩擦
  メインシャフトベアリング部摩擦
  リンク部摩擦(リンク式のみ)
  スプリング上下端部摩擦
ガタ要素 フットボードヒンジ部
  メインシャフトベアリング部
  ポスト全体動き

ということで、これらが全て影響し合ってペダルのフィーリングは決まってきます。
ガタ要素、摩擦要素は「なるべく少ない方がいい」に決まっていますが、
その他の要因についてはこれが正解という方向性はありません。
古今東西いろいろなペダルが存在しているのもそのせいでしょう。

ということで、次はさらに具体論を。

 

 

◇  ◇  ◇

〜後編〜


基本的な力の釣り合いについて前回述べましたが、ここではもうすこし詳しくそれを確かめてみます。



【Part1:スプリングによる力】

一般的なペダルのスプリング配置を示した下図において、

A1 : スプリングの傾き角度 [deg]
A2 : メインシャフト回転角度 [deg]
L5 : メインシャフト回転中心〜スプリング上端までの半径 [mm]
Lsp : スプリング上端〜下端までの距離 [mm]

とします。

さて、前回の説明でスプリングがメインシャフトを回そうとする回転接線方向の分力は、

Fsp’=Fsp×sin(A1+A2) ...☆

になると述べました。

このなかでA2はメインシャフトの回転角度(=ビータの動く角度)なのですぐに決まります。
しかしA1はそんなに簡単ではありません。
スプリング取り付け寸法とA2両方で決まる値であり、詳しく見ると.....



 ↑という具合になり

A1=tan-1(L5sinA2/ Lsp)

になります。
これを式☆に代入すれば、


Fsp’=Fsp×sintan-1(L5sinA2/ Lsp) + A2

となりますね。わははは。


.......
もう笑うしかない

おっと、スプリング方向への引き力Fspがまだでしたね。
メインシャフトを角度A2だけ回した時のスプリングの長さLsp’は


Lsp’=√{(Lsp+L5ー(L5*cosA2))2+(L5*sinA2)2 }

となるので、これにバネ定数Kspを掛けて

Fsp=Ksp×√{(Lsp+L5ー(L5*cosA2))2+(L5*sinA2)2 }

となります。
なので、結論としては、スプリングがメインシャフトを回転させる力Fsp’を式で表すと、


Fsp’=Ksp×√{(Lsp+L5ー(L5*cosA2))2+(L5*sinA2)2 }
        ×sin
tan-1(L5sinA2/ Lsp) + A2

となってしまいます。
わははははははははは。



.....
さらに笑うしかない



#でもちゃんとA2(メインシャフト回転角度)だけの関数になってるでしょ?
(これがいいたかった)

これをグラフ化すると、次のようになります。
フットボードを踏み込んでメインシャフト角度A2が増えていくにしたがって、
スプリングは赤いラインのように伸びてゆき、
この引き力がメインシャフトを回そうとするトルクは青い線のように変化していくわけです。




メインシャフト回転角度A2の原点はスプリング下端が真下に来た地点になっています。
そして、どちら向きに回転する場合もこの特性は同じになります。




【Part2:フットボードから入力される力】

・・・計算中・・・

【Part3:慣性力】

・・・計算中・・・


3−(4)なめらかに動かすための工夫

ペダルはなめらかに動作するに越したことはありません。

とはいうものの、
「なめらか」という言葉もずいぶんあいまいな形容詞でして、
ひとまず、

「おかしな振動、ガタ、抵抗感が無い状態」

と定義させて頂きます。

このためには、

・動く部分の摩擦をできるだけ減らす
・動作に伴う動的アンバランスを減らす
・各部ガタを減らす

という方向性があります。

これらについて具体的に考えてみます。


<摩擦低減>


ドラムペダルで動く部分といえば

・ヒンジ部
・メインベアリング
・ストラップ部(ベルト/チェーン)
・スプリング部

に大別されます。

それぞれについて基本的考え方と手法を考えてみます。

【ヒンジ部】

ここはフットボードの根本を支える部分であり、
踏み込みフィーリングを最も顕著に左右する部分です。
動きが渋いととても演奏しづらいです。
また、ルーズになっているとフットボードが左右にぐらぐらするため、
これまた演奏しづらい。

