塩 再考(3)

 

●製塩法の歴史

塩は生命にとって必要不可欠ですから、実のところ有史以前からその歴史は始まります

海岸で製塩したものを内地に運ぶ塩の道というのも存在しました。塩土翁というのが神話の中に出てきます。

日本では気候や国土の条件から、海水を濃くする「採かん」と、それで得られたかん水を煮詰めて塩にする「煎ごう」という工程を組み合わせて塩を作ってきました。

雨が多く天日塩田もできず、岩塩もありません。塩作りには条件の悪い日本において、製塩はチャレンジの連続でした。

日本人の特質ともいえる技術力が育っていったのかもしれません。

採かんの方法は、藻塩(もしお)による濃縮、自然浜、揚浜塩田、入浜塩田、流下式塩田、膜濃縮と変遷してきました。

煎ごう法は、土器製塩、石釜、鉄製平釜、真空式と進歩してきました。


万葉集にも歌われた藻塩による採かんですが、方法については諸説あり正確には分かっていません。

広島では「海人の藻塩」というので観光用に体験することが出来、人気を集めています。

揚浜塩田も今では能登半島にて観光用に今でも行われています。

この能登での揚浜塩田は塗り浜方式というもので、粘土地盤の上に砂を敷いた所に朝に海水を汲んできて撒きます。夕方に砂を集めて砂表面に結晶化した塩を溶かし出します。

入浜塩田は、満潮時に海水を塩田の溝に導き、砂で作った塩田に毛細管現象で海水を導き砂表面に塩を析出させます。この方式は、人手で海水を汲んでくる労力が必要なくなり、生産性が上がりました。

この方式のものは、赤穂海浜公園、波止浜などで再現されています。

さらに技術が発展しポンプを用いるようになったのが流下式です。

傾斜した粘土盤に海水を流して天日で蒸発させ、さらに竹笹などで作った立体式蒸発装置(枝条架)の頂上から海水を落として滴状蒸発させます。
この方式では粘土盤に砂を集めて轢く作業も必要なくなり、さらに労力が減りました。

現在では膜濃縮法が用いられ、海水を濾過し、イオン交換膜電気透析によって濃縮します。+(プラス:正電荷)−(マイナス:負電荷)を持った100万分の1mmの穴があいた膜を交互に並べ、直流電流を流して塩分を移動させ、塩分だけが膜を通過することで濃縮されます。

膜濃縮法が導入されたことで、天候に左右されなくなり、また今まで塩田に使われていた広大な土地が、工業地、住宅地に利用され、経済が発展していきました

経済性向上、生産性向上となったわけですが、今までとは大規模に生活環境が変化し、おそらく大リストラだったでしょう。
言い換えれば今風に言うと痛みを伴う構造改革だったわけです(笑)


煎ごうは、土器製塩は1000年程前になくなりましたが、観光用としては行われています。
石釜は永らく使用されましたが、現在では見ることもありません。
鉄釜は古くは塩釜神社のご神体として残されています。鉄釜の形は大きく変遷してきました。

現在では平釜と言われるものを用い、静置してゆっくりと加熱したフレーク塩(荒塩)や、撹拌して強熱することで生産性を向上した凝集晶塩など、やわらかく溶けやすい塩の製造に使われています。

釜は鋳鉄からステンレスまで多種多様で、形も丸い鍋型、密閉型で撹拌機付き、自動かき寄せ装置付き、加熱部分と結晶化部分を分離させたもの、などなど多種多様です。

やり方によって食塩の大きさ、形、など特性が変わってきます。

世界的に最も普及している煎ごう法は、真空式です。

高さ20mのタテ型の釜を3〜4個並べて行う、大量生産が可能な方式です。

釜の真空度を変えることで、加熱蒸気の2〜3倍の水分を蒸発させることが出来る経済性の高い方式です。

この方式ではサイコロ状の塩が出来ます。


濃くなった塩水を大型の釜で煮詰めて塩の結晶を作ります。
高品位な耐食性材料が使われており、さびなどの混入が一切無く、一般生菌や好塩菌も完全に滅菌されます。

 


