演奏会の録音    参照サイト=KOYA
生録のハイライトはやはり音楽の生演奏の収録だと思います。ここでは少しく私の経験をもとに、音楽演奏の収録について紹介します。


吊りマイクでの収録  次項・客席での収録 参考・ステレオ(長尺)マイクバーを作ってみた。 参考・三点吊り録音体験レポート

吊りマイクは比較的大きなホールに設置されているもので、公演の収録用として見た目の邪魔にならないよう天井から吊り下げられているものです。ワイヤーとマイクを連結している錘みたいな部分を衛星とかいうらしいです。
←"衛星"にステレオバー(40cm)を取り付けてワンポイントステレオ収録しています。

←設備機器メーカーの説明図借用しました。

こうしたマイク2本による吊りマイクのほかに、以下のようなワンポイントステレオタイプのマイクロフォンもよく見かけます。

NEUMANN(ノイマン)/SM-69。吊りマイクの定番。とりあえずこれを備えているホールであれば、借りるにこした事はありません。むかしのN響の演奏(NHKホール)のビデオ見ると、いっつもこれが映ってます。吊り措置は高砂製作所。

Sanken(サンケン)/CMS-2。公共ホールの常設の吊りマイクとしてもっともお目にかかることの多いマイク。(実際にはシルバータイプが多いです)吊り装置はHYFAX(不二音響)。

上記、見た目は1本ですが、2つのマイクユニットが仕込まれています。
吊りマイクは機構・構造上信号の引き回しが長くなり、やはりそのぶんの音質劣化はあります。
機構としては上の写真のような3点吊りが一般的ですが、2点吊り、1点吊りというのもあります。
テレビのクラシック音楽の番組を見ると、吊りマイクの種々の形態が一望できます。

●吊りマイク収録の手続き  参照=舞台運用の実情
吊りマイクはホールの付随設備として、ホールを使う(借りる)利用者が任意に借りられるもので、飛び込みの人には多分貸してはくれません。よってここではあくまでホールを借りる「利用者」として書いていきます。
通常、ホール利用日の3-4週間前に、舞台運用の担当者(ホールにもよりますが、委託の業者の場合もあります)との打合せがありますので、録音の主旨と方法について取り決めます。このときキチンと利用内容に折り込んでおかないと、当日に申し込んでもダメということになりかねません。(理由は後述します)
吊りマイクの装置とマイク自体は多くの場合別に使用料が設定されています。マイクは通常、実績のある信頼性の高いコンデンサー型マイクが装備されていることが多いので、それらを超える性能を持ったマイクロフォンを持っていない限り、借りるに越したことはありません。通常はステレオ収録なので吊り装置とマイク2本分の料金がかかります。(一本でステレオ収録できるマイクの料金も2本分かかると思っていた方が無難です)

●リハーサルに先駆けてセット
マイクの吊り位置は、特に注文をつけなければ(記録用収録の場合)天井近くまで吊り上げられ、ステージを遥か上から見下ろすような位置になる場合が多いようです。その場合(私の印象では)特に記録として欠点はないけれど、聴いて面白くない、消極的な迫力のない音に収録される気がします。
マイクの場所はワイヤーの吊り加減(有線/無線リモコン)で調整できるので、会場のスタッフに相談し、可能なら動かしてもらいます。
マイクの位置による音の録れ方の違いはまことに微妙、またあるときは明確で、一概に指針を挙げることはできませんが、私は多くの場合他の事情が許す限り極力ステージの演奏者との距離が縮まるよう、低く近くセットしてもらうことが多いです。マイクが近くてナマ過ぎる音に録れてしまった時、後から響きを付加して修正してもあまり不自然にはなりませんが、遠すぎてぼけた音を近くで聴いたように回復することは(許し難い副作用なしには)ほとんど不可能だからです。サラダを煮物にすることはできますが、煮物からサラダを作れないのと同じ(?)です。
吊りマイクに限った事では有りませんが、舞台開口付近の空間には、反響板や床からの反射などの影響で、演奏者に近いのにシャープな音が録れないスポットがある場合もあります。マイクを利用者の意志で動かす以上、最終的には自己責任ですが、ホールの音響担当の方に「それ以上近付けない方がいい」と言われたらその通りにした方がよいと思います。

