塩 再考(2)
〜減塩は必要か?〜
食生活における塩とは食欲増進材として食品に塩味をつける役割が大きいです。
塩味によって色んな食材がおいしく食べられるようになると、人体に必要な栄養素も充分に補給されて健康的な生活が送れます。
塩は人体にとって必要不可欠ですが、塩の摂取過多が問題視されています。
しかし、塩の摂取量について結論が出ているわけではありません。
塩の使われ方をまとめると下表のようになります。
| 役 割 | 機 能 | 内 容 |
| 味付け | 旨味強化 | 塩味付与、隠し味 |
| 食欲増進 | 電解質平衡保持 | 栄養摂取 |
| 食品保存 | 脱水・防腐 | 肉・魚の塩蔵、漬物 |
| 発酵食品製造 | 発酵調整 | 味噌・醤油・パン製造 |
| テクスチャー付与 | タンパク質溶解 | 練り製品・うどん製造 |
| テクスチャー保持 | 電解質置換 | 湯豆腐の硬化防止 |
| 色相保持 | 電解質置換 | 葉緑素の安定化 |
| 旨味保持 | タンパク質変性 | 振り塩 |
| 料理の見栄え付与 | 化粧塩 |
●塩の機能と役割
さて、塩は生きていく上でなくてはならないもの(下表参照)なので摂取する必要がありますが、食べた塩はほとんど吸収され、発汗が無ければ、その分は尿に排泄されます。
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機 能 |
役 割 |
| 1)浸透圧維持 | 細胞を正常な大きさに維持し、正常に機能させる |
| 2)水分調整 | 体内の水分を調整し、浮腫防止の指標となる。 |
| 3)酸・塩基平衡 | 体内のpHを弱アルカリ性に維持し、正常に機能させる。 |
| 4)食べ物の消化 | 胃液をはじめ、各種消化液の成分となって消化を助ける。 |
| 5)神経伝達 | 神経細胞の刺激伝達に関与する。 |
| 6)栄養素の吸収 | ブドウ糖やアミノ酸の吸収に関与する。 |
1)腎臓は細胞外液中のナトリウム濃度を140mEqになるように絶えず調節しています。
この濃度で浸透圧が決まり、一定に保たれます。浸透圧が一定に保たれると細胞内液のカリウム濃度も保たれ、細胞の内外の浸透圧がバランスを保ち、細胞が正常な大きさに維持され、正常に機能するようになります。
2)腎臓が正常であれば一日あたり20〜30gの塩を排泄できます。腎臓が弱ると排泄能力が劣るため細胞外液のナトリウム保持量が多くなり、その濃度を一定値に維持する為に水分保持量が上がり、結果として浮腫が見られるようになります。
それを防止するためには弱った腎臓の排泄能力に見合うまで塩分摂取を控えることで、体内の水分保持量が減少します。
3)食事により摂取された炭水化物は体内での代謝で最終的に水と二酸化炭素になり血中に入ります。
二酸化炭素(炭酸ガス)は酸性ですが、実際の血液は弱アルカリ性(pH7.3〜7.4)です。
これは、ナトリウムが重炭酸塩や第二リン酸塩として存在しており、緩衝作用を持つので酸性にならないからです。
4)胃液の主成分は塩酸であり、C胆汁や膵液の電解質の主成分は重炭酸塩や塩化ナトリウムです。食物の中の塩分で胃液の塩酸が合成されます。
5)神経伝達のしくみは、刺激を受けると神経細胞膜にあるナトリウムチャネルとカリウムチャネルを通じてナトリウムとカリウムが出入りし、活性電位が生じ電流が流れ、刺激を伝達して行きます。
6)ブドウ糖やアミノ酸はナトリウムと結合すると受容体に受け入れられるよう形になり、細胞に吸収されます。
このように塩は様々なところで役割を持っており、必要不可欠です。
極端な【減塩】がこれらの機能を衰えさせることが分かると思います。
●塩と健康
前述のように、「極端な減塩」は悪影響をもたらします。
ここではとかく嫌われがちの塩の影響について述べてみます。
じつは塩が健康を害することは意外にもほとんどなく、大半は塩は関係が無いことが最近明らかになってきています。
人間が生活していく上で最低限必要な塩の摂取量は一日1g程度と考えられています。原始的な生活をおくるヤノマモ・インディアンは塩を摂取しない生活をしていて、自然に摂取する量は1g程度です。高血圧にもならず、加齢による血圧上昇もありません。しかし、寿命は短いです。
国際的な大規模疫学調査を行った結果では、文明人では少なくとも一日6g以上摂取しています。
日本のように塩摂取量が多い国が世界一の長寿国であり、塩と高血圧症との因果関係が明白でない現在、国民全員に減塩を勧める必要はありません。
塩感受性の人に限って減塩を行うのが良いと、国内外で言われ始めています。