●塩市場の主流となる塩

食品加工に使われる大口の塩は、大手国内7社の塩が使われています。

表1 国内大規模製塩7社 (海水原料の国産塩、国内産の99%をカバーする)

会社名 工場所在地 代表銘柄
新日本ソルト 福井県いわき市 新精塩、キングソルト
赤穂海水(株) 兵庫県赤穂市 赤穂塩
錦海塩業(株) 岡山県邑久町 シルバーソルト
ナイカイ塩業(株) 岡山県玉野市 ナルク
鳴門塩業(業) 徳島県鳴門市 うず塩、鳴門食塩、鳴門並塩
讃岐塩業(株) 香川県坂出市 ディーエスソルト
ダイヤソルト(株) 長崎県崎戸町 ディーエスソルト


種類を大きく分けますと、精選特級塩、特級塩、食塩、並塩、白塩、微粒塩、造粒塩の7種類になります。

しかしユーザー(食品メーカー)の要望によりこれら以上の様々な塩が作られています。

国内7社は、膜濃縮と真空式煎ごうの組み合わせで生産しています

食用塩安全衛生ガイドラインで厳しい検査体制が確立されおり、安全衛生管理面では世界最高水準です。

検査合格工場の製品には、下図の認定工場マークが付けられています。

真空式の塩は通常遠心分離機で脱水してにがりの大部分を除きます。

これによってサラサラして大量に使用するのに使いやすくなるからです。



なお、上の7社は小売用小物商品を直売はしていませんんで、小袋の商品には認定工場マークはついていません。

精選塩は専売の流れをくむ塩事業センターから販売しています

これは輸入塩を溶解してにがり分を除き、真空式で再結晶したものです。

精選塩は体に悪いなどという根拠の無い噂が広まっていますが、そのせいか家庭用としての消費量(販売量)は減っているようです。

そのため、食品加工での使用が大部分になってきています。

「あらしお」という商品がありますが、紛らわしい商品名であり混同して解釈されている場合を見かけます。

元々、荒塩と粗塩はどちらも同じ発音ですが、中身は違うものです。

荒塩:フレーク塩のことで、ガサガサに嵩張っているものです。昔からの高級塩。

粗塩:低級塩。にがりの多いもの、またはにがりを加えて差別化したもの。

なお、現在市販されている、にがり添加塩は、塩化ナトリウム純度も高く、不純物(砂、泥)も少なく、昔の高級塩よりも上質です。

フレーク塩(荒塩、フルードセル)は通常静置型の平釜で造られ、溶けやすく、付着性が良く素材となじみ易いので、調理用としては高級塩です。

あらしお磯の華赤穂しぶき瀬戸のあらしお鳴門のあらしおふんわりいそしお海の華 焼き塩キングソルトライト
はにがり含有塩


凝集晶塩は撹拌付き平釜で作られます

にがり分を含む塩が多いです。種類は大変多く、伯方の塩シママース昔塩粟国の塩、などなど家庭用の小物が主流です。

溶解性、付着性、素材とのなじみが良いのが特徴です。荒塩と真空式との中間に位置しますが、特性は荒塩に近いです。

にがり含有塩は製塩の方式に関係なく、釜から出てからの脱水の程度、結晶の形、粒径などによってかなり任意に設定できます。

イオン交換膜を使った膜法の塩や真空式の塩ではにがりが入らず精製塩だという宣伝文句は間違いです

膜法のにがりは完全に濾過されているから透明で、天日塩などでは泥、木材などなどの影響によって茶褐色に着色してしまうだけです。

にがり成分の大部分はマグネシウムで、下図に示すように市販塩は通常マグネシウムとして0.5%以下です。



ミネラルが多い(ミネラルリッチ)という健康上の効果が表現できる水準には程遠いものです。

にがりが多いと直接舐めたときの味に丸みが出るから、料理によっては塩の味が生きてきます。

ただし、にがりは塩結晶表面に付着しているだけですから(塩 再考(1)の図参考)、塩が溶けると味の特徴はあまりなくなってしまいます。