←低く近く、セットした例です。(このときはバリトン独唱でした)
←上手袖から見た吊りマイク。(自作の1mステレオバーに無指向性マイクを90cm間隔でセットしました。)

リハーサルでの試し録音・レベル設定は必須ですので、マイクのセットは(まず早くから会場に入って)早めにやってもらいたいところですが、会場によって手順が決まっていますので、無理は言えません。マイクの位置決めについては、ライトなど他の吊りものと干渉する、カメラのアングルに入る、マイクで照明に影が出来るなど、様々なことがあります。3点吊り設備が有りながら手順上使えなくなるような事態も起こり得ますので、事前の取り決めが最重要。現場での妥協も時には必要です。また会場のスタッフは多くの場合他の仕事を掛け持っていて、特にリハーサル/本番中は舞台の進行に集中しなければなりませんので、マイクのセットはなるべく人が少ない、ヤイノヤイノ始まらないうちに(!)済ませます。
ちなみに、国内の3点吊り装置は(私の知る限り)9割以上、以下のメーカーのものが採用されています。保安上の決まりがあるので、利用者が直接操作することは普通ないと思いますが、どういうものかを知る上で参考までに。。。

http://www.takasago-ss.co.jp/studio/tm.htm ←高砂製作所

ちなみに吊り装置のメーカーとして上記高砂製作所のほかにはHYFAX(不二音響)製しか見た事はありません。YAMAHAのものも,YAMAHAの業務内容からして(浜松方面には?)ありそうな気がしていましたが、09年には両社は合併して「ヤマハサウンドシステム」という会社になっていました。ので、現在は2社の寡占?状態??

●会場の機材で録音する際の注意事項(マイク/レコーダー/ケーブル/スタンド等)
1)概要
打合せ時の確認要目になりますが、比較的大きなホールには吊りマイクと合わせて各種レコーダーが備えられていて、定められた利用料金で使えるのが普通です。
ホールの機材を借りて録音する場合に特に重要なのは、録音は本来利用者の自己責任で行うものであり、たぶんそのようにホールの担当から断りがあると思いますが、仮におまかせで録音してくれるということになっても、その録音はあくまで「記録用」のものでありもとより「音質は問えない」ということです。より良い音で確実に録ってほしいということであれば「別途利用者で録音の専従者を雇うのが本筋でしょう・・・」ということになります。
しかしながら比較的新しい(利用料金の高い場合が多い)録音の音質・便宜を織り込んで設計されたホールでは、標準的な記録用として、高品位のコンデンサーマイクやレコーダーを装備しているところもありますので、そういうホールの場合おまかせ録音でも非常に高品位に録れる可能性があります。
2)録音メディア/レコーダー
録音は利用者が再生可能な任意の方式で良いのですが、可能な限り高音質に=高品質のメディアに記録しておくことは有意義な投資と考えます。
なお現在、従来のホール設備のスタンダードだったDATがなくなるにつれ、それにかわるレコーダーとしてMD(これもなくなりつつあります)やCD-Rなど、種々のレコーダーが使われ始めていますので、あらかじめどんな機材が備えられているのか調べておく必要があります。
収録に使うテープ、ディスクのたぐいはどのホールの場合も必ず利用者が用意しなければなりません。担当者を決めておかないと、自分から進んで持ってくる人は誰一人いませんので要注意です。その際、使用するテープやディスクに制限や指定のある場合があるので事前に確認しておきます。テープ、ディスクは十分余る長さのものを用意するよう言われると思いますが、交換がいらないよう気を利かせて長尺もの(カセットの120分やDATの180分)など用意すると拒否される場合があります。実際に録音できないのではなく、レコーダーが設計上長尺テープでの動作を保証していないというのがその理由です。
なおDATは1テイクの録音長等、他のレコーダーに置き換えられない特徴もあり、なお当分の間は稼働するものと思われます。
3)音声ケーブル/接続端子
会場内の音声は写真のようなキャノン(タイプ)と呼ばれるコネクターを介してやりとりされます。ホール内の入出力もそうですが、信号の引き回し距離が長くなることの多い業務用途の音声機器はみなこの形状の入出力仕様になっています。バランス伝送といって、1つの信号を3本の線(見かけ上3本まとめて一本の)で送受します。ノイズが乗りにくいことと結線時の信頼性の高いためこのような伝送方式:コネクタになっています。写真の上がオス、下がメスです。見かけ上突っ込む方がメスなのでヘンですが、接点の形状は文字通りオスメスになっています。

通常出力はオス、入力はメスといった割り当て(オス出しメス受け)をしますが、特段の決まりがあるわけではありません。事情によりメス端子に信号を送ってもらうことになった場合、下記のようなオス-オスの変換アダプター(ダンガンとも呼ばれています)を使って端子形状を変換します。

ホールの備品としてたいていはありますので(一定料金で)借りることができますが、一個4〜5百円ですので、用心のため買っておいてもよいと思います。
また、会場によっては(下手に持ち込みの機器を繋がれないように?)故意にオスで受けるように設計された〜と思われる端子板をみたこともあります。またあらゆる入出力がすべてメス出しオス受けに設計されたホールもありますので、そういう場合には上とは逆のメス-メスの変換アダプターを使わなければならない場面もあるかもしれません。


ホールの機材を使える場合は問題ありませんが、持ち込みのレコーダーで録音する場合は(普通の電気店では売っていない)キャノンメス(オス)--3.5ステレオミニフォンプラグ(写真)の変換ケーブルを使わなければなりません。
←自作品です(→つくり方

4)マイクスタンド
私の知る限り、ホールの設備はおおむねBTS(高砂製作所、ソニー)と3/8インチ(K&M、Ramsa)がスタンダードになっています。ので、スタンドを借りて使おうという場合は、自分のマイクホルダーのネジがどのタイプか確認し、必要なら変換アダプターを手当しておく必要があります。ホールの備品として借りられる場合もありますが、変換ネジなどそもそも紛失しやすいものなので、借りる手筈になっていいても当日現場に行ったら無くなっていた〜などということは当然起こりえますので、自分で用意するにこしたことはありません。

●音響調整室(照明・映写機械室)で録音
吊りマイクからの信号は音響調整室(機械室とか映写室とか、施設によっていろいろに呼ばれている、ステージの反対側の高い位置にあって、ガラス張りになってステージを見下ろせる部屋。通常、その部屋は一般の利用者は入ることはできません。)に送られます。標記の部屋には通常レコーダーが備えられており、ホール側で記録用の録音を請負う場合、普通はここで録音してくれます。操作をする人を利用者が選任し、自己責任で録音してくれという会場もあります。
ホールによって対応はまちまちですが稀には調整室/機械室に自前の機材を持ち込んで録音させてもらえるケースもあります。利用者で機材と資格をもった専従の録音担当者を頼めれば、よりよい結果を得られるかもしれません。

●音響調整室(照明・映写機械室)以外の場所で録音
吊りマイクからの信号は音響調整室に送られますが、その部屋にはパッチ架というのがあって、パッチの繋ぎ換えで、吊りマイク(ならびに各種の)の信号をホールの各所に備えられた任意の端子盤(ないしマルチコネクタ)に送ることができるようになっています。したがってステージ袖の端子盤等、任意の端子盤に信号を送ってもらえるよう配線(パッチング)してもらえば、そこに備えられたレコーダーで録音できます。「録音のためのスタッフはいないから、利用者でやってくれ」と言われた場合、この方式になります。袖のレコーダーは効果音の送り出し等でも使う場合があり、場合によっては別途レコーダーを用達しなければならないこともあります。
通常、ホールのスタッフがレコーダーへのケーブルの接続まではしてくれますが、相応にご足労・お手間をとらせることなので、当日急にお願いする---ようなことにならないよう、録音の方法については打合せの要件に含めておくことが肝要です。
またステレオ・ペア音声の扱いの慣例?として、隣り合った2つのチャンネルを用い、番号の若い奇数番号をLに、次の偶数番号方をRにあることが多いようです。
吊りマイクの信号をステージ袖(等)に送ってもらう場合、パッチ盤での差し替えはじめ何段階もの人為的差し替え操作を経ますが、この操作は、耳で確認できない、担当者の注意力のみに依存する操作です。
なお、新しく設計された音響システムでは、パッチがコンピューター制御されているところもあるようです。

●電源の問題
通常ホールでは、照明用電源と音響用電源(系統)が別に確保されており、ホールの音響設備はその電源(系統)によって駆動されています。話が専門的になりますが、これは、照明機器からのノイズを拾わないようにするのと同時に、音声信号系にある全ての音響機器が、完全に一致したグラウンド電位のもとで駆動されないと、音声にブーンというノイズ(電源ノイズ)が乗ってしまうなどの障害が発生するからです。このノイズは、機器の個々の故障や接点不良が原因ではないため、起きてしまうと原因の特定が難しく、現場では対処する余裕がありません。故に予防策として安定した音響用の電源が別途用意されているわけです。故に、ホールの音響調整室(調整卓)から信号を送ってもらい、持ち込みのレコーダー(等の音響機器)を使う場合、ホールの担当者が「使ってもよい」というコンセント、ないし担当者が用意してくれたテーブルタップ以外は、本来使うべきではありません。最悪の場合客席内に用意された(音響用ではない)コンセントで用いる機器(特に民生用機器)には信号を送れないという場合もあります。一方まるで頓着しない(音響用電源系統のない)ホールもありますが、電源の取り方がノイズの原因になることを知っていることは大切だと思います。
電池駆動のポータブルタイプのレコーダーの場合は、特に問題にはなりにくいと思われますが、ノイズの原因は実に多種多様かつデリケートで、100%安全といえる機器はありません。

●音持ち込みの民生用レコーダー(あるいは家庭用音響機器全般)では音声が歪んでしまうことがある
ホールの音響機器は通常「+4dB」と言われる(詳しいことは省略しますが)電気的に高いレベルの音声を扱っており、「+4dB」の信号をデジタルICレコーダーレコーダーのような一般家庭用機器に入れると、録音レベルを下げ、メーターが適正にふれている状態であっても音が歪んでしまうことがあります。歪む条件、歪み方の程度は、レコーダーの設計により(家庭用機器は設計仕様がまちまちなので)一概にはいえません。
対策としては、アッテネーター入りのアダプターを噛ます、ラインレベルコンバーター(ミキサー)を噛ます等の方法がありますが、現場の限られた時間で対処するのは、一般の利用者にはむずかしいと思います。
なお、たとえそのような事態になった場合であっても、基本的に『その対策まではホールの音響担当の仕事ではありません』ので、持ち込み機材で録音する場合は承知して取り組まなければなりません

●恐ろしい信号の劣化と接点の数
ホールは大きいので、吊りマイクを使った場合当然信号の引き回しも長くなります。マイクから調整室のパッチ架まで、小さなホールでも最低50mはあるでしょう。そこから一旦調整卓に入り更にステージ袖まで信号を送ってもらうと、ゆうに100mは下らない計算になります。大きなホールでは200mくらいにはなるでしょう。
またホールに備えられている吊り用のマイクはほぼ例外なく直流バイアス式コンデンサー型といって、作動させるのに電源を必要とし、その電源は主に調整卓から供給されます。調整卓の入出力端子は一括してパッチ架につながっていますので、マイクで拾われた極めて微小な信号は長い長いケーブルと数多くの接点を経由して、やっとレコーダーに到達することになります。ちなみにどれほどの引き回しの長さ、接点の数を経るのか(想像もふくめ)およその長さと最低に少なく見積もった接点の数を列記してみます。×印は接点、「パッチ(××)架」という標記はパッチ架がそれ自体に常に2か所の接点を内包していることをあらわします。

*ホールの(音響調整室の)レコーダーで録音をする場合
全長30m〜、最低9箇所の接点
マイク×←→×吊り装置ー入力パッチ(××)架→×調整卓×←出力パッチ(××)架→×レコーダー

**ステージ袖(等)の端子盤に信号を送ってもらい、端子盤から直接レコーダーに結線できた場合
全長100m以上、最低10箇所の接点
マイク×←→×吊り装置ー入力パッチ(××)架→×調整卓×←出力パッチ(××)架ー端子盤×←→×レコーダー

***ステージ袖あるいホール内の任意のマルチ端子を経由してレコーダーに結線した場合
全長100m以上(+マルチケーブルの長さ)、最低12箇所の接点
マイク×←→×吊り装置ー入力パッチ(××)架→×調整卓×←出力パッチ(××)架ー端子盤×←マルチケーブル→×マルチボックス×←→×レコーダー

信号の伝送方式が、長い引き回しに強い仕様になっているとはいえ、レコーダーにマイク直結と比べるとひどい遠回りであること、信号が劣化していることは間違いありません。


客席での収録

吊りマイク以外の方法となると、客席内での録音になりますが、もっとも取り組みやすいのは一本のマイクの中にL,R2個のマイクを内蔵し、ステレオ収録出来る、ワンポイントステレオ方式のマイクによる収録です。
録音の成否はマイクをセットする場所と方法に依存します。というかそれに尽きます。


●録音する場所
そもそも録音自体が許されていればの話ですが、基本的に良い席、客席の前方で真ん中で迫力のある演奏が聴けるところが、録音するにも良いところです。

主にNT-4ワンポイントステレオマイクを使う場合になりますが、私の場合は「その録音をオーディオ装置で再生した時にどんなステレオイメージを得たいか」を念頭におき、マイクの位置を決めています。即ち演奏者=楽器(群)が左右のスピーカーを取り巻くどの辺で鳴ってほしいのかをイメージし。それを聴く自分の耳の位置に相当する場所にマイクロフォンを設置するわけです。
基本的にピアノや器楽・声楽の独奏等の、音源の小さいものの場合は近く、アンサンブルやオーケストラなどのように音源が広い範囲にある場合はその分離れます。独奏・独唱等の場合などは、きわめて最前列近くで録音します。

ステレオマイクのL,Rのマイクユニットの開き角(X-Y方式ワンポイントステレオの場合)は、機種にもよりますが、おおむね90度から120度の範囲が多いようです。図にも用いたNT4というモデル(90度)は左右のマイクユニットが剥き出しになっているので、軸上正面の把握がたいへんやりやすいです。(X-Y方式は、比較的近距離の音源を狙うのに適したマイクアレンジとされています)


ステレオ録音・再生の理想は、マイクをセットしたその場所で聴いた音がそっくりそのままのイメージで再生されることにあります。しかし多くの場合(というか程度の差ですが)再生時にはステレオイメージは狭まり、距離感は遠く、周囲の雑音は大きく、感じられるのが普通です。オーディオ装置の性能、規模にもよりますが、目をつぶれば実際の演奏とかわらない〜ような再生音を得るのは困難なことです。ゆえに私はその分を見越して、マイクを心持ち音源に近付けて録音するようにしています。

PAを使った興行では、最前列か、それが無理なら客席後方で音響をコントロールしているブースのすぐ前で録音するのがよいと思います。PAが入っているということは、ナマの音を聴かせようという意図はそもそもないので、スピーカーの音が入りにくい=デッドスペースになりやすい最前列か、もっともよくコントロールされた音響が期待できる調整卓のところしかありません。
いづれにいたしましても、他のお客さまのご迷惑にならないようにしなければなりません。

●マイクの高さ
マイクは専用のスタンドに取り付けて高々とブームを伸ばすのがベストです。客の雑音から離すためにも可能な限り高く、できれば演奏者をこころもち見おろす位まで高くできれば、迫力のある音が録れます。しかし、通常一般に公開されている演奏会ではそんなことはできません。
私のやり方は、マイクの高さの決定権をビデオ担当者に転嫁するやり方です。いまどき発表会演奏会等では必ずビデオを録るひとがいますので(興行のオフィシャルのビデオ収録担当者がベスト)まず率直にその人と話し合い邪魔にならない範囲でどこまで持ち上げて良いか、できればモニター(ファインダー)を覗かせてもらって協議します。だいたいビデオの人も同類(?)なので、紛争にはなりません。
興行の主催者から邪魔だと言われたら引っ込めざるを得ませんが、他の一般客に何か言われたら「ビデオの担当者と協議して決めた」と言えば、一旦はハグラかすことができます。

●よいと思った場所よりもちょっと前に
客席で聴く音は、演奏者から発せられる直接音と会場内にこだまする間接音がゴッチャになった音です。人間の耳は目的の音に神経を集中すると周囲の雑音を気にしなくなるのと同じように、客席で演奏等を聴く場合、演奏者から直接届く音に神経が集中します。残響の多い時にもその中から直に届く音に神経を集中して聴いています。直接音・間接音の比率で考えると、実際の状態(マイクが拾う音)よりも直接音を強く意識して聴いていることになります。よって録音する場合には、客席でイイ感じに聞こえる場所よりも「こころもち」ステージに近付いて、より直接音が強くなるよう収録することによって、再生した時にイイ感じになります。仮に直接音が強すぎて録れてしまっても、残響を電気的に合成して後から付加することはできますが、残響の中から直接音を抜き出すことはできませんので、どちらかというと残響の少ない、ドライな音が録れた方が好ましいです。

●ピット上の席は避ける
オーケストラピットのある会場で、ピット上に客席を設けたセッティングになっていたならば、ピット上は床自体が振動しやすく、余計な音を拾うことがありますので、マイクを置くならばピット上の席は避けた方が無難です。ピット上は歩くと音が違う(うるさい)のでわかります。またピット上の席、あるいはピットに隣接する列の座席は、取り外して移動出来るように脱着式になっており、概して揺れやすかったり、軋みがあったりします。床と椅子との固定状態をみればすぐにわかります。

●目立たないように録音する場合
種々の理由でおおっぴらに録音できないような状況で録音する場合、マイクスタンドはいかにも目立ちますので、小型のカメラ三脚や折畳式の譜面台、傘など色々なものをスタンド代わりに使ってきましたが、最近はK&Mの258に落ち着いています。持ち込むにも、誰が見てもマイクを固定するものだと思いませんし(?)床に置く部分がないのでつい自分で蹴ってしまうという事故がありません。

←最前列に(目立たないよう)マイクをセットした例。
写真は椅子に取り付けたところです。この席に座って録音する場合、大敵なのはハナイキ。演奏にくらべ、拍手の音がモノスゴイ大音量で収録されます。

←客の視界に入らないよう、最後部列に立てたマイク。
オーバーヘッド・ブームスタンドに K&M258を足して、4m超の高さに上げています。ちなみにビデオ用に外部マイクを用いたときの写真です。高さで客との距離をかせいでいますが、演奏の静かな部分ではどうしても客のざわめきが目立つ録音になります。

●マイクロホンの選択(ステレオペアマイク方式)
マイクロホンは、手持ちのワンポイントステレオマイクがもっとも手軽ですが、写真のように左右2本のマイクをステレオ--ペアにする方法もあります。

この例では床=スタンドからの振動による雑音を拾わないよう、ショックマウントを介して、マイクが取り付けられています。ステレオペアマイク方式といわれています。
こうしたマイクアレンジでは、任意の、高品位のマイクを使うことができます。
たとえば無指向性マイクを用いた場合等では、明らかにワンポイントステレオマイクでは収録不可能な臨場感のある収録ができることもあります。
2本のマイクの指向性、間隔、開き角度等いろいろな組み合わせが研究され、数種類の定石ともいうべきセッティングが提唱されています。

以下に、ステレオペアマイク設置について参考になると思われるドキュメントを紹介します。(日本語ではありません)

http://www.m-audio.co.jp/products/index.html CPの高いオーディオプロダクトのM-AUDIOのページ。"Record Now!" という1.8MB(英語版)のドキュメント。マイクロフォンの構造からステレオ・ペア録音、スタジオ収音の解説もある。★★★★
http://www.dpamicrophones.com/ デジタル録音の黎明期、デンオンのPCM録音で活躍したB&Kマイクロフォン。今はDPAになってホール収録の定番。"Microphone University "の項をクリック。マイクロフォンメーカーとしての良心を感じさせる、多岐にわたる懇切で正直なドキュメント。ステレオ・ペア録音についても定説的内容を網羅。英語。★★★★★
http://www.schoeps.de/E-2004/miscellaneous.html ノイマン、DPAと並ぶクラシック音楽収録の定番ショップス。"Mikrofonaufsze" というPDF100ページ超のドキュメントが秀逸。ステレオ・ペア録音についても記述がある。ドイツ語。意味がわかれば最高のテキストになると思われる。★★★★

●空調による「吹かれ」に注意
席の場所と時期(冷暖房の稼働状態)にもよりますが、空調の風が吹きつけてくる時があります。常時ではないので気付きにくいのですが、肌で感じるほどの風があったならば、マイクロホンは相当に「吹かれ」ていると考えられます。人が近くを通過しただけでもあおられます。気付いたら場所を変えるかウインドスクリーン等で防護します。風による「吹かれ」音は、非常に低いモコモコと鼓膜を圧迫するような音で、きちんとヘッドホンをしてモニターしていないと気づきにくいです。特に低音域まで周波数特性の伸びたコンデンサー型マイクを使う場合には要注意です。
空調を止めてもらえば解決しますが、システム上(ホール内部のみ)止めることができない。また止めても数十分はボイラーのノイズは止まらないなど、ホールによって様々な事情がありますので、よく確認する必要があります。

●消防法等
会場内は通路の確保が義務づけられており、通路に障害物などを置いてはいけないことになっています。会場を借りる利用者は、避難誘導の計画(担当者を選任)を作成し、客の避難誘導のルートを確保するという誓約を文書上に締結し、利用許可を得ています。(略式の場合もあるとは思いますが、基本的にはそうなっている筈です。)
したがって通路に録音機材やマイクスタンドを置いてはいけませんし、立退くよう言われたら直ちに撤退しなければなりません。通路や客席の間に電源ケーブルやマイクのコードを這わせる場合にも、会場が暗くなっても人がつまづかないよう、養生シートで覆ったり粘着テープで止めたりしなければなりません。そのために会場では大概、ケーブルを覆うシートを用意しています。粘着テープ類はネバネバが残る可能性があるのでテープに代わる方法があれば極力使わない方が無難ですが、使うなら布のガムテープになります。梱包用のクラフト(紙)テープは粘着が残ってしかも取りにくいので、どこのホールであってもオコラレます。
バッテリー駆動のポータブル機器を使う場合必要ありませんが、もし電源(AC100V等)が必要な場合、会場内のコンセントを用いることになりますが、これにも多くの場合勝手には使えないことになっています。○○kWまで○○円〜のような規定で使用料金が設定されています。

●PAの調整卓からライン入力
ロック/ポップス系音楽やカラオケ大会、ないしバラエティー系の興行では、PA業者(拡声全般を請け負う業者。機材・オペレータを派遣する)が入って客席の中央から後方(が多い)に音響を集中コントロールするブースを設け、音響の調整・操作にあたる場合があります。そこで音響全般を制御している調整卓(ツマミのいっぱい並んだ機械)は、録音用にバランスをとった音声を出力する機能とそのための出力端子を備えています。そして多くの場合そこで記録用(?)の録音をしています。仮に録音はしていなくても(相手次第ではありますが)理由を話して交渉すれば録音用に信号を分けてもらえるかもしれません。
「生録に使う用品について」で紹介したライン録り用接続コード(変換コネクタ)を一そろい持参すれば、録音不可能ということはまずないと考えられます。ただし、レコーダーに信号を分けたことにより、逆にPAの側に(見かけ上の現象として)ノイズを送り込んでしまう---ような、不慮の副作用が発生することがなきにしもあらずなので、断られるかもしれません。くれぐれも無理にお願いするのはやめましょう。

1)通常のOUTPUT端子を使った方法
以下に調整卓(オーディオミキサー)の、設計上録音用出力として用いられる出力端子の例を掲げます。出力には業務用機器用の+4dB(キャノンor3極フォン)タイプと、民生用機器用の-10dB〜-20dB(ピン)タイプの2種類があります。

この例の場合、右上に一般(業務用でない)レコーダー用の-10dBの録音用出力-ピンジャックが備えられています。「ピン(L,R)ーステレオミニフォン」のケーブルで録音できます。


この写真の例はフォーンとキャノンが選べる場合です。ポータブルMD等のLINE INにつないで録音する場合「-20dB」に切り替えます。「標準フォンーステレオミニフォン」のケーブルで録音できます。

2)インサート(インサーション)端子を転用する方法
ミキサー等には、インサート(あるいはインサーション)端子という、外部の効果機器(等)を繋ぎ込める端子が用意されています。その多くは3極フォンの先っちょから信号を送り出し、繋いだ機器を経て、中間のリング端子を介して戻った信号を受け取る仕組みになっています。
望んだ信号(ステレオ2ミックス?)の通っている信号系にインサート端子があれば、そこから録音用に信号を分岐することが可能です。→接続コードの作り方

←フォーンタイプのINSERT端子(ミキサー)

←フォーンタイプのINSERT端子(ミキサー)

←フォーンタイプのINSERT端子(マイクプリアンプ)

←ピンタイプのINSERT端子(ミキサー)名称は「アクセサリー」になっていますが、主旨はINSERTとまったくかわりません。通常は専用のジャンパープラグで短絡してあり、必要な時外して機器を繋げるようになっています。このタイプなら自作ケーブル必要なし。たいへん分かりやすい!

重要な注意! INSERT端子を利用した方法は、PAシステム上に大きなリスクを発生します。大概の業者は(実用上問題ないとわかっていても)やらせてくれないと思います。自分の責任のとれる範囲で、出来たら、おためしください。

●客席録音特有の(絶望的)問題
客席での録音では、まわりの一般客がたてる雑音という、看過し難い問題に直面します。全体にざわついている興行なら問題ありません?が、音響的に繊細な(部分のある)音楽の演奏会では、プログラムをめくる音やせんべいの袋(飲食禁止の筈ですが)をカシャカシャさせる音、雑談、寝息(鼾)、ビンボウゆすり等、如何ともしがたい雑音に悩まされます。これらの音が録音を台無しにする理由は「距離の2乗に反比例」の法則の通りですが、中でも最悪なのが演奏者による聴衆への手拍子の要求や、曲が終わらないうちに始まる拍手です。音楽が演奏されていない部分での拍手や雑音なら、編集の段階でいかようにも処理できますが、曲が鳴っている状態で手拍子・拍手をされるとレベルメーターは振り切れっぱなし、音楽が録音できないから止せ〜とも言えず、どうしようもありません。あとで聞き直してみると、音楽が鳴っている時のレベルオーバーは極めて微細なものでも気になるのに、明らかにメーター振り切っていた拍手は特段歪んだ音には聞こえないのが余計に口惜しく、客席録音の真のいらだちがそこにはあります。(吊りマイクならそれほど極端に聞き苦しくはなりません)

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