塩と高血圧との関係はダールの塩仮説から始まりました。
塩摂取量の変化で血圧が上下する塩感受性の人々はいますが、大半は血圧が変化しない塩抵抗性の人々であることが、半世紀に渡って研究されてきた結果分かってきました。
32ヶ国、52ヶ所、10,000人以上の国際的な調査でも、塩と高血圧の因果関係は弱いことが分かりました。
ちなみに高血圧は遺伝性の疾患ですが、高血圧や塩感受性に関与する遺伝子はまだ発見されていません。
調査の結果、減塩効果は図1のように正規分布で表わされます。

減塩による効果がない人が多く、減塩で血圧降下を示す人々の比率と同じぐらいに、血圧が逆に上がる人がいます。
このことは現在ではあまり話題にされていませんが、減塩が逆に危険となることを示しています。
減塩効果についての論争は30年間に渡って繰り広げられています。
科学的証明がされていない中で、国による減塩の保健政策が行われているのは好ましくない状況であり、批判の声もあがっています。
●塩摂取量の変遷
日本では5年ごとに国民栄養所要量が定められます。
塩の所要量が1979年以来、一日10gを目標値に定められました。
それ以前は15〜20gでした。一時期、11.7gまで低下しましたが、最近では13g弱で安定しています。これは減塩政策が成功していないと言えますね。
アメリカでも減塩政策を進めていますが、最近の報告では摂取量は増加しつつあります。アメリカでも減塩への関心が薄れてきていると言えます。(下図2参照)

●塩の味と健康
塩専売制が廃止されて、海水から塩を製造することが自由になりました。
苦汁(にがり)成分の入った塩がおいしいとマスコミで取り上げられています。
昔は釜で海水を煮詰めて塩を作るとき、母液(苦汁)をあまり切っていない、または煮詰めすぎてにがり分が析出して混じった塩は粗悪とされ、にがりの少ない真塩が品質のよい塩とされてきました。
塩専売制が始まった明治38年から、塩の品質を上げるべく、純度が高く品質の安定した外国の食用塩を目指し、コスト的も海外との競争力を持てるように国内製塩企業の育成が始まりました。
ところが専売制が廃止されたとたんに品質の悪い、にがりの多い塩が高価でもてはやされ、おいしいと騒がれる異常な状態になってしまいました。
塩専売制度が廃止された今、情報が混乱しています。
専売制度が廃止されたら色々な塩が安く供給できるはずだったのが、現時点では種類は増えたけど高価なものばかりという状況で、このような特殊な現象が起こっているのは日本ぐらいなものです。
●塩の役割
繰り返しますが、食塩は調味料として、また食品の保存性を高める上で重要な役割を担っています。
しかも、食塩は人体生理的に不可欠で、ヒトは塩なしでは生きることができない必須のものです。
この人体に必須な食塩が、高血圧の主原因だとされたり、腎臓病や糖尿病に悪影響を及ぼすものとして「悪者」扱いされ、その立場が、必須なものであるにも関わらず「減塩」が健康の近道だと言う風潮が根付いています。
現在では研究が進み、減塩は病を患ってから囁かれるもので、健康人は減塩をする必要性は無いと考えられてきています。
食塩の主成分である塩化ナトリウムを人間に一番近い霊長類「猿」に一生涯食べさせると高血圧になる、とアメリカで発表されています。
しかしそれは塩化ナトリウムだけの場合で、マグネシウムやカルシウムなどが含まれるとその限りでないと現在は研究が進んでいます。
さて、今度は調味料としての塩の役割を見てみましょう。
塩にはもちろん塩味をつけるというのが大きな役割ですが、これ以外には以下の役割を担っています。
| (1) | 防腐作用・・・塩蔵品 |
| (2) | たんぱく質凝固の促進・・・焼き魚、焼肉など |
| (3) | 浸透圧による食品の水分抽出・・・漬物、酢の物 |
| (4) | 酸化酵素(ポリフェノールオキシターゼ)による褐変の防止・・・りんごの褐変防止 |
| (5) | 葉緑素の退色防止 |
| (6) | 小麦粉のグルテン形成の促進・・・パン、あんこなど |
| (7) | ぬめりの除去・・・里芋など |
| (8) | 魚肉すり身の弾力増強・・・蒲鉾、練り製品など |
| (9) | 氷の氷点低下・・・アイスクリーム製造など |
| (10) | ビタミンCの酸化防止・・・ジュースなど |
| (11) | グロブリン系たんぱく質の溶解性向上 |
| (12) | 人体体液の補給として |
案外あたりまえに使っていたことですが改めて列挙すると塩が食生活に浸透しているのが分かりますね。