◎PT(理学療法士)としてpt(患者)として

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29)実習

 

理学療法士になるためには3年間養成学校に通い、卒業後国家試験に合格する必要があります。以前に覚えることが非常に多いということを記しましたが、もうひとつ大変なのが臨床実習です。1年生では約2週間、2年生では約1カ月、3年生では約6カ月の病院での実習があります。もちろん指導者(私たちはスーパーバイザーと呼んでいます)のもとで実習を行うわけですが、私は既に30歳を越えていたのでほとんどの指導者が私よりも年下の先生でした。つまり病院で働いている理学療法士は非常に若く、最近養成学校も増えつつありますので、今後さらに若い方の割合が増加してくると思われます。今考えてみると私も大変でしたが、年上の学生を指導することはバイザーの先生方もより大変だったろうと思います。

実習でまず大変なことは"患者さんを触る"ということです。私たちの仕事は患者さんに触らなければ始まりません。いくら知識があったとしても教科書からは学べないことが、患者さんに触れることでわかってくるのです。しかし実習では緊張して手が振るえたり、かたくなったりして、患者さんの状態を把握することが難しいのです。私たちがリラックスしなければ、患者さんもリラックスすることはできませんので、患者さんの本当の能力をみることも困難になってしまいます。ひどい時には私も患者さんも会話する声までも振るえてしまうこともありました。私たちの心の中は患者さんにはよく分かってしまいます。恐々触ると患者さんも怖くなってしまいます。そして、実習中は毎日レポートを指導者へ提出する必要があります。このレポートを書くために意味のない検査を行ったり、患者さんに無理な要求をしたり、自分中心のリハビリを行っていたことを今でも反省しています。

もし自分が患者さんの立場になったとしたらどうでしょうか。例えば脳卒中になって、今まで元気に働いていた人が意識を失い、突然救急治療室に運ばれます。気がつくとベッドの上で腕には点滴、尿道にも管が入れられてあります。右手を動かして御飯を食べようとしても、残念ながら指も動きません。数日して理学療法士と呼ばれる聞き覚えのない職業の人が来て、「あなたのリハビリを実習生と一緒に担当します」と言われたら…。この一言の意味を本当に理解することができるでしょうか。もし私なら"私に何が起こったのだろう"、"何でリハビリなの?"、"何で実習生なの?"いろんな意味で気が動転すると思います。この時、患者さんの人生の中で最大の岐路であるかもしれません。この病院生活は間違いなく患者さんの今後の生活を左右します。その大切な時期に"なぜ実習生が担当するのだろう"と思わないでしょうか。もし私なら"担当が実習生なんて絶対イヤ"と思いますし、"実習生かツイテないな"と絶望感が増すような気がします。しかし実際の実習現場では患者さんは嫌な顔を全く見せずにリハビリに取り組んでいます。患者さんにしてみれば実習生であろうが自分のリハビリに励むのは当たり前で、指導者の先生がしっかり見ているから安心なのかも知れませんが、それでも私たち学生にしてみれば患者さんに対して、言葉に表せないくらい感謝の気持ちでいっぱいなのです。私たちが働けているのは間違いなく実習生時代に出会った患者さん方のお陰だと思います。しかし実習生時代に出会った患者さんに、直接恩返しをすることは残念ながらできません。その感謝の気持ちは現在の患者さんや病院へ来る実習生たちに返さなければいけないと思っています。

1998年12月の末に、たくさんの方にお世話になった三年生の半年間の長い実習を終えることができました。実習を終えれば目の前に卒業が見えています。そして卒業直後の1999年3月6日、つまり5周年の結婚記念日に国家試験があり、その4月からは理学療法士として社会人に戻れるはずでした。実習を終えたときは私自身も妻も両親も疑いなくそうなると思っていました。もうすぐ卒業、もうすぐ国家試験、そしてもうすぐ発病となります。

 

 (第29話:2004年5月2日公開)