90年代前半まで、ここは板金折り曲げ型のヒンジ、
またはバーヒンジを使うのが一般的でした。

 
←古ーいDW-5000のヒンジ部(板金タイプ)
 ←CAMCOではバータイプになっている
 ←ヤマハもパールもバータイプ


ヒンジはフットボードの横方向の動きを規制する要素になるので
このタイプは基本的にフットボードのガタが大きめでスムースさを欠く原因になっています。
こららのヒンジは金属同士が直接接触する構造であり、
もともとガタが大きく、しかも使っていくうちに磨耗してさらにガタが広がります。
そのため、精度と摩擦のおりあいをつけるのがとても難しく、
このままの構造で改良を重ねても根本的に無理があります。

そこで、フットボードヒンジのガタを根本対策するため、
98年にTAMAは
この部分にベアリングを組み込んだ仕様を発表しました。

これは通常のボールベアリングとは構造が異なり、
自己潤滑性を持ったブッシュのようなイメージのものです。
構造的にゴミは入らないし、グリスアップする必要もありません。
オイレス工業がパテントを持っている製品で、充填剤入りポリアセタール樹脂または
充填剤入りポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた個体潤滑軸受です

国内大手のヤマハ、パールはいまだに10年前の構造です。

ヤマハは現行型をデビューさせたのが97年ですから、
そのころまだベアリング仕様が技術的に詰め切れていなかったのかもしれません。
オイレスのような無潤滑タイプでなくボールベアリングで攻めていたけれども
ほこりや潤滑の面で成立しなかったのかも知れません。

かしこいポスト構造を採用しているだけに残念です。

パールはエリミネータシリーズをデビューさせる時が改良のチャンス
だったはずなのですが、なぜか最も大切なこの部分は手つかずになっています。
フットボードの滑り止め改良や、交換式のカム採用などのカスタマイズ部分はとても良いのに
基本性能の向上が置き去りになっているように思えます。これも非常に残念。

今後技術的にやるべき方向性としては、ここは間違いなくベアリング内蔵にすべきと思います。

板金ヒンジにしてもバータイプのヒンジにしても機械加工した部品を集成して作るので
部品公差に加工公差を考えないといけません。

例えば幅50mmのフットボードヒンジ部両端で100μm(0.1mm)のガタがあったとして、
これを長さ250mmのフットボード先端での左右方向ブレに換算すると、

 
(0.1/(50×3.14))×360÷360×(250×2×3.14)10[mm]

       フットボードブレ角          フットボード先端の接円外周長

なんと1センチもの幅でぐらぐら左右に揺れてしまうことになり
これではさすがに使いづらい。

逆から考えてみましょう。
DWやアイアンコブラのようにフットボード先端での左右ブレを1mmレベルに抑えようとすると、
ヒンジ部両端での許容ガタ量はちょうどこの10分の1、すなわち

0.01[mm]=10[μm]


におさえなくてはなりません。

ということは、ヒンジが動くためのはめあい隙間も含めてこの値以下にする必要があるわけで、
蝶番タイプの板金折り曲げ加工ではとてもこの精度は出ません。

バータイプではやり方によっては可能なのですが、あまりはめあいをきつくすると
動きが渋くなったり音が出たりという別問題が発生します。

これを防ぐためにナイロンブッシュをはめたりもしますが、
そうすると今度はそのナイロンブッシュの磨耗の問題があったりして、
この方向で攻めても解はありません。

これに対してベアリングは組立位置公差さえ管理してやれば、
ガタ分はベアリングのガタのみなので
フットボード前端でほとんど左右ブレが感じられないようなレベルにすることが可能です。

DWやAXISもこの方法でフットボードヒンジのガタを詰めています。

パール、ヤマハの現在の基本構造のままでは、
アイアンコブラ、DW5000シリーズフットボードのあの圧倒的ななめらかさは絶対に追いつけません。
ガンバレ!>両社


【メインベアリング】

ポスト上部のメインシャフト軸受けは各社とも例外なくボールベアリングです。
これは規格品なのであまり変てこりんな仕様になっているものはありません。

ベアリングの容量(大きさ)もだいたい同じだと思います。
大昔のペダルに比べると大型化の傾向にはあるようですが。

 ←左:DW5000初代 右:CAMCO



【ストラップ部(ベルト/チェーン)】

昔ベルトで今チェーン、というのが主流であることは皆様ご存じでしょう。
もちろんチェーンのほうが耐久性に優れるという理由で一般的になってきた
ようです。

ストラップ部は、はたから見ていると単にフットボードで引っ張られているだけのように
思えますが、ミクロに考えると
「曲げられたり伸ばされたり」という運動をしています。

