膠原病による肺疾患について


膠原病肺という病気を理解していただくために

 
膠原病の病態のひとつである肺疾患について、京都大学医学部附属病院呼吸器内科、間質性肺疾患診療グループの長井苑子先生に解説していただきました。
 

 膠原病肺とは


膠原病の患者さんに合併した肺、気管支、胸膜の病変を、全てまとめて膠原病肺と呼ぶこともありますが、ここでは「膠原病に合併した間質性肺疾患」という意味で使います。では、間質性肺疾患とはどのような病気なのでしょう。

私たちは肺で呼吸をしています。肺全体は非常に目の細かいスポンジ状の組織で、図2のような構造をしています。吸い込まれた空気は、気管支の末端の直径数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の肺胞(億の単位、肺実質)という所まで入ります。この肺胞のまわりの壁の部分を間質と呼びます。この壁は非常に薄く、その中には毛細血管が網の目のようにはりめぐらされていて、ここから酸素が吸収されます。酸素を吸収した血液は心臓へともどり、そこから全身に供給されてゆくのです。

この肺胞の壁(間質)に炎症がおきる病気を総称して「間質性肺疾患」と呼んでいます。この中でも、線維化をおこしやすい病気を特に間質性肺炎とまとめて呼んでいます。私たちが一般的に単に「肺炎」と呼んでいる疾患は、細菌やウィルスの感染が原因でおこり、その病変の場所は肺胞の内部(空気のあるところ)です。この点が肺炎と間質性肺炎とが大きく異なる点です。

間質性肺炎では、炎症が進むと図3のように肺胞の壁は厚くなり、肺胞の形も不規則になって、肺全体が少し固くなります。その結果、肺のふくらみが悪くなり肺活量がおちると同時に、酸素の吸収効率も悪くなってゆきます。さらに進行すると、肺は図4のように線維性成分の固まりとなり、この部分での肺としての機能が失われます。もちろん肺の全部がこのようになるのではありません。図4のような変化にまで進むのは肺の一部であり、残りの部分で十分に呼吸を続けることが可能です。 

 
図1
   肺の全体図
図2
   正常な肺構造
図3
  初期の間質性肺炎
  (間質が固くなる)
図4
  進行した間質性肺炎
 (腺維化して縮んだ肺)
 
 原因は何ですか? 

 
一般的に間質性肺炎をひきおこす原因としては、肺に吸い込んだカビ、粉、金属粉、石綿などに対する反応や、抗癌剤、抗生物質、不整脈の治療薬、漢方薬などの一部、など多くのものが知られています。膠原病に合併する間質性肺炎については、免疫複合体という物質が肺に沈着することが原因だろうと考えられていますが、詳しいことはまだわかっていません。その他に、背景となる疾患がなく、原因も特定できない間質性肺炎(特発性間質性肺炎と呼ばれます)があります。
  

 どんな症状が出ますか? 

 
膠原病肺による最も多い症状は咳と息切れです。

●咳
多くの場合が痰を伴わない空咳です。身体を動かそうとしたとき,何か話を始めようとしたとき、急いで息を吸い込んだとき、冷たい空気を吸い込んだときなどに咳込むことが多いようです。病気が進むと咳も頻繁になり、咳が咳を誘発するかたちで執拗に続くことがあります。患者さんにとっては咳が続くということは、ただ息が苦しいというだけではなく、体力を消耗する原因となります。ひどい場合には,体重がかなり低下してしまうこともあります.
●息切れ
息切れを感じるのは酸素が不足しているせいです。病気の初期では、ふつうにゆっくり歩く程度では感じることはなく、階段や坂道を上るときに初めて自覚することが多いようです。ご自分ではわからなくても、ご家族の方が先に気づくこともよくあります。たとえば、最近歩くのが以前より遅くなったとか、何カ月か前から階段を上るとしんどそうにしていた、などです。病気が進めば、やがて平地歩行でも息切れを感じるようになります。
  

 どんな検査をして診断するのですか?