自然塩、自然海水塩、などという様々な名称が氾濫しあたかも良質な塩、健康により塩のイメージで宣伝されています。

これらは販売戦略上の言葉・用語であり、定義もありません。

海水を自然な形で濃縮して作られた塩という意味なら日本で販売されている塩は全て自然塩、自然海水塩、となってしまいます。

にがり含有塩を自然塩、小規模で海水原料で平釜製塩したものを自然海水塩だと、豪語する人・メーカーが多いですが、自社製品の宣伝に使っている用語に過ぎません。

尚、自社製品だけ自然、天然であるとする表記は法に触れる可能性もあります。

国も今の状況を楽観視しているわけではなく、塩の表記について法整備が水面下で進んでいます。

リサイクルマーク、遺伝子組み換え、アレルギー、原産国、賞味期限、内容量、と食品の表示について大きな動きが続いています。

これらが一段落すると塩の表記問題が浮上するのは明らかですので、あと数年のうちに大混乱が起きるかもしれませんよ。



●多様化する塩市場

専売廃止時点で約200社だった加工、小規模生産業者は400社を切っている状況です。

大量生産会社もユーザー要望に従って塩種が増加しました。また30国からも輸入しています。

個別の商品ブランドとなると、200を越すと推測されています。

分類すると下表のようになります。

塩  種

説  明



食塩 海水原料。膜濃縮煎ごう塩、最も一般的な乾燥塩。サイコロ塩。
天日塩 輸入した天日塩の粉砕品
岩塩 採掘した塩と溶かして精製した塩がある。高純度で、溶けにくい。


精製塩 天日塩を溶解し大型缶で再結晶した高純度塩
焼き塩 250〜700℃で焼いた塩。さらさらで固まりにくい。
フレーク塩 平釜炊きの平板状結晶の塩。あらしお(荒塩)。軽く、溶けやすい。
凝集結晶塩 撹拌平釜炊き。サイコロ塩より柔らか。




旨味調味料 食卓用。グルタミン酸、イノシン酸などを添加。
にがり(苦汁) マグネシウムとして0.03〜0.5%添加。粗塩。
カリウム塩 カリウムとして5〜25%添加(調味用塩) 25%以上添加(減塩用)
各種ミネラル 鉄塩、カルシウム。外国ではヨード、セレン、亜鉛など。
食品 各種香辛料、ハーブ、乾燥食品などを添加。


海水平釜塩 海水を濃縮して平釜炊きしたフレーク塩、凝集晶塩。
海水全乾燥塩 噴霧乾燥などで海水塩分を全乾燥した塩。ミネラル豊富。

家庭用小袋は激しい商戦の中で誇大広告、虚偽広告のようなものがまかりとおり、消費者には何が何やら分からない状況になっています。

今後も国内塩・輸入塩が増えると思われますが、今現在では日本に国産・輸入の塩に対しての表示・安全性についての法的ルールが存在せず検査も無く、無法地帯です。

国内大手7社には厳しい検査体制がありますが、それ以外についてはまったくの野放しです。


●近頃話題の塩の種類について

海水全乾燥塩

 スプレー乾燥により海水をそのまま乾燥した塩です。
海水成分のほぼ全部が塩に入っています。いわゆるミネラルリッチ塩の代表です。
雪塩宮古の塩ぬちマースなど。味が濃くクセもあります。


カリウムの多い塩

 塩化カリウムの含有量によって特性が大きく変わります。
10%レベルの瀬戸のほんじお鳴門しっとり塩などは普通の塩と同じように使えます。旨味が出るとも言われています。
20%レベルの良塩低納塩などは味にクセがあります。このレベルまでなら漬物、味噌、などの発酵食品ではプラス効果が期待される場合もあります。
50%レベルのライトソルトパンソルトは塩からやや逸脱した異質の味になります。
高血圧対策の減塩用としての目的がありますが、心臓、腎臓への負担が大きいですから注意が必要です。
医師の指示で使うほうがいいでしょう