自動車のタイヤは、回転しているのではなく、質点の集合として見れば
転がり運動である、というのと同じですね。

チェーンは樹脂ベルトに比べて密度が大きいですから、慣性は大きいです。
しかし折り曲げに必要な力を比較した場合、リンクの場所で簡単に曲がりますから
折り曲げ力はベルトよりはるかに小さくなるはずです。

樹脂ベルトはある程度の強度を出そうとすると、折り曲げ剛性も大きくなってしまいますので
この点非常に不利です。

カムの部分にあるベルトは、フットボードが踏まれると
引かれてカムから離れますが、
その時に「カム外接円に沿って曲がった状態」から「直線状態」へと形状を変えます。
曲がっていたモノを伸ばすわけですから、エネルギーが余計に必要となり、
この分はそのまま損失ということになります。
これがチェーンよりも樹脂ベルトが不利な点です。

ただ、慣性を比べるとこれはベルトの方が断然小さい。
こちらでは樹脂ベルトが有利なわけです。

じゃあ、
樹脂ベルト並に軽くて、チェーンのようにサクサク折れ曲がる素材で
ストラップを作ればいいじゃないか
、ということになります。

これを目指したのが、アイアンコブラやDWのケブラーストラップです。
これはデュポンの開発した繊維で、しなやかさだけを見ると布のようですが、
強度や耐久性はワイヤロープ並というすごい繊維です。
ということで、現在のところ、
慣性と折り曲げ損失を両方低減する究極の素材はケブラーであると思います。

ただ、実際に製品化されているものを見ると、どちらも非線形カムとの組み合わせに
なっています(正味カムにかかっている部分はほんのちょっと)。
しなやかさが災いして横方向にも変形してしまうので、円形のカムと組み合わせると
脱離の問題があるものと推測します。

あと、同様の理由ですが、フットボードを横方向に支える力がほとんどありません。
樹脂ベルトにしてもチェーンにしても、フットボード先端の横方向動きを
ある程度規制することが出来ます。

特にダブルチェーンの場合、強力に横方向動きを規制出来ますので、
メーカによってはこれをフットボードの左右ぶれ防止アイテムとしてカタログに堂々と
書いているところもあります。

ところがどっこい、ふにゃふにゃのケブラーではそうはいきません。
逆に考えると、


フットボードヒンジ側で十分にガタ規制が出来ることが
ケブラーストラップを使うための前提条件となる

ということになりますね。

この製品がTAMAとDWにしか無い理由がおわかり頂けたでしょうか(笑)


【スプリング部】

スプリング支持にかかわる部分は、大きな張力によって常に引っ張られているため、
ちょっとでも摩擦が大きいと一気にエネルギー損失が発生します。
つまり、他の部位よりも摩擦にシビアな場所と考えられます。

これについては各社ともスプリング上端支持部にベアリングを組み込む方法で
対処しています。
 
  ↑TAMAの93年型ホルダ。6角形の部分がベアリング支持になっている。

パテントの関係か、各社微妙に形状は違いますが、基本は同じで、
スプリング上端に環状金具を取り付け、これをベアリングで支持した軸にひっかける
という構造です。

スプリング下端については変位角度が上端ほど大きくないため、
積極的に摩擦低減を行っているメーカはほとんどありませんが、
ソナーが今年発売したペダルでは下端の取り付け部も可動式になっており、
常にスプリングが引っ張ろうとする方向に向くようになっています。

そのうち国内でもそういうペダルが出てくるかもしれません。
性能的ゲインは非常に少ないと思いますが。


<動的アンバランス低減>


ここで言うアンバランスとは、おもにメインシャフトを中心とした回転運動に伴うものです。
ドラムペダルには回転半径が大きい「ビータ」が存在していますが、
メインシャフトが回転することでビータに遠心力が働くため、
ペダルポスト部がビータの方向へ引っ張られることになります。

さらに、ビータをメインシャフトを中心に回転させようとすると、その反作用で、
ビータ重心を中心にポストを回転させようとする力が発生します(下図赤矢印)。




理想的には、メインシャフトをはさんでビータの反対側に同等の質量があれば
これらの力がメインシャフトをはさんで2組存在し、互いに相殺するため
メインシャフト回りの力は全て釣り合うことになります。

ところが、よく考えてみて下さい。

ペダルのどこにそんなものをつける場所があるでしょうか?
それに、メインシャフト回りの質量が増えてくると慣性も大きくなってしまい、
踏んで戻して踏んで戻して...という動作の一つ一つが重くなってしまいます。


ということで、

ペダルで最も問題となる動的アンバランスの原因はビータの遠心力と回転反力である

けれども、

それをカウンタウェイトでバランスさせることはできない

というのがペダルの現実ということになります。


では、この問題はあきらめるしかないのか?


いいえ。

力が働いても応答しなければ良いのです。

具体的には、
ビータの遠心力、回転反力によってポストに力が働いても、
ポストが動かなければいいわけです。

このために採用されているのがいわゆるアンダープレートで、
ペダルの下に鉄板を取り付けてポストをがっちりと固定する手法です。

旧来のペダルは、フットボードヒンジ部とポストをバーで結ぶ形式でしたが、

 
←フットボード下に見えるバーがポスト下端とヒンジ部を結ぶ。

この設計ではポストを支える要素はバスドラムへの取り付け部のみ、
つまりバスドラムフープをくわえているくちばしのわずか2センチ程度の部分で
ポストの固定を行っていることになり、
ビータの遠心力がかかったときにポストがどうしても前後に動いてしまう
というのが実力でした。

アンダープレートにポストをボルト固定しておくことにより、
ポスト部はプレートで支えられ、かつバスドラムで固定されるので
同じ力を受けたときの動き量が格段に減ってきます。

 
←ヤマハの最も初期のプレート


ということで、ペダルの宿命であるビータ遠心力と回転反力によるポスト動きを抑えるため、
最近では各社ともアンダープレート付きを基本に考えるようになっています。


ただ、この方式には致命的な欠点があります。
それは
「ペダルをおりたためない」ということです。
クルマでスタジオに通う場合は良いのですが、
電車や歩きでスネアとペダルを持って移動するときに、
ペダルをたたんでカバンに入れられないとなると非常につらいです。

<蛇足> 確かにアンダープレート付きは理論上優れた方式であり、
実際にとても安定していますが、
それじゃなければ演奏できないかというとそうでもないし、
下手なアンダープレート付きよりも演奏しやすいCAMCOみたいなペダルもあるので、
プレートはあってもなくてもいいかなと感じたりしています。

要は、自分のスタイルに合ったペダルを見つければいいのだと思います。

【DRUM MAIN】【JSTR MAIN】


3−(5)雑音を出さないための工夫

ワタシが生まれてはじめて使ったスピードキングは、
手入れがイマイチだったせいもあってキコキコがしゃがしゃとにぎやかなペダルでした。

まあ、実際のところ、ドラム自体が非常に音の大きな楽器ですから、
普通にロックバンドをやったりする分には、
ペダルが少々ノイズを出そうが軋もうがあまり実害はありません。

ところが、ちっちゃなライブハウスでバラードをやったり、
静かな曲をレコーディングするときには、
ペダルやハイハットスタンドのノイズが問題になることがあります。

涙うるうるの超絶バラードでブレイクした時に

「ぎぃぃぃ〜」


なんて聞こえちゃったらぶち壊しです。

ですからなるべく雑音はしない方がいいですね。


基本的に雑音は動く部分から発生します。

すなわち、

・フットボードヒンジ部
・ストラップ(ベルト、チェーン)部
・ベアリング部
・スプリング部

ということになります。

ヒンジ部とベアリング部は、前述の通りガタの面からきっちり検討されていれば
部品同士の相対衝突エネルギーはほとんどないため音で問題になることはありません。
つまり、本来機能を追求すると音も静かになっていく部分です。

これに対し、意図的な工夫が必要な部分もありますのでちょっと紹介します。


<スプリング音>

 ←スプリングノイズ低減索のフェルト

上の写真はスプリングの中にフェルトを入れて制振をはかったものです。

スプリングは鋼線が巻かれたものですが、
のびちぢみする際には単に長さが変化するのでなく、
巻きがほぐれたり戻ったりという動きも同時に起こります。
充分スプリングが伸びた状態では問題ありませんが、
スプリングが縮んだ状態では巻き線が隣同士接触し、こすれ合う動きが起こります。

スプリングにフェルトを入れるのはこの振動を押さえ込むためで、
ヤマハ、dwなどがこの方法を使っています。

中につめるのは別にフェルトでなくても構いませんので、
スプリングの音が気になる方は布や脱脂綿などで試してみてもいいと思います。

TAMAはスプリングの表面への電着塗装を行っています。

素材のままでは表面がざらざらしているため、巻き線部での接触で音が発生しますが、
塗装により表面をなめらかにしてしまえば接触してもスムーズにこすれるだけですから
音は出ないというリクツです。
う〜ん、アタマいい。

フェルトを入れると、スプリングの自由な動きが規制されてしまいますので、
設計手法としては塗装でノイズ防止するほうがいいのではないかと思います。


<チェーン音>

カムコ、dwはチェーン+ギヤによる伝達ですが、
最近のチェーンペダルはほとんどがギヤレスになっています。
これはもう、音対策意外の何者でもありません。

多くはカムのチェーンと接触する部分にフェルトを張り付けて接触音を
防止する構造です。

いうまでもなくチェーンとフェルトでは硬さが全く違いますから、
フェルトはどんどん磨耗していき、ある日穴があいてしまいます。
まあ、そうなったらなったで張り直せばいいんですが。
ちょっと安易な設計なのではないかと思います。

ギヤトレーンでも
おそらくは、歯形を最適化すればとっても静かに出来るはずなのですが、
国内メーカはどこも挑戦していないように思われます。
このへんのパテント事情は未調査なのでわかりませんが、
めんどくさい歯形チューニングをやるよりも
手っ取り早くフェルトをはさむほうが商売的にいいと判断したのでしょうか。

フェルトなど使わず、正しくギヤ駆動で静かなペダルを作っているdwを見れば
国内各社のフェルト仕様は設計的怠慢だといわざるを得ません。

フェルトやゴムで受けるのであれば、今のような自転車チェーンでなく、
もっと攻撃性の少ない形状にすべきですし、
究極的には、チェーンに負けない信頼性を持ったもっと軽い素材を開発すべきです。


あと、15年前のペダルに比べて、最近のペダルはチェーンピッチが小さくなっています。
チェーンは多角形運動をするので、一つ一つのエレメント質量が小さい方が
カム部を打撃する運動エネルギーを減らすことが出来るためです。

でかいチェーンよりも見た目がかっこいいですしね(笑)。

 

【DRUM MAIN】【JSTR MAIN】


3−(6)調整機能


昔のペダルで調整できる部分といえば、
ビータの長さかスプリングのテンションぐらいでした。

最近では、フットボード角度、ヒンジ〜ポスト距離、ビータ角度、ビータ慣性、
などが独立して調整できるようになっています。

これら調整機構も、走りはアイアンコブラだったように思います。
この初期モデルを使っていたことがありますが、
最初は演奏中にゆるみはしないか(得にビータ)そればかりが心配でした。
しばらく使ってみるとそんな心配が無用だとわかりますが、
それでもライブ前などは念入りに締め付けボルトを点検しました。

無段階に何かの角度を調整するためには、摩擦要素で固定するしかありませんが、
そうすると、ゆるんでしまったときに強制的に位置をキープすることができません。
つまり、その部位を固定しているボルトが唯一の固定手段で、保険がありません。
強制的に位置を固定するには、どこかにはめあい構造を設ける必要がありますが、
そうすると無段階に調整することができなくなります。
これは設計上のジレンマですが、
思い切って無段階調整機構にした93年のアイアンコブラは
かなりチャレンジャーな仕様だったと言えるでしょう。

今ではたいていのペダルにいろいろな調整機能がついていますが、
可動分を増やせば増やすほど信頼性が低下するというのもやはり真実で、
調整機構の多いペダルはそれだけメンテに気を使う必要があります。

ワタシとしては信頼性第一なので、なるべくシンプルなペダルがいいですね。

昔のペダルが不自由だったかといえば
決してそんなことは無かったように思います。
少々どんなペダルでも、ペダルのクセを足が学習しますから。

ペダルをどんなに調整できても、練習しないとうまくなりませんし(笑)

【DRUM MAIN】【JSTR MAIN】


 

理想のペダルを探しましょう

 

【DRUM MAIN】【JSTR MAIN】