 
膠原病肺(間質性肺炎)はいくつかの病型に分類されています。これらの病型は、実際に肺の一部をとって顕微鏡で調べ、その組織診断をもとに決まります。血液検査、胸部CT、肺機能検査、気管支鏡検査などは診断の補助として欠かせない検査です。

血液検査
病気の活動性や経過を知るのに重要です。膠原病によっては,その病気に特徴的な自己抗体という蛋白質が検出されて,診断に結び付くことがあります.
●動脈血液ガス分析
血液中の酸素、炭酸ガスの量を調べることにより肺の状態を評価できます。間質性肺炎では,線維化の程度が,運動前後での酸素の濃度の変化で評価できます.
肺機能検査
肺活量や肺の呼吸能力が調べられます。膠原病肺では,肺の容量が低下する間質性肺炎だけでなく,気管支系統の異常がみられることもあり,肺機能検査でこれらの評価ができます.治療方針にむすびつくため,大切な検査です.
胸部CT
肺の細かい病変を調べ、間質性肺炎の病型についておおよその見当をつけることができます。また、病気の部位とその広がり具合もわかります。
●気管支鏡検査
肺の中をうすい食塩水で洗い、その中に含まれる白血球などの成分を調べます。間質性肺炎の各病型に特徴的な所見を得ることがあります。膠原病肺では,一般にリンパ球という細胞が増えやすいという特徴があります.また、感染症や悪性疾患ではないことを確認するためにも必要な検査です。
●組織検査
診断の確定には実際に肺の組織を調べなければなりません。このためには胸腔鏡下肺生検や開胸肺生検などの外科的処置が必要です。患者さんの状態が許す限り、確定診断のために肺の組織検査を受けられることを私たちはお勧めしています。組織診断は治療管理方針を決めるときの根本となるものです。ただし、すでに重症の方、ご高齢(70歳以上)の方、肺機能があまり良くない方、心臓をはじめ他の臓器に疾患をお持ちの方にはお勧めしません。また、ご本人はもちろんのこと、ご家族の皆さんのご理解が得られない場合に実施しないのはいうまでもありません。このような場合には、身体所見、気管支鏡、胸部CT、臨床経過などの結果から病型を予測して治療を開始することになります。
 

 どんな経過をたどるのでしょう?

 
間質性肺炎は組織診断によっていくつかの病型に分かれます。それぞれの病型について、それ以降の経過がある程度予測ができます。臨床的には病気の経過に大きく関わる要素がふたつあります。

●病気の進行速度
日?、週単位で急速に進行する急性型、月単位で進行する亜急性型、年単位で進行する慢性型のどれかということです。膠原病肺は基本的に、急性のものよりは亜急性?、慢性のものが多いために、通院、治療、経過観察という形で医療機関との関係は長く続くことが多い病気です。
●治療効果
大きく3つのタイプに分けられます。薬無しで自然に改善してゆくのか、薬が有効なのか、あるいは薬が無効なのか。治療が有効なタイプでも、完全に治るのかあるいは部分的にしか治らず一部は残るのか、再発するのかしないのか、という点が重要です。一部の急性型と亜急性型の間質性肺炎については治療効果が期待できます。しかし、慢性型の間質性肺炎については、残念ながら現在の医学での治療効果は不十分で、年単位でゆっくりと進行し、数年?十数年で呼吸不全が進むと考えねばなりません。
 

 どんな合併症があるのでしょう?

 
病気が長期化すると次のような病気を合併することがあります。

●肺炎
間質性肺炎が進み肺の構造がこわれた部分では、ウィルス、細菌や真菌(カビ)などに対する抵抗が局所的に弱くなりるため、肺炎をおこしやすくなります。
●薬剤性肺炎
膠原病では,肺以外の病変のために治療が行われることが多いので,治療経過でいろいろな薬剤による間質性肺疾患,間質性肺炎がおこることもあります.呼吸器科での経過観察はたいせつです.
●肺高血圧症
心臓(右心室)→肺→心臓(左心房)という血液循環(心肺循環)に支障をきたしている状態です。とくに体を動かしたときに、息切れに伴ってこの心肺循環が急速に悪くなり、心臓に大きな負担がかかります。ときには急性心不全の原因になることがあります。混合性結合組織病や強皮症で合併しやすい傾向があります.
●気胸
間質性肺炎では肺に部分的に弱い所ができることがあります。何かの拍子にこのような弱い所が破れると、ちょうど穴のあいた風船のように肺がしぼんでしまいます。これを気胸といいます。胸に細い管を入れて直すことができますが、場合によっては手術しなければならないこともあります。
  

 どんな治療をするのでしょう?

