手加工の歴史

おぼろ とろろ

太白おぼろ・太白とろろ

昆布は渇藻類の中でも強い繊維を持っています。

昆布の繊維は縦に流れており、縦に裂けやすいですが、横には簡単には裂けません。

この昆布の繊維の性質から、この繊維に沿って包丁で薄く削り、おぼろ、とろろ、といった昆布の加工法が生まれました。

起源は定かではありませんが、文化・文政(1804年〜1830年)の頃と一説には言われています。

当時の昆布は、今まで見てきましたようにきちんとした検査規格はもちろんありませんでしたし、すべて昆布の両端をたぐって中へ折り込んだ島田結束(島田髷に似ているからこう呼ばれた)で搬送されていたため、長期の搬送では乾燥度合いが悪いと中心部がカビていた事が多々あったようです。

このカビの部分を処理するために、煮沸したり、軽度のカビなら昆布を酢に漬けて柔らかくしてから包丁で削り落とす方法を取っていました。

この方法が現在の手加工おぼろの始まりです。




まず、原藻である真昆布の厚さで選別し、厚さを揃えます。

つぎは酢の中に漬ける「漬け前」という工程に入ります。

酢加減によって、昆布の質によってそして天気によっても酢の吸込み具合は変わります。

酢の中に昆布を漬けたり出したり。一回5分程度漬けることを、2〜3回繰り返します。

削るのに適したいい具合になるよう一晩寝かします。

砂や異物を取り除いたのち、さらに2日ほど寝かされます。

この工程がすんだ後、いよいよ削りの作業に入ります。


手加工職人は腰を降ろし、右足で昆布の一端を踏まえて左手で引っ張ります。

これを鋭利な片刃の包丁で薄く削り剥がします。右足は昆布を押さえるだけでなく、昆布を押さえつつ、さらに右手を押し出すようにして包丁を使います。

簡単なようですが熟練した職人でなければ出来ない技です。

一番表皮を削り剥がしたのが黒おぼろ、次に白おぼろが出来ます。

最後に芯が残りますが、霜地または雪地ともいい、正月飾りやバッテラ寿司に使う白板(しらいた)昆布になります。

右手に持った包丁を昆布にやや斜めに当て、薄く長く削っていきます。

はじめに出来るのが「黒おぼろ」。昆布の表面の黒っぽい部分から削るためです。

そして昆布を削っていくとだんだんと白っぽくなってきます。これを太白地(たいはくじ)と呼び、「太白おぼろ」になります。

太白地になった昆布はすぐには削らず、数日寝かしベタつきをなくし、白く粉が吹いてサラリとなってから削ります。

白い粉は昆布のマンニットと呼ばれる旨み成分です。

こうした技術は大正時代に入って「引き刃」という方法が発明されてからのことです。

 

昆布職人さんが使う包丁です
(上図) おぼろ昆布を・とろろ昆布を削る時に使う包丁です。
刃先の部分が取外し式になっています。
一度、百貨店の催し事の時などで職人さんによる実演を見て下さい。
昆布の断面

 


おぼろ昆布やとろろ昆布を削る加工技術の上で、包丁に「アキタ」をかける、あるいは「アキタ」を引くなどといわれる独特の削磨技法が行われています。

昆布を削る包丁は硬い鋼(はがね)と、比較的柔らかい軟鉄を巧みに2枚張り合わせた独特の包丁が用いられています。

一般によく研いだ包丁の刃先を金属性の棒などで刃先を傷めない様に、硬い鋼の方から裏側の軟鉄の方へほんの少し、ほぼ直角に曲げ、その刃先で漬け前・整形した昆布の表面を掻き取るようにして削っていきます。

また、包丁は心持ち外側へ向けるようにして削っていきます。

おぼを昆布を削るときは「シャーシャーシャー」とリズミカルな音が流れますが、とろろ昆布では「ジャッジャッジャ」と手応えのある音が響きます。

 

「アキタ」をかけずに削ったのでは、昆布が粉になったり、厚みが均一にならなかったりと、綺麗なものは出来ません。
アキタという技法が普及する以前には、現在のような長くて幅があって薄いおぼろ昆布はありませんでした。

さてさて「アキタ」とはどういう意味なのでしょうか。諸説があり、どれが定説かは分かりませんが列挙してみます。

1. 地名説」 秋田県から由来した説 

ある時、昆布加工の作業場で、子供が昆布包丁の刃先をいたずらに茶碗のかけらでなでたのに気づかないまま昆布を削ったところ綺麗に削れたので、包丁の刃先を曲げることが流行し、その後、秋田県から各地に広まった。
昆布加工の本場である敦賀地方に、大正末期から昭和のはじめ頃に伝わった。といわれてます。
2. 人名説」  秋田という昆布職人の名人が考案したという説

手加工職人さんの本場である敦賀で強く支持されているそうです。ただし、その人の出身地などに関しては一切不明です。
3. 伝説」であるという説

播州加古川周辺から丹後路にかけては早くから昆布加工が盛んでしたが、この地方の猟師が皮革のカビを削ぎ落とす時に刃物の刃先を曲げていたのを、昆布職人が昆布加工に取り入れた、というもの。

ほかにも色々と諸説はあるようですが、大正時代から始まったこの技法は、今も昆布職人たちに脈々と受け継がれています。



刃先のアキタと呼ばれる刃先の曲がった部分はわずか「絹糸一本分」ほどの微妙な曲がり具合です。

刃先を傷めないよう、そして、できるだけ薄く繊細なおぼろ昆布を生み出せるよう、職人たちはそれぞれ工夫を凝らしてアキタをかけます。

職人たちは”アキタのかかった刃先は昆布に吸い付くようになる”と言います。

繊細な刃先はすぐに磨耗するので、また研がなければなりません。

昆布を削っている時間よりも刃を研ぐ時間のほうが多いくらいで、良質の製品を作り出すためには刃物への気配りが大切とされています。

 

とろろ昆布は削り方と包丁の刃先に違いがあります。右手に持つ包丁の刃先にはノコギリ状に目が打たれています。

解く研いだ包丁の刃に目打ち機で目を入れるもので、明治末期に堺のある刃物屋で考案されて以来改良が続けられ、大正初期に鉄製のものが作られ全国に普及し、今日に至っても使われています。

目打ち機
目打ち機です。ハンドルを回すことで刃先に細かく目を打っていきます。

 

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