海水原料平釜塩
 
 海水を立体濃縮、膜濃縮などで濃縮し平釜で煮詰めた塩です。
小規模製塩として最近急激に増加しています。凝集晶塩が多いですが、フレーク塩もあります。
にがりを多く残して、昔風、手作り、自然力製塩などと特徴付けています。通常の平釜のにじる含有塩と内容的には変わりませんが、一種の贅沢感を含めて、イメージで売っている商品と言えます。
 能登揚浜の塩粟国の塩天草の塩最進の塩海の精、などなど色々あります。


深層海水塩

 水深200m以深の海水を原料とした塩を深層海水塩として販売しています。深層海水(単に深層水とも言います)は親生物元素が多いことが特徴ですが、しかしこれらはほとんどにがりに移行してしまい、塩には入りません。
塩に付着したにがりと一緒に微量のミネラルが取れることも考えられますが、普通の海水(表層海水)から作られた塩と差があるとはあまり考えられません。
深層水のイメージ販売と言えるでしょう。


天日塩

世界各国から様々な種類(品質・形状)の塩が輸入されています。
特に多い中国、オーストラリアのものはそのほとんどが道路用、業務用です。
大きい粒の塩を破砕している為、大粒で溶けにくいのが特徴です。調理用として目新しさで人気があるようです。
しかし、海水をオープンの状態で製造して野積みしていますから、泥をたくさん含んだものが多く、海洋汚染物質を塩に持ち込むことが考えられます
特に雨の多い地域の塩、海洋汚染が進んでいる地域の塩には十分な注意が必要です。まず、色のついた塩、溶かしてにごりのある塩は要注意です。


岩塩

一時、ドイツ、シシリーなどの透明岩塩が流行りましたが、最近は着色岩塩も輸入されています。
また、岩塩を原料とした精製塩、たとえばアルプスの塩などもあります。
採掘して選鉱した塩は非常に硬く、溶けるのが極端に遅いです。
そのため口中濃度が0.2%付近まで落ちで甘味を感じます。口中濃度が0.2%くらいになると塩は甘味として感じる人が多いです。
肉に合うという事も聞きますが、フランス料理にはフランス岩塩、中国料理には四川岩塩、和食には日本の荒塩というように、地元の塩が一番というのが世界共通認識ですね。
間違えてもらったら困るのが、岩塩とは山間部に溜まった海水が凝縮されて塩の結晶が生成されていったものですが、にがり分は先に土中に逃げていきます。もう一度、(1)の塩の結晶のイメージ図を思い出してください。
岩塩は塩(NaCl)の結晶であり、にがりはありませんので、ミネラルは含まれません。(ミネラルたっぷり岩塩という表現はウソですよ)



●さいごに

家庭用の塩は一家に2種類くらいが限度でしょうし、それで全てまかなえます。

料理の味は塩加減であり、そしてタイミングです


塩の味によって料理の味が左右することはあまりないでしょう。

それに料理ごとに塩の種類を変えるとなると、管理が大変で湿気って固まってしまうことも考えられます。
また、塩は使う量が少なく、1kgの塩の滞在期間は2〜3ヶ月と言われています。

ささやかな贅沢感や、こだわりを持つ以外では、汎用性と経済性がよいという点で、食塩のほうがクセの無い味と言うことになりますね。

味は先入観に支配された主観と言うものに大きく関わってきます。

塩が気になったら、盲検で対比テストぐらいしなければならないでしょう。


以上見てきましたように、塩のミネラル分というものは人間が生活していく上ではまず関係ありませんし、塩の種類によって料理の仕上がりに差が出てくることはあまり考えられません。

ですから盲信するのではなく、ちょっとしたこだわりや趣味、贅沢感で商品を選べばいいでしょう

ただし、くれぐれもキャッチコピーを鵜呑みにしたり、輸入塩には気をつけてください。

茶色い色の塩は単に泥の色だということもお忘れなく。

 

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