 
●間質性肺炎に対して
上の図3のような状態の肺を図2のように元に戻すか、あるいは図3から先に進まないようにするのが治療の目的です。図4のように荒廃してしまった肺は残念ながら元に戻すことができません。また、治療効果のところで触れましたが、治療効果があまり望めないような慢性型の間質性肺炎などでは、むしろ治療せずに経過を見た方が良い場合もあります。現在治療効果が認められている薬剤は、ステロイド剤と免疫抑制剤の2種類です。そのほか実験段階の薬剤がいくつかありますが、効果はいまのところ未知数です。

◎ステロイド剤
このホルモンは新陳代謝を活発にするだけでなく、炎症やアレルギーなどの異常な免疫反応を強くおさえることもわかっています。しかし、一方では、長期間服用すると様々な副作用が生じてきます。治療を考えるときには治療効果と副作用とのバランスを常に考える必要があります。投薬量は最初は大量に使い、だんだん減らして、少量を維持量とします。服薬の減量については、必ず医師の判断に従ってください。再発は主に減量中におこります。
◎免疫抑制剤
間質性肺炎に使うのは主にアザチオプリン(商品名イムランなど)とシクロフォスファミド(商品名エンドキサン)、シクロスポリン(商品名サンディミュンなど)の3種類です。これらのうちのどれかをステロイド剤と併用します。投与量は最初少なく、だんだん増量してゆきます。ただ、いくら量が少ないとはいえ白血球が減ったり、生殖細胞に影響がでたりするため、男女を問わずとくに若い方には使いにくい面があるというのが難点です。

●対症療法
咳をやわらげるためにリン酸コデインなどの咳止め薬を使います。息切れが強いときには酸素吸入が症状を楽にします。病気が進めば在宅酸素療法により、自宅で、あるいは出かけるときにも酸素吸入ができます。
●合併症に対して
肺癌、肺高血圧症などに対しては、それぞれの専門的治療が必要となります。しかし、なかなか満足のゆく治療効果が望めないのが現状です。心臓の超音波検査や右心カテーテル検査で肺高血圧症が確認されれば、在宅酸素療法を早めに開始します。
 

 生活上どんな注意が必要でしょう?

 
間質性肺炎はカゼやインフルエンザなどをきっかけに、急速に悪化することがあります。ですから、まず、体調を崩さないよう、カゼをひかないように十分に気をつけることが大切です。また、カゼをひいたら早期にカゼ薬で対応するようにしてください。インフルエンザのワクチンは毎年接種を受けることをお勧めします。
仕事も含めて日常生活上の活動については、とくにしてはいけないことはありません。ご自分の体と相談していただいて、無理なくできる範囲のことはどうぞなさってください。休憩をとりながら動くことがたいせつです。
食事についてですが、これは食べてはいけない、というものはありませんが、お酒を飲まれる方は「ほどほど」に、タバコは必ずお止め下さるようお願いします。タバコは肺に悪いだけではなく、心臓病の危険因子、リウマチ発症の危険因子でもあります。糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併すると、治療薬を使いにくいのでくれぐれも発症させないように気を付けてください。
一般的には、精神的、肉体的ストレスのかからない生活をする、というのが慢性疾患と上手に付き合っていくコツのようです。もちろん、家族の方の暖かいご理解が不可欠なのはいうまでもありません。
少しでも悪化兆候が認められたら、
つぎのような時は要注意です。できるだけ早く間質性肺疾患外来(月曜日あるいは金曜日)を受診するか、病棟主治医または外来主治医に相談して下さい。

発熱、息切れや呼吸困難がいつもより強い、咳がいつもよりよく出る、痰の色や量がいつもと違う、息が吐きにくい,脈拍がいつもより早い、動悸がする、胸が痛い、急に体重が増える、顔や足がむくむ、唇や爪の色が紫色になる

 
 おわりに

 
病気と付き合って行くためには、まず、病気を正しく理解することがとても大切です。自分の(あるいはご家族の)状態について細心の注意を払うのももちろん大切です。しかし、ともすれば、誰にでもあるような加齢によるからだの変化(つまりトシのせいでおきる症状)を、膠原病のせいと考えて落ち込んでしまいがちです。決して悪く考えすぎない、いたずらに不安にならない、そして、いつも病気に対して前向きに対処して行く、という姿勢がとても大事です。私たち医療スタッフも、患者さんとの協力体制をより強固なものとするために、病気の経過や新しい治療法などについて、皆様にきちんとお話してゆきたいと考えています。また、患者さんからの情報は診療上とても重要です。どうか憶せずに、いろいろな情報、気になる問題を私たちにお話下さい。また、友の会などの患者会に加入することも精神的な支えになるかもしれません。
 



